オカルト研究部の創部
翌朝、俺は重たい瞼を無理やりこじ開け、ベッドから上半身を起こした。
はあ・・・ベッドから出たくねえ。
早すぎる・・・もう終わってしまった、俺のゴールデンウィークがああああ!!
と、癇癪をおこしてもしょうがないので学校へ行く支度をする。
リビングに降りると、日花里も朝メシを食おうとしているところだった。
俺も椅子に座って、食パンをかじる。
「兄ちゃん、おはよ」
「ああ、今日は朝練ないんだな」
「ん、合宿だったからね」
「そうか、でも大変だな部活」
「楽しいから平気!兄ちゃんもなんか部活やればいいのに」
「楽しいか?部活なんて」
「楽しいよ!」
「・・・そうか」
おそらく今日、俺は部活に入ることになる。
そりゃ自分の好きなことだったらさぞ楽しかろうが、興味のない分野の部活なんて拷問以外のなにものでもない。
「さて・・・行くか」
ぼちぼち学校へ行く時間である。
「あっ、兄ちゃん。途中まで一緒に行こうよ」
「ああ、いいけど」
そう言って俺は日花里とともに玄関を出た。
・・・と家の前にはなぜか゛奴゛がいた。
「さわ君、おはよう!一緒に学校行こうと思って来ちゃった」
天月麗奈だ。
幽霊は突然現れるとか言ってたけど、いくらなんでも突然すぎるだろ。
俺が唖然としていたら、日花里が口を開いた。
「兄ちゃん、誰!?」
「あー、こいつはだな、、、」
ああ、ついに日花里が知ってしまう。天月という悪霊に。
まためんどくさくなりそうだ・・・。
「あれ?そちらの可愛い子はもしかしてさわ君の妹?さわ君、妹がいたの?可愛い~」
天月も俺の妹のことは知らなかった。
というか、絶対に知られたくなかった。
「私、天月麗奈っていうの。よろしくね!え~と、、、」
「日花里って言います」
「日花里ちゃん!可愛い~」
天月は日花里を撫でている。
日花里もまんざらでもなさそうだった。
「それで兄ちゃんと麗奈さんはどういう関係なの?」
いきなり名前呼びかよ。
日花里は俺と違って、コミュニケーション能力も高い。
というか、俺が日花里に勝っているところはないといっても過言ではない。
それくらい格差があるからこそ、理不尽という考えが俺に生まれたのだ。
まあ、嫌いじゃないんですけどね。
「それはだな、、、」
と俺がテキトーに返そうとすると、それを遮るように天月に口が開いた。
「えーとね、私とさわ君は~幼なじ、、、」
俺は天月が言おうとしたことを瞬時に察し、天月の口を塞いだ。
あ、あぶねえ・・・。
バカかこいつ。
その間、日花里は首を傾げていた。
俺は天月をちょっと離れたところまで連れていき、耳打ちをした。
(妹に幼なじみの設定が通じるわけないだろ)
(あっそうか)
(お前はもうちょっと考えてものを口にしろ)
さすがにバカが過ぎる。
(じゃあなんて言うの?)
