握られた秘密
幽霊がオカルト研究部?なんのギャグだ、それは。
「・・・お前はバカか」
「バカじゃないもん。大真面目だよ」
「なんでよりによってオカルト研究部なんだよ・・・」
「だって私幽霊じゃん。だから私が一番活躍できそうじゃん!!」
いや、その理屈はおかしい。幽霊なら研究される側だろ、普通。
そもそも天月が幽霊だって誰にも言えないんだから、活躍しようがない。
「・・・俺は別にオカルトなんて興味ないからな。あと部活をするつもりもない」
「何言ってるの?部活に入るのはもう決定事項だよ!いい?私はオカルト的な存在であって、さわ君はそれを知るただ一人の存在じゃん!オカルト研究部以外に何があるっていうの?」
天月は得意げにそう言い放った。
部活は強制なのかよ・・・。
なんとかしてこのバカを説得しないと、、、
「いいか。お前という幽霊が存在するって分かった時点で、俺の中のオカルトという概念から幽霊の項目は消えた。つまり、幽霊はもうオカルトではない!そして常識となってしまった今、それに興味などない!!さらに部活にも興味はない!!」
詭弁でしかないが、天月はバカなのでうまく飲み込んでくれと願っていたが、天月はいたって冷静だった。
「でも幽霊だけがオカルトってわけじゃないよ?」
確かにそうだ。昔の血が騒いだのか、その言葉に思わず反応してしまう。
「それはそうだ。オカルトってのはな、宇宙人とか超能力とか妖怪だとか、いわゆる科学じゃ解明できない超常現象ってやつだ。あとはオーパーツだとかもな。それに都市伝説的なものをオカルトっちゃあオカルトだな」
「やけに詳しいね」
俺は一時期オカルトにハマっていたことがある。それは中一くらいの時であった。
「男に生まれたからには、見つからないロマンを追うべきだ」と張り切り、熱心に日々研究の限りを尽くした。いわば、黒歴史だ。
しかし、今もその片鱗は見え隠れしており、幽霊に会ってみたいだとか、宇宙人は絶対いるだとか考えていたのがその片鱗とやらである。
幽霊は見つかったので俺の中ではもう、ロマンでもなくオカルトでもないのであった。
「ま、まあな」
「ふーん、そっか~」と言いながら、天月は辺りを見渡していた。
すると何かに気が付いたのか本棚の方へ近寄った。
「お、おい!あんまりうろちょろするな!」
天月は一冊の本を手に取った。
『オカルト大全集 vol.3 ~UMAのすべて~』
「ち、違うんだ!それは過去の遺産で、今は全然興味な、、、」
「やっぱりさわ君、オカルト好きじゃん」
「だからそれは、昔の話で」
「でもまだまだあるよ?オカルト関係の本」
天月は本棚をあさり続ける。
そうしてまた一冊に本を手に取った。
『シロウト大全集 vol.5 ~本物のすけべ~』
「・・・さわ君。これは・・・?」
ああ見つかってしまった。本棚の本の裏に隠していた、俺が持つ唯一のエロ本が・・・。
ちなみに、パソコンでなんでも出来るこのご時世になんで俺がエロ本を持っていたかというと、その昔、俺がオカルトというロマンを追っていたころ、河原に落ちているエロ本というのもまたロマンとして追っていた。
このエロ本はその時に見つけた、奇跡的に保存状態のよかったとっておきの一冊なのである。故に捨てられず、隠しておいたのだ。
しかし、よりによって天月に見つかってしまった。
ここは誤魔化すしかない。
「そ、それはあれだよ、あれ。゛シロウト゛と呼ばれる不明瞭な属性に対して、果たして本当に彼女らは素人なのかを追及した、いわばオカルト的な、、、」
