0008 久しぶり
村の入口、彼と初めて会った場所で、僕らは別れを告げた。
「お騒がせしました」「あとは頼んだ」「じゃあね、圭くん」
「ああ、また、いつか」
僕らは、事件を解決したその日のうちに、帰路についた。
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帰り道は、行きと同じように電車に乗った。
行きのときと違うのは、ひとが異常に多いことだろう。
「満員電車寸前って感じ‥」
「近くで祭りがあったみたいだぞ」
「祭り?呑気なものだね」
ガーノはスマホで、情報を集めていた。さすがは機械部隊隊長。ネットサーフィンがお得意なようで。
「あ、ちなみに次の駅がいっちゃん人多いぞ」
「うわ~」
「ヒェ」
「スイ、俺の服にでも掴まってろよ」
「う、うん」
スイは言われた通り、ガーノの上着を握った。…かわいい((
「マカも人混みに呑まれるなよ。お前チビだし」
「余計なお世話だ」
はっ。174cmなんて、ブラッドレインの中だったらまだちっさいほうだろ。158cm舐めんな。スイなんか132だぞ。
「いつぞやのガーノちゃんじゃないんだし、そんなはぐれる訳無いだろ」
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数分後
「あんのチビ、見事にフラグ回収しやがった」
無事、彼女は人混みに呑まれ、どこかへ消えました。
「やっぱ似てるよね、二人」
「どこがだよ」
彼は何かを思い出したというように青ざめた。
「あいつ、駅の場所わからねーんじゃ」
「え、でもスマホで調べれば」
「いいや、あいつのスマホは今…」
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(あんのクソガキ…なんでよりによって今日、スマホぶっ壊すんだよ)
あんな事言わなきゃよかった。きれいにフラグ回収してる場合じゃないんだよ。
ひとまず、見覚えのある駅に降りて、記憶を頼りに帰るか。スイは…ガーノのことだし心配いらないか。
《次は**。**。お出口は、右側です》
確か行きで乗り換えしたのはもう少し先の駅だったはず…
「すみません、降ります」
後ろから聞こえた、その声に反応して、周りの乗客は道を開けようと努めた。
けれど、僕は動けなかった。
その声はたしかに聞き覚えがあって、声の主に掴まれた腕の感覚にも、たしかに心当たりがあったから。
「え?」
泣きそうなほど震えた声が自分の口から発せられ、我に返った。そして、勘違いだろうとその人物の顔を見上げる。
その顔は、想像通り、つり革にぶつかりそうなほど高い場所にあった。そして、真っ赤な血がそのまま変化したような、赤い瞳をしていて、七三分けに整えられた、きれいな金髪の髪をしている。
彼は、ただただ冷静に、レンズ越しに僕の目を見つめ、腕を引いた。
「一度、降りますよ。よろしいですね、マカ君」
その声も、その姿も、温もりも、本物だと理解したとき、僕は一体、どんな顔をしていたのだろうか。
はは…、
考えたくもないな。
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電車から降り、彼にスマホを渡された。
彼は「連れがいるのでしょう?」と一言だけ口にした。電話をしろ、ということだろうな。
まだ、少しだけ震える手で、ガーノの電話番号を、入力する。
ついでに、僕の連絡先を登録しておきたいところだが、怒られそうだからやめておこう。
「想像以上に落ち着いてますね。もう少しテンパるものかと」
「あれでもかなりテンパってたほうだよ」
「本当に落ち着いていますね。あなたはこの手のものが苦手だったと思いますが」
「そうだよ。僕はあれから対して変わってない」
「そうは、見えませんがね」
ちなみに、僕らは今、男子トイレの前にいる。ぎりぎり入ってるけど。一応言っておく。僕は女だ。そして隣のこいつもそのことを知っている。つまり、確信犯((
「今、とても失礼なこと考えていませんか?」
「ごめんって」
「いや事実だろ」
「はい?」
よし、話はできてる。
このままこちらのペースへ持っていこうと思ったが、本当にくだらない言葉しか出てこなかった。「ソッチの様子はどうなんだい?」とか「なんでこんな場所に?」とか、そんな具合だ。でも、どれも今言うことではないような気がして、結局言葉に詰まってしまう。多分この思考もこいつには筒抜けなんだろう。
僕がこんなにも焦って困っていることなんて、きっとそうそうない。多分こいつも楽しんでいるだろう。
「それはもう♪」
「おま、ちょっと黙ってて」
「君が困っているようだから、こっちから話してあげようと思っていたのに」
「どうせ、ろくでもない話しか聞けないだろ」
「それもそうですね」
彼も会話を諦め、しばらくの間、無言が続いた。
手の中のスマホは、最後の一文字が打ち込まれるのを気長に待っていた。
「…僕」
思い切ってこの沈黙を切り裂いた。
「僕、言いたいことも、聞きたいことも、たくさんある。でも…」
詰まりそうな言葉を精一杯絞り出して、言葉にして紡いだ。
「今は、僕のこの状況をなんとかしないと、だよね」
「そうですね」
最後の一文字を、やっとの思いで打ち込み、コールボタンを押した。
スマホを耳に当てようと顔に近づけたところで、彼が、僕の手からスマホを取り上げた。
そして、今まで見たことのない鋭い目つきで、僕を睨みつけた。
「は、?」
「気づいていなかったわけではないでしょう」
コール音が止み、スマホからガーノの声が聞こえたが、すぐに通話が切られてしまった。
「最初から、ずっとあなたは平常ではなかった、ということですか。警戒していたこちらが馬鹿でした」
「まっ、ディt」
「黙りなさい。今のあなたに、名を呼ぶ資格などありません」
彼は心底嫌そうな顔をした。
「彼だったらもう少し手荒でしたよ。ここへ来たのが私で良かった。そうは思いませんか、マカ君」
強い力で、口をふさがれた。正直、抵抗する気力がなかった。
彼の言うとおりだ。僕はずっとおかしかった。
右腕が勝手に動き、彼の手を払い除けた。
「全くだね、僕はどうかしてたみたいだ。冷静だったら、電車の中で君を切りつけていただろうに」
「言ってくれますね」
「こっちのセリフだよ。気づいてないのかい?」
少しだけ、相手が動揺してくれることを願って、悪あがきの言葉を口にした。
「君も冷静さが欠けているんじゃないのかな。だって君が冷静だったら、僕と会話なんて交わしてはくれないだろう?」
彼は、特に動揺しなかった。逆に動揺したのはこっちの方だった。
彼は本当に悲しそうな、嬉しそうな表情で、笑った。
「ああ、本当に。馬鹿ですね。」
彼のその言葉にかき消され、近づいてくるもう一つの足音に気がつけなかった。
ああ、懐かしい顔だな。
意識を失う直前に見たものは、また、僕の想像を超えるものだった。
「…君たち、一体…誰?」
次回『少しの空白』




