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朝凪の約束

ご拝読ありがとうございます。

本作品は、最愛の裏切りから始まる、ドロドロとした愛憎と復讐の物語です。

※一部、精神的に辛い描写(NTR・残虐描写等)が含まれます。

復讐の果てに何が待っているのか――主人公の行く末を、最後まで見届けていただければ幸いです。


※なろう様に調整しています。

 俺の名はカイラス。レガリア王国の文官だ。

 城の冷たい執務室で、膨大な書類と睨めっこをするのが日常の、言わば「裏方」の人間だ。

 妻のリリアナは、そんな俺とは対極の存在だ。第一騎士団団長。王国最強の剣士として、その名は他国にまで轟いている。王からも部下からも厚い信頼を寄せられ、彼女が戦場に立てば、兵士たちは勝利を確信するという。

 そんな彼女と俺が結ばれたのは、数年前のことだ。

 当初は単なる仕事上の関係だった。前線の補給計画や、騎士団の規律維持に関する細かな報告書。彼女は無骨な騎士でありながら、誰よりも細やかな戦略を練る才気を持っていて、俺の作る書類の不備を鋭く指摘してきた。何度も何度も言い争い、議論を重ね、気づけば俺たちは城の回廊で、二人だけで夜を明かすようになっていた。

「カイの書く文字は、私の剣よりずっと誠実ね」

 そう言って不器用に笑った彼女の顔が、今でも忘れられない。

 血なまぐさい戦場を駆ける彼女にとって、俺の執務室は唯一、鎧を脱いで息を抜ける場所だったのかもしれない。

 その朝も、いつもと同じ穏やかな空気で始まった。

 窓から差し込む朝日が、テーブルに並べられた焼き立てのパンを照らしている。サキはいつものように、騎士団の制服ではなく、戦場へ向かうための軽装に身を包んでいた。腰に帯びた愛剣が、カチャリと小さく鳴る。俺はその金属音に、いつも一抹の不安を覚えていた。

「リリアナ。今日が魔族との決戦なんだろ?」

 俺が声をかけると、彼女は髪をかき上げながら振り返った。戦場で見せる冷徹な眼差しは消え、そこには俺だけが知っている柔らかい顔がある。

「ええ。長かったこの戦いも、今日で終わりにするわ。魔族の軍勢を叩き伏せれば、もうカイを不安にさせることもなくなる。これでようやく、二人でゆっくり過ごせるわね」

 彼女は俺に歩み寄ると、その華奢な手で俺の頬を包み込んだ。剣を握り続けているとは思えないほど、温かい。

「死なないで帰ってきてくれ」

 俺の言葉に、リリアナは少しだけ拗ねたように唇を尖らせた。

「当たり前よ。あなたを置いて死ぬなんて、私が一番許せないんだから。……ねえ、約束して。私が帰ってきたら、今日は特別な料理を作ってくれるって」

「ああ、約束するよ。一番の好物を用意して待ってる」

「うふふ、楽しみ。……愛してるわ、カイ」

「俺もだ。リリアナ」

 唇が重なる。

それは、世界で一番甘くて、優しい時間。

前略)

「……なあ、カイ」

リリアナが不意に俺の名前を呼ぶ。その声は戦場で見せる威厳など微塵もなく、ただの愛しい妻のものだった。

「今まで、戦いばかりで……私たち、まともな夫婦生活なんて送れなかったわよね」

俺が言葉を返す前に、彼女は俺の手を強く握りしめた。

「だから……お願い。この戦いが終わったら、挙げていなかった結婚式をしよう。二人だけでいい。花嫁衣装を着て、あなたの隣に立ちたいの」

「……ああ。もちろん、喜んで」

俺の言葉に、彼女は愛おしげに目を細めた。そして、さらに一歩、俺の懐へと踏み込んでくる。

「……そしてね。子供を作ろう」

俺は目を見開く。彼女の瞳には、一切の迷いもなく、ただ俺との未来だけが映っていた。

「……ああ、そうしよう。最高の家族を作ろう」

俺は彼女を抱きしめた。この温もりが永遠に続くと、この時の俺は疑いもしなかったのだ。

彼女が騎士団を率いて、城の門を出ていく背中を、俺は最高の幸福に包まれながら見送った。

俺は小躍りするほど浮かれていた。

 その背中が、数時間後、呪いに蝕まれ、俺の指を折り、俺の心を砕くために帰ってくるとも知らずに。

 俺の幸せは、あの瞬間に完成し、そして、あの瞬間に終わりを告げたのだ。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。

「続きが気になる」「復讐の行方を見届けたい」と感じていただけましたら、ぜひ**【ブックマーク】と【評価(☆の数)】**での応援をお願いします!

皆様の応援が、この地獄を歩き抜くための最大の原動力になります。

次回更新も準備中ですので、ぜひお楽しみに!




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