やっぱり諦められないシリーズ
しかし今日の部活もまだまだこれからである。
佐伯さんの相談事の件は部活開始から三十分くらいで終わってしまった。
つまり、これからは新たな相談者を待ちながら、オカルトの研究かアニメ談義をすることになる。
まぁ、オカルトの研究はほぼないと言ってもいいだろう。
だって、天月と城ケ崎はさっそくアニメの話してるし・・・。
こいつら、仲いいの?悪いの?どっちなの?
そんな中、須藤は天月に返してもらった本を読んでいた。
てかこいつもこいつで研究する気あるの? 行動力ないなぁ・・・。
それは俺が言えたことじゃないか。
俺はというとボッーとスマホを眺めていた。
・・・帰りたい。
「なあ、佐和野。お前は主要人物が三話あたりで突然死ぬアニメをどう思う?」
城ケ崎が俺に話しを振ってきた。
主要人物が三話あたりで突然死ぬアニメ? ああ、あるなそういうアニメ。
いきなりシリアス展開になるやつな。
「俺は面白ければ、別に、、、」
面白ければなんでもいい。作画も、キャラデザも、演技も。ストーリーが面白ければそれでいい。
なんなら全部ぐちゃぐちゃでも、それはそれで面白いので見るまである。
そう、どんな意味であれ面白ければそれでいいのだ。
「・・・ふ~ん、あたしはすごい好き」
あ、そうですか。
すごいどうでもいい。
「私はあんまり好きじゃないけどなぁ・・・」
天月は否定した。
「は?なんで?」
「だっていきなり死んじゃうんだよ?可哀そうじゃん。そのキャラが好きだった人も、そのキャラクター自身も」
「まあ、それはあるけど、そこがいいんじゃん」
「死んでいいことなんて一つもないよ!」
ちょっと大丈夫ですか?天月がそれ言うと、この部活がいきなりシリアス展開になっちゃうんですけど・・・。
「どんな展開が好きだなんて人それぞれだろ。不毛だぞ、この争いは」
俺はその展開を阻止すべく、二人に言った。
「でもアニメ談義なんてそんなもんだろ」
・・・それもそうだな。
じゃあ、いっそこの不毛過ぎるアニメ談義なんてやめて、オカルトの研究をすればいいんじゃね?と言いたかったが、それを言うことは出来なかった。
行動力ぅ・・・ですかねぇ・・・。
そうして今日の部活は終わった。
◆◆◆◆◆◆
その夜。
俺は自室でネットサーフィンをしていた。
ネットというものは実に飽きないものである。
時間なんてあっという間に過ぎてしまう。なんかテキトーにwikiまわってたら二時間くらい経っているなんてザラにある。あと、マップとかな。俺だけかも知れんが。
『コンコンコンコンコンコン』
と窓がノックされた。
・・・天月だな。また来やがった。
「はあ・・・」と立ち上がり鍵を開けてやる。
「なんの用だ?」
俺は部屋に入ってきた天月に聞いた。
天月は「えへへ」と笑ってこう言った。
「私、やっぱり佐伯さんの相談事はキチンと解決してあげたい!」
出ました!やっぱり諦められないシリーズ。もう第何弾だよそれ・・。
「そうは言ってもだな、、、」
「だってオカルト研究部、記念すべき最初の相談事だよ!」
なにそれすっごい矛盾してる。
「じゃあどうするんだよ。一条は教えてくれないんだろ?」
「それをさわ君に聞こうと思って、、、なんかない?いい案」
「俺にもどうしようもないぞ」
「そこをなんとか~」
天月は駄々をこねるように言った。
「う~ん・・・。じゃこういうのはどうだ」
俺がそう言うと、天月は目をキラキラさせてこっちを見た。
いや・・・その期待に応えられるかは微妙だぞ・・・。
「なになに!?」
「こほん、それはだな・・・。この問題は一条がなぜ好きなタイプを教えてくれないのかと言うところにある」
「うんうん、それで?」
「え~とだな、一条が好きなタイプを人には言えないわけは、好きなタイプが特殊すぎるからだ。つまり一条はどうしようもない変態であることが考えられる」
「・・・それで?」
「しかし一条はその真面目さ故に、嘘をつくことが嫌なのであろう。ということで一条は好きなタイプを誰にも言うことが出来ないことになる。変態ということがバレてしまうからな」
「・・・・・・」
天月は黙っている。
あれ?ちゃんと話聞いてた?
この考察は割りと自信あるんだが。
まぁ、そうであって欲しいという願望も多少はあるが。
「さわ君・・・それ、本気でいってるの?」
天月は失望したような目で言った。
「え?まあ・・・」
「・・・じゃ、じゃあ聞くけど、仮にそうだったとして佐伯さんには何て言うつもりなの?」
「それは・・・一条はとんでもない変態だったから好きになるのはやめたほうがいいぞって、、、」
そもそもこの相談は、佐伯さんが一条のことを好きだということの上に成り立つ。
ということは、佐伯さんが一条のことを好きでなくなれば、一条の好きなタイプなんてどうでもよくなるわけだ。
つまり、佐伯さんの相談事を根本から潰してしまおうという案だ。
「そ、そんなのダメに決まってるでしょ!さわ君は何も分かってない! ・・・そんなの佐伯さんが可哀そうだよ」
まぁ、そうなるよな・・・。
だからどうにもならないんだって・・・。
「じゃあどうするんだよ」
「それは、、、」
「ないだろ?もういいじゃないか。一条の好きなタイプは分からなかったということで」
「・・・分かった。じゃあさわ君が一条君に聞いてみて?それでもダメだったら諦めるよ」
は?それ意味あんのか?
