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オカルト研究部の幽霊部員  作者: 椎名焔妃
オカルト研究部への道
7/19

部員勧誘の掟


「案外うまくいけそうだね」


帰り際、天月はそう口にした。

俺はチャリを押しながら、それを否定する。


「それは、どうだか・・・」


「顧問の先生も部室も見つかった!あとは部員だけじゃん」


その部員が一番の鬼門なんだよ・・・。


「それにクラスに丁度、二人も部活に入ってなかった人がいたんだよ!これはもう決まったようなもんでしょ!」


それに関しては俺も驚いたが、、、


「いいか、部活入ってないってことは、何かしらの理由があるってことだ。そう簡単にうまくいくはずがない」


「そのネガティブ思考やめたほうがいいと思うな~」


俺がこんなにもネガティブ思考になったのはいつ頃くらいであろうか。少なくとも中学の時はこんなにはネガティブではなかった。

高校生活の青春に憧れ、「自分の行先には希望に満ちている」とむしろポジティブだったはずだ。

それは高校入学と同時に容易く裏切られたわけで、自分に対しての自信が無くなって今に至る、、、んだと思う。


「でも大変なのは間違いない」


「大丈夫だよ!いざとなったら神野先生がいる」


神野先生ね・・・。

俺はあの人が何を考えているのか分からない。なんか妙なこと言われたし。

出来れば頼りたくはない。

まあ、とりあえずはその二人に話してみるしかない。


「で、どうするんだ。勧誘は」


「うーん、じゃ須藤くんにはさわ君が言って!私は城ケ崎さんに言ってみる!」


妥当な判断だと思ったが、一つ気がかりなことがあった。

それは、城ケ崎さんのことだ。

彼女は多分、天月のことをよく思ってはない。

天月の転校初日にはもう不穏なオーラを身体に纏わせていたし、天月に人が集まると不機嫌そうな顔で教室を後にしていたのを俺は見ていた。

城ケ崎さんは天月のことを新たなライバルとでも思っているのだろう。

彼女のライバルは元々高坂さんたちであったが、そこに天月麗奈という美少女転校生が現れた。自分の地位を脅かす存在がまた一人増えたのだ。しかも高坂さんたちがその天月を早々に取り込んでしまった。