「エッチな本・・・だよね?」
「・・・・・・はい」
ダメだ。こんなの誤魔化しようがねえよ。
天月は顔を赤らめながら、叱りつける。
「こ、こういうのはね、オトナになんなきゃ見ちゃダメなんだよ!!」
「・・・はい。ごもっともです」
俺は反省というか、自分の詰めの甘さを悔いていると、天月が何か思いついたらしく、なにやら悪い笑みを浮かべだした。
「さわ君。これご家族が見たら、どう思うだろうね?」
エロ本をヒラヒラさせながら、そう言った。
最悪の展開だ。
「・・・・・・」
俺が黙っていると天月は姿を消し、部屋の外に出ようとした。
エロ本だけが宙に浮いているように見える。
もうダメだ。天月に屈するしかない。
「わ、分かった!オカルト研究部な!作ろう!!だから部屋から出ないでくれ!」
俺がそう言うと、天月はポンッと姿を現した。
その顔はとても晴れやかである。
「よろしい」
はあ・・・よかった。いや、全然よくない。
俺は天月に弱みを握られた上で、部活を作ることになってしまった。
はあ・・・もうため息しか出ない。
「・・・とりあえず今日は帰れ、もう用はないだろ」
「うん!じゃあ明日。部活、約束だからね!」
「あーはいはい」
もうどうとでもなれ。
さよなら。俺の至福のアニメタイム。
そうして天月は窓から飛び降り、姿を消した。
俺はエロ本を元の場所に戻し、うなだれていた。
開けっ放しの窓から風がビュービュー入ってくる。
「兄ちゃん、どうかしたー?」
ちょっと騒ぎすぎたのか、日花里が部屋に入ってきた。ノックくらいしろよな。
あと少し来るのが早かったら大変なことになっていたぞ。
「誰かと話してた?」
「ああ電話だ電話。ちょっと白熱してな、すまん」
「まあいいけど。でもなんで窓も開けっ放し?風邪ひくよ?」
もう五月といえど、夜はまだ寒い。俺は窓を閉めた。
日花里は心配してくれるんだな、と思っていたら、
「兄ちゃんに風邪ひかれると、夜ご飯が心配になっちゃう」
まるで自分のことしか考えてない。兄の心配ではなく、メシの心配であった。
されど、妹とはそういうもんである。
兄は常に妹の尻に敷かれ、親の愛情すべて吸収され、挙句、兄より頭の出来がいい。
非常に理不尽だ。
しかしこれらに対して文句が言えないというのもまた、兄のつらいところである。
「あーそうですか。もう部屋から出て行ってくれ」
「はーい」
そう言って、日花里は出て行った。
窓を開けていたからなのか、天月に弱みを握られたからなのか、身体が冷え切っていた。
今日はもう風呂に入って寝ることにしよう。
◆◆◆◆◆◆
次の日-------
俺はいつも通りに登校した。
教室に入ると、天月はもう席に着いていた。
天月の席の後ろを通り過ぎようとした時、
「一時間目の終わった休み時間、あそこね」
と言われた。
あそこというのは、前に俺が連れ出した人気のない廊下の隅のことだろう。
部活創部に向けて話したいことでもあるのだろうか?
そうだ、まだ部活が決まったわけではないのだ。新たに部活を作るというのはそう簡単なことではないはずだ。
まだチャンスはある。最後まであがこう。至福のアニメタイムのために!
そして一時間目が終わり、休み時間。
天月は二人の女子と楽しそうに話していた。
昨日あんだけ集まっていたのに、もう二人になったのか、早いもんだな。
え~とあれは、高坂さんと、、、朝井さんだったかな?