天月がダメだったのに、俺が聞き出せるわけがない。
「なんでそうなる・・・」
俺は呆れて天月にそう言った。
「いや、分かんないよ!さわ君なら、聞き出せるかも、、、」
はぁ・・・。これはやるしかない展開だ・・・。
だったら、パッパッと聞いて天月を諦めさせるとするか・・・。
「・・・分かった。でも期待するのはするだけ無駄だぞ。多分、結果は変わらない」
俺が天月にそう言うと、天月は笑顔を取り戻し、
「うん!ありがとう!期待してるね!」
いや、だから・・・。
「じゃあ、また明日!」
と天月は窓から飛び降り、姿を消した。
結局、こうなってしまうのか・・・。
゛天月が窓から現れた時は、ろくなことがない゛これだけはハッキリした。
◆◆◆◆◆◆
次の日。
俺は一条に話しかけるチャンスをうかがっていた。
パッパッと聞いて終わり!と思っていたが、実際にはそもそも聞く隙がない。
教室では常に誰かといるため、近づくことすら難しい。
あとは、その内容だ。
一条に聞くことは「好きなタイプはどんな人?」という質問だが、これを面識のない奴がいきなり聞いてきたら、一条とその周りにいる奴らはどう思うだろうか。
普通ならば、一条に気があるんかな?くらいの反応だろうが、それは質問したのが女子の場合である。
俺は男子である。まぎれもなく身も心も男子である。しかもカーストの最底辺でもある。
そんな奴が一条に「好きなタイプはどんな人?」という質問をしたら怪しまれるどころか、女子にはキモがられ、男子にはからかわれ、そして俺の高校生活は終わりを告げてしまう。
そうならないために、俺は一条が一人になるチャンスをうかがっていた。
・・・城ケ崎の時と同じだな。
でも一条は男子だ。休み時間でも奴が一人になって話しかけられる時がある。
・・・それはトイレに行く時だ。
しかしトイレで立ち小便をしながら話すのも嫌なので、一条がトイレを終え、教室に戻る途中の廊下で話しかけることにした。
休み時間。
一条は一人で教室を出た。
・・・よし、今だな。
俺は一条の後をつけ、トイレの前で一条を向かい討つ。
・・・と一条がトイレから出てきた。
「な、なあ一条。ちょっと話があるんだが、いいか?」
「え~と、僕に何かようかな?・・・佐和野」
一条はハンカチで手を拭きながらそう言った。
・・・イケメンだな、クソッ!
「一条の好きタイプってどんな人だ?」
何の捻りをなく、ど直球に聞いた。
「・・・天月さんにも、そんなことを聞かれたんだが、君たちは何か繋がっているのかな?」
昨日の今日だからな。そう思うのが当然だろう。
「ま、まあ同じ部活だからな」
「そうだったのか。それはなんて言う部活?」
「・・・オカルト研究部だ」
「オカルト研究部・・・。それでなんでオカルト研究部が僕の好きなタイプを調べているんだ?」
それも当然の疑問だよな。
「それは、、、なんでもいいだろ。ともかくお前の好きタイプを教えてくれ」
オカルト研究部が゛なんでも相談室゛だからだ。とは言えない。
意味分かんないだろうし、笑われそうだし。
「・・・そうか。だが、僕の好きなタイプは誰にも言えない」
「付き合って人はいないんだよな?」
念のため聞いてみる。
「いない」
「じゃあ好きな人は?」
・・・なんか聞いてて気持ち悪くなってきた。
どんだけ俺は一条のこと知りたいんだよ、恋する乙女か。
「それも言えない」
なんでだよ。いるかいないかも言えないのかよ。
ガード固過ぎだろ、こいつ。
そうだ!この際、、、
「じゃあ、別に嘘でもいいんだ、テキトーに言ってくれないか?」
「僕は嘘をつきたくはない」
これもダメか・・・。
しかし、一条は嘘をつくのが嫌という俺の予想は当たっていたなようだな。
見たか!俺の人間観察力!!
・・・まぁそれはさておき、もう無理だな。天月と佐伯さんには申し訳ないが、やはり俺に、一条の好きタイプを聞き出すこと出来ないようだ。
「・・・そうか。分かった」
「じゃあ僕は教室に戻るね」
「ああ」
゛誰にも言えない゛か・・・。
・・・ん?゛言えない゛?゛誰にも言わない゛ではなく゛言えない゛・・・?
あっ、と俺の中で一つの仮説が浮かび上がった。
ちょっと確認してみるか・・・。
「おい!一条!ちょっと待ってくれ!」
俺は一条を再び呼び止めた。