カーストが存在するこのクラスにおいて、三つ巴になるかと思われた美少女戦争は、高坂組が天月を吸収したことにより、城ケ崎組を圧倒的不利に落とし込んだことになる。

これで城ケ崎さんが天月のことをどう思っているかなどは、大体分かる。

ちなみに、高坂さんは城ケ崎さんのこと別にライバルだとかは思っていないらしい。


「いや、城ケ崎さんにも俺が言う」


「え?なんで?」


さっき考えていたことはあくまで俺の自論であり、城ケ崎さんが本当はどう思っているかなんて定かではないが、可能性は多いにある。

とりあえず今、天月と城ケ崎さんを絡ませるのは避けたほうがよさそうだ。

しかしこれを天月には言うと、ややこしくなりそうなのでテキトーに答える。


「なんでもだ」


「いいけど・・・。大丈夫?」


「ま、まあ任せろ」


実を言うと、全然大丈夫ではない。

自分から女子に話しかけるなんて、考えるだけでも緊張する。ましてやあの城ケ崎さんだ。

不安でしかないし、勧誘が成功する未来もまったくもって見えない。


「そうすると私、全然やることないね」


「それでいい。時にお前の行動力は迷惑になるからな」


「そうかな~?」


現に俺が巻き込まれている。


「でもダメな時は言ってね、力になるから」


「ああ、もしもの時はな」


力というのは、幽霊的な力か?それならやめてほしいんだが・・・。


「それじゃ、また明日ね」


いつの間にか墓地の前まで来ていた。


「ああ」


「期待してるね~」


そう言って天月は姿を消した。

俺は期待という言葉が大嫌いだ。

勝手に期待されて、それに応えられなかったら失望されるなんて、理不尽極まりないことだ。

しかし、今回の件は「任せろ」と言ってしまった手前、期待に応えられるようにするしかない。





◆◆◆◆◆◆





次の日--------



俺はとりあえず、須藤を部活に勧誘してみることにした。

須藤は俺の後ろの席であり、同じボッチだ。話くらい聞いてくれるだろう。

彼とは会話こそしないものの、体育の授業で二人組を組んだことは何回かある。

須藤悠馬はボッチであるが、顔はなかなかイケメンだ。

一人静かに本を読んでいる姿は様になる。だから誰も声をかけないのかもしれない。

次の休み時間にでも声をかけるとしよう・・・。



そして休み時間。

俺は後ろを向いて、相変わらず本を読んでいる須藤に声をかけた。


「須藤、ちょっといいか?」


声をかけると須藤は顔を上げた。

まず、本題の前に彼に少し探りを入れよう。

彼はいつも本を読んでいるが、その本にはカバーがしてあってどんな本なのかは分からない。


「あー、いつも本読んでるけど、どんな本読んでるんだ?」


「・・・いろいろ」


いろいろってなんだよ・・・。それを聞いてるんだが。


「そ、そうか」


・・・・・・・。


ダメだ。会話にならねえ。本題に入ろう。


「須藤って、部活入ってないよな?」


「・・・ない」


「なんか理由でもあんのか?」


「・・・ない」


お、いけそう。


「俺さ、部活作ろうとしてんだけど、もしよかったら須藤も、、、」


「・・・ない」


なんだ、こいつ。まだ最後まで言ってねえぞ。


「ま、まあ聞いてくれ。その部活っていうのはオカルト研究部でな、もし須藤が興味あったらでいいんだ」


その時、須藤の顔つきが変わった。


「・・・オカルト研究部、、、だと?」


パッと手を離した本の表紙裏の一ページにはこう書いてあった。


『アリストテレスの霊魂論』


まさか、こいつ。オカルト好きか?


「その本・・・」


「そ、そんなことはどうでもいい!今、なんと言った!?」


「いやだから、オカルト研究部を作るって・・・」


「・・・入ろう」


「え?」


「俺はオカルトが好きだ。高校に入ったらオカ研に入ろうと決めていた。しかしこの高校にオカ研はなかった。でも俺には部活を作るなんて勇気もなかった」


須藤は急に饒舌になってそう言った。

そうか。須藤が部活に入ってなかった理由はそれか。


「じゃあ決定でいいな」


「ああ、もちろんだ」


あっさり決まってしまった・・・。


「君がオカルト好きなんて思ってもいなかったよ!え~と、、、景史」


いきなり名前呼びかよ・・・。案外馴れ馴れしい奴だな、須藤。

いままで隠し通してきたことを俺にぶちまけて、吹っ切れたのかもしれない。


「いや、今はあんまり興味ないんだ・・・」


「じゃあなんでオカ研を作ろうと思ったんだ?」


「ああ、それは天月に頼まれてな」


「天月さん・・・だと!?景史、お前まさか幼なじみの天月さんと仕組んで、二人だけの愛の巣を作ろうとしていたのか!?」


なんでそうなる。こいつの思考回路もなかなだな。さすがボッチといったところか。


「そんなんじゃねーよ」


「じゃなんだ?」


天月に弱みを握られたからとかダサくて言えないし、天月が幽霊云々は言えるわけないし・・・。

まあ言っても゛霊魂論゛なんて読んでるやつが信じるわけがないが。

ここはテキトーに、、、


「暇だからだ」


我ながらテキトー過ぎる。


「ふ~ん」


なにやら須藤は含みのある笑みを浮かべている。

腹立つな、こいつ。ちょっとイケメンなのが更に腹立つ。


「ともかくそういうことだ。よろしくな須藤」


「あと・・・」


「ん?なんだ?」


「そ、そのこれはもう友達だよな?」


須藤は確認するように言った。

あー分かるわ。友達かどうか確認しないと不安になる脱ボッチあるあるだな。

でもそのちょっと顔赤らめるのやめてくれ。そっちの人じゃないかって不安になるから。

なら俺も確認しとこう。


「お前はその、そっちじゃないよな?」


俺は手の甲を頬の横で反るような仕草をしながら聞いた。


「そんなわけあるか。俺はオカルトが好きだが、女もまた大好きだ!」


ああ、よかった。でもその発言もどうなんだ。

今までイメージとまったく逆だな。須藤ってやつは。


「じゃあ友達ってことで」


こうして俺は無事、一人目の部員を確保することができた。

おまけに、須藤悠馬という友達までついてきた。

須藤がオカルト好きで、むっつりスケベだったのには驚いたが、元ボッチ同士、気が合いそうだなとは思った。

だが一番の問題はこれからである。

もう一人の勧誘対象である城ケ崎さんのことだ。




城ケ崎紗季はいつも一人の女子と行動を共にしている。

その女子というのは塚井美晴つかいみはるさんという人で、その二人を傍からみれば女王とその家来みたいな関係に見える。

ああいうのもまた友達の一種なんだろうか。

それはともかく、二人でいるところに話しかけるなんて、とてもじゃないが俺には出来ない。

俺は城ケ崎さんが一人になるのを待つしかない。

とはいっても、あの二人いつも一緒にいるため城ケ崎さんが一人になるのは放課後くらいである。

俺は放課後に狙いを定め、いつも通りに過ごしていた。




昼休み。

俺は須藤に気になっていたことを聞いた。


「須藤は昼休みどうしてたんだ?教室にいなかったよな、いつも」


「知りたいか?じゃあついてこい。一緒に食おう」


「おお、そうか」


俺は菓子パンを持って教室を出た。

須藤の後とついていくと、見憶えのある扉の前に着いた。


「ここだ」


須藤は自慢げに言った。

あれ?確かここは、、、


「この先は屋上だよな?出れるんか?」


「いや、無理だ」


そうだよな、がっちり鍵かかってるし・・・。


「ある日俺は考えた。屋上でメシが食えればなって。ボッチの俺でも様になるし、同じことを考えた美少女とばったり会って・・・なんてことも考えていた。しかし無常にも屋上には鍵がかかっていた!どうしたものか・・・と思った俺は考えるのをやめ、ここで昼休みを過ごそうと決めたのだ!」


ここって扉の前か?