・・・下の名前は憶えていない。
高坂さんは城ケ崎さんと対立する美女の一人であるが、朝井さんも中々の美女だと専ら噂されている。
その二人組は元々クラスでも目立っていた存在であり、そこに顔がいい天月が加われば天下無敵の美女三人組となる。
そう踏み込んで高坂さんと朝井さんは顔に物を言わせて、我先にと天月を取り込んだのだろう。
・・・とボッチの俺はひねくれた思考を唸らせていた。
俺が教室を出て、一足先に廊下の隅にいると、
「ごめんね~ちょっと遅れた」
と天月が小走りでやって来た。
「楽しそうに話してたな。友達になったのか?」
「うん!沙織と綾乃。可愛くていい人なんだよ~」
あの二人の下の名前はそんなんだったか。多分、高坂沙織と朝井綾乃かな。しっくりくるわ。
「そうか。よかったな、いい゛グループ゛に入れて」
クラス内のグループにはカーストが存在していると俺は思う。
当然、俺みたいなボッチはそもそもグループではないので、カーストにすら含まれない最底辺になる。
カーストというのは顔の平均値が高いグループから上になっていくものだ。
クラスという組織は所詮、顔に物を言わせるが勝ちの薄汚い仕組みの上で成り立っていると俺は思う。
高坂、朝井、天月のグループは相当高い位置づけになるだろう。
高嶺の花とはまさにこのことである。
「なにその、グループって?」
「いや、なんでもない」
「そう?じゃあ本題なんだけど、部活を作るにはどうすればいいの?」
そっからかよ。なんも自分で調べねえな、こいつ。
「確か、部員と顧問と部室が必要だったはずだ」
「なるほど・・・。あとは顧問の先生と部室の確保か・・・」
「違うぞ。まず部員は最低でも四人いなくちゃダメらしい」
そう。再度言うが、部活を新たに作るのは簡単なことではない。部員はともかく、顧問の先生だって自分で探さないといけない。部室については、、、心当たりはあるが使えるかどうかは定かではない。
だが、天月はこれしきのことで諦めるような人物、、、いや幽霊ではなかった。
「そうなんだ。じゃあまずは部員集めからだね!頑張ろう!!」
天月は張り切っている。
「そ、そうだな。頑張れよ」
「何言ってんの!さわ君も頑張るんだよ!さもないと・・・」
昨日の悪夢を思いだす。
くそっ!エロ本さえ見つからなければ・・・!
「分かった、分かったよ。でも俺に期待はしないでくれ」
「いや?期待してるよ?」
天月は口角を上げながらそう言った。
俺になにを期待してるんだよ・・・。ろくに誰かと話すことも出来ないのに。
「とりあえず、私は高坂さんたちを誘ってみるね!」
「ああ、そうするといい」
まあでも、無理だと思った。このクラスはほとんどの人が部活に所属している。
ましてやオカルト研究部なんて誰が望んで入ろうか。
部員集めは多分失敗する。逃げ道なんていくらでもある。
俺はまだ、部活に入らないという道を諦めてはいなかった。
三時間目が終わった休み時間、俺はトイレに行こうと教室を出た。
すると教室を出たところで天月に手を引っ張られた。
「ちょっとこっち」
そう言われて、廊下の隅に連れていかれた。
・・・トイレ行きたいんだが。
「なんだよ」
「あの二人、ダメだった!」
だろうな。思った通りだ。
「吹奏楽部なんだって!それに二人が言うには、この学校のほとんどの人はもう部活に入っているから、新しく部員を見つけるのは難しいんじゃないかって・・・」
「ふーんじゃやっぱり部活は諦めて、、、」
「諦めないよ!さわ君やる気あんの!?」
いや、ねえよ。
「部活が作れなかったら、さわ君の秘密をバラしちゃうんだよ、それでもいいの?」
え?そんなことは聞いてない。初耳だ。
え、なに?部活を作れなかったら秘密をバラす?
じゃあ部活を作れない方に逃げたってダメじゃん。むしろゲームオーバーじゃん。
最初から逃げ道なんてなかったのか。くそっ。
「ま、待ってくれ。俺は部活を作るとは言ったが、作れるとは言っていない。作れなかったらしょうがない、それでいいじゃないか」
「ダメだよ、絶対作る」
天月のその意志はとても固いものであった。
さすがに家族にあのエロ本を知られたくはない。
マジか・・・。これで俺も全力で部活作りに励まなくてはいけなくなった。
部活を作れなかったら、俺の家での扱いがさらに酷くなってしまう。
ホントのさよならだ・・・至福のアニメタイム。
「分かった。とりあえず、放課後先生に相談してみよう」
「そうだね・・・。あっお昼はどうする?」
「どうするって俺はいつも通りだが・・・」
「じゃあ一緒に、、、」
「それは無理だ。教室で二人で食ってたら、勘違いされるし。それにお前は友達がいるだろ、そいつらと食え」
「そ、そうだね」
「ああ、じゃ放課後な」
「うん」
そう言って教室に戻った。
あれ?なんか忘れているような・・・?
こうして俺は四時間目を尿意との格闘に費やすことになった。
放課後。
俺と天月は担任の神野先生に相談するために、職員室に向かった。
「先生、ちょっと相談があるんですが・・・」
俺が言った。
「お、どうした?佐和野。それと・・・天月か。」
「あのですね、、、」
と俺が話を切り出そうとすると、先生がそれを遮った。
「聞いたぞ。お前ら幼なじみなんだってな。すごい偶然だな」
「ま、まあそうですね」
実際は幼なじみでもなく、偶然でもない。
「で、相談ってのはなんだ?」
先生がそう言うと、天月がそれに答えた。
「私たち、部活を作りたいんです!」
「ほう、それはいいことだな。佐和野にとっても」
先生は俺の方を見た。
「え?俺ですか?」
「君はいつも一人でいただろう。部活に入れば、友の一人や二人出来るんじゃないか?」
「そうなんです!このままじゃさわ君の青春は真っ暗なんです。だから部活を作りたいんです!」
天月が先生に熱弁する。
余計なお世話なんだよなあ・・・。
「なに部を作るんだ?」
「オカルト研究部です!!」
先生は少し間、黙っていた。
「・・・そうか。それで進境はどうなんだ?」
「まだ部員も集まらなくて、顧問の先生もそれに部室だって・・・。それで先生の力をお借り出来ないかと思いまして・・・」
「よし!じゃあとりあえず、顧問は決定したな」
「「え?」」
「私が顧問をやってやる。今まで顧問というのは面倒くさくて断ってきたが、オカルト研究部?なら楽そうだしな。それに私のクラスの生徒だ、力になってやる」
「ありがとうございますっ!!」
天月が嬉しそうに言った。
「部室についてなんだが、、、どっかにあるかな?」
「俺、ちょっと心当たりがあるんですが」
「ん?どこだ?」
「東校舎四階の一番端に空き教室みたいのがあったんですけど・・・」
「あーあったな。そういえば。よく知っていたなそんなとこ」
昼休みに学校中をぶらぶらして過ごすハメになった時、俺はその空き教室を見つけていた。
「多分部室はそこで問題ないだろう。あとは部員だな。部員は今のところは二人だけか?」
「そうなんです!!もうみんな部活に入っちゃてて・・・」
「この高校の部活動は活発だからな。でもうちのクラスには君たち以外に部活に入ってない生徒がもう二人いたはずだ。まずはそいつらを誘ってみたらどうだ?」
いたのか・・・俺以外に部活に入ってなかった人。知らなかった。
「誰なんです?」
「須藤悠馬と 城ケ崎紗季だ」
須藤、、、俺の席の後ろにいる奴だ。彼は俺同様ボッチであり、いつも本を読んでいる。
城ケ崎さんは部活に入ってなかったのか。意外だな。
「私に出来るのはこれくらいだな。後は、部員が決まったらまた言ってくれ」
「ありがとうございます!!」
そう言って天月は頭を下げた。
「あ、あざっした。失礼します」
俺もこう言って先生に背を向けようとすると、
「ちょっと、待て。佐和野」
と呼び止められた。
「な、なんですか?」
「私はな、君たち幼なじみが一緒に部活を作ろうとしている時点で、青春を謳歌していると思うんだが、君はどう思う?」
「別になんとも思ってないですけど・・・」
先生は疑うような目をしていた。
「そうか。でもよかったな天月がいて。彼女がいなかったら、君はずっと一人だったろうしな。私は心配していたんだぞ、君の担任として」
「そ、そうですか」
「それとな、須藤悠馬、あいつもいつも一人でいる。彼を是非、オカルト研究部に入れてやってくれ。よろしく頼んだぞ」
「は、はあ・・・」
「じゃあ終わり、帰っていいぞ」
「では失礼します・・・」
そうして俺は職員室を出た。
職員室を出ると、そこに天月が待っていた。
「一緒に帰りましょう!」
そう言っている顔は、いかにも機嫌が良さそうである。
゛部活を一緒に作っている時点で青春を謳歌している゛か・・・。
実際、天月が言う楽しい青春とやらには確実に近づいているとは思う。
しかし、天月は幼なじみでもなく、その実は幽霊なのである。
幽霊と青春を謳歌出来るかどうかは、誰も知らないし知りえないことだ。
気にしていても答えは出ない。今は目先の課題に務めるとしよう・・・。