・・・やっぱこいつ、なかなか残念な奴だな。

しかし途中までは俺がやったことと一緒だな。俺にはここで過ごすっていう発想はなかったが。


「そ、そうか。でもボッチにはいい場所だな。誰も来ることはないだろうし」


「そういうことだ。じゃあメシを食べるとしよう」


そう言って須藤はその場に座った。

・・・ほこり臭くない?ここ。

とりあえず俺も座る。

もう、いっそ天月を呼んで鍵をぶっ壊してもらおうか、と思うほど居心地は良くない。


「それで、オカ研ってどうなってるんだ?」


ああ、そうか。須藤にまだ詳しいことを話してなかったな。


「えーと、顧問と部室は決まっている。後は部員だけだな」


「そうすると、部員はあと一人か。あてはあるのか?」


「ある」


「誰だ?」


「城ケ崎さん」


「じょ、城ケ崎!?城ケ崎ってあの城ケ崎紗季か!?」


須藤は血相を変えて驚いた。


「そうだけど」


「城ケ崎は無理だろ。あんな冷酷非道な女」


「言い過ぎだろ。確かに俺らにとっては高嶺の花だけど」


城ケ崎さんが美女でモテるからといって、嫉妬で冷酷非道呼ばわりはいくらなんでも失礼だ。


「いや、俺は中学が一緒だったから分かるんだが、奴は冷酷非道そのものだぞ」


「どういうところが?」


俺がそう聞くと須藤はこう続けた。


「城ケ崎紗季は確かに高嶺の花だった。しかし高嶺の花が故にその行動一つ一つがとても目立って噂になっていた。その噂というのが、告ってきた人は必ず振るくせに、奴は周囲の幸せに腹を立てて、カップルがいたら二人の仲も引き裂くように仕向けていたという噂だ。そうしてついたあだ名は、、、」


まさか・・・じょ、、、


「女帝だ」


本当にそのあだ名が存在していたのか・・・。まるでアニメじゃないか。

でも、その噂が本当なら゛女帝゛ではなく゛暴君゛って感じだな。

まあ、所詮は中学生のネーミングセンスってとこか。


「でも単なる噂だろ」


「真実味はある。なにより奴はこんな噂が流れて黙っているような奴ではない」


そうか。仮に嘘の噂だったら何かしらの行動を起こしていたはずってことか。

城ケ崎さんの行動は目立つとも言っていたからな。噂に対しては何もしてないってことは、、、


「マジか・・・」


「まあ城ケ崎も今は大人しいが、いつ本性を現すか分からんぞ」


「でも部活やってないの城ケ崎さんしかいないしなあ・・・」


「・・・まあ頑張れ。俺は別に部活が出来ればなんでもいい」


「・・・そうか」


そうして昼休みが終わった。

城ケ崎さんの冷酷非道な過去を聞いて不安は更に大きく膨れ上がった。




あっという間に放課後。

城ケ崎さんはまだ教室で塚井さんと会話している。

天月が「一緒に帰ろう」と言ってきたが、「今日は先に帰れ」と断った。

ほんとこいつは俺の苦労の知らないで暢気だな。

そして須藤までもが「一緒に帰らないか?」と誘ってきた。

こいつは意外と積極的だな。

気持ち悪いから、じゃなかった「用があるから」と断った。



城ケ崎さんたちが教室を出るのが見えた。

俺は城ケ崎さんたちをストーカーの如く、後をつける。

昇降口を出たところでやっと城ケ崎さんが一人になった。今しかない。

俺は恐る恐る、城ケ崎さんに声をかけた。


「じょ、城ケ崎さん!あ、あのですね・・・」


「・・・」


城ケ崎さんは黙ってこちらを見ている。


「あ、あの。えーとその・・・」


やべえ。言葉が出てこねえ。


「用がないなら帰るけど」


「ま、待ってください!あの城ケ崎さんって部活入ってない、ですよね?」


「入ってないけど。それが?」


こ、こええ。確かに冷徹感はあるな。


「もしよかったら、俺の作る部活に入ってくれませんか?」


「嫌ですけど」


で、ですよね。


「べ、別に名前だけでもいいんです。部活には来なくて構いませんから」


城ケ崎さんは数秒考えてから、


「絶対嫌」


そう言い切って行ってしまった。

これはダメだ。どうやっても彼女を動かせる気がしない。

でも俺はここで諦めることは出来ないのだ。


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