(友達でいいだろ)
「ねえ、何してるの?」
あやしく思ったのか、日花里がこっちに来てしまっていた。
「ああ、俺たちがどんな関係かって話しだよな?」
「うん。そうだけど」
「それはだな、ただの友達だ。それ以上でもそれ以下でもない」
「そうなんですか?」
日花里は天月に聞いた。
「そ、そうだよ~」
ふう・・・。よかった。
・・・いや、よくねえわ。日花里に天月という存在がバレたのには変わらない。
「ふ~ん、でも兄ちゃんこんな可愛い女の子の友達いたんだ~。なんで隠してたの?」
「別に隠してたわけじゃない。言う必要なんてないだろ」
出来れば、ずっと隠しておきたかった。
「さわ君!可愛いだって!私、日花里ちゃんのこと好き!」
そうですか。相変わらずちょろいですね。
日花里にバカがうつるんであんまりベタベタしないでほしいんですけど。
「ってかもう行くぞ。遅刻する」
「あっそうだね。行こっか、日花里ちゃんも」
「はい!麗奈さん!」
もう仲良くなってやがる。
俺を差し置いて二人で談笑しながら歩いている。
はあ・・・先が思いやられる。
「うちの兄ちゃんは、学校ではどうですか?」
「んー、さわ君はね、大人しいかな。でも最近、友達が出来たみたいだよ」
「それは麗奈さんのこと?」
「違うよ、私は一番最初の友達。今回は男子の友達」
「じゃあ麗奈さんが友達になる前の兄ちゃんって、、、」
「ボッチだったよ」
「・・・なんかすみませんね。お気遣いありがとうございます」
「えへへ、いえいえ」
こんな会話が聞こえてきた。
ああ、ボッチだったことが日花里に知られてしまった。
「それでね、私とさわ君で部活を作ることになってね、、、」
「兄ちゃんが部活!?あんだけ興味なさそうだったのに」
「そう!それで部活作るってなっても、部員が足りなかったんだけど、さわ君が『俺に任せろ』って集めてくれて部活が作れるようになったんだ~」
「兄ちゃんが『俺に任せろ』!?・・・それもすごいですね」
「えへへ、そうでしょ?」
部活についても話しだした。
なんでも喋るなこいつ・・・。
ってか脅されていたようなもんだしな、そりゃ俺だって必死になる。
「なんて言う部活なんです?」
「オカルト研究部だよ」
「ああ、確か兄ちゃん一時期ハマっていたっけ。『見つからないからロマンなんだ!』っとか言って」
「え~なにそれ」
天月は笑っている。
・・・やめてくれ、俺の黒歴史を掘り起こさないでくれ。
「あっ、じゃあ私はこっちなんで!」
「じゃあね!日花里ちゃん」
「はい!あ、ダメな兄ですけど、よろしくお願いしますねっ麗奈さん!」
「もちろんだよ!」
ダメなは余計だろ。地味に傷つくんですけど。
しかしここからは二人か・・・。
ぼちぼち同じ高校の生徒が見受けられるようになってきた。
あんま見られたくないな・・・。
「さわ君の妹、可愛いね!」
「まあな」
可愛いに対して否定はしないが、問題は小生意気な性格にある。
「それで部活はどうすればできるんだろ?」
「とりあえず、神野先生に部員が揃ったって言えばなんとかなるだろ」
「いつ言う?」
「放課後でいいんじゃないか?」
「じゃそうしよう」
と会話をしているうちに学校の近くまで来ていた。
・・・本格的に生徒が多くなってきたな。
う~ん、、、
「ちょ、ちょっと間隔をあけよう」
「え?なんで?」
そんなのクラスの誰かに見られたくないからに決まっている。
幼なじみっていう設定がある以上、そんなに変には見られないとは思うんだが、誤解をするバカがいるかもしれない。
それに、天月は容姿がいいから目立つ。そのせいで隣にいる俺が悪目立ちするも癪だし、男子共の嫉妬が突き刺さってくるのもごめんだ。
なのでこっから先は別行動するのが好ましい。
「誤解されたら困る」
「誤解?・・・あ~そういうことか」
天月は珍しく察した。
「じゃあ先行ってくれ」
「もうっ分かったよ」
そう言って天月は一人で歩きだした。
去り際に「別に気にしなくてもいいのに・・・」と呟いていった。
俺が気にするんだっての。
そこから俺は天月の後ろ五メートルくらいを歩いて、学校に着いた。
◆◆◆◆◆◆
俺から見るに、城ケ崎さんに大きな変化はなかった。
自分がアニメオタクである秘密をクラスメートである俺や天月に知られていても、いつも通りの威厳を保っていた。
変化といえば、俺と目が合うとすぐに目を背けることくらいであろうか。
・・・これにいたってもいつも通りだったな。
まあ俺と目が合った女子なんてそうするのが普通のことだ。
というか目が合ったら背けずに、そのまま見つめ合うなんて奴らなんているんだろうか。
いるんだとしたら、それは変態か、もしくはその二人はすでに恋人同士か、といったところであろう。
よって、俺と目が合った女子が不自然に目を背けるのは、避けられてるとか、嫌われてるとか、キモがられているとか、そんなことは断じてない!・・・と思いたい。
天月は城ケ崎さんに話しかけたいようで、休み時間の度に高坂さんたちと一緒に城ケ崎さんの席に赴いていたが、軽くあしらわれていた。
天月一人ならともかく、高坂さんたちと一緒にってところが最高にバカだと思う。
そんなの状況で城ケ崎さんが素直に話してくれるとは思えない。
一連のやり取りはこうである。
天月 「城ケ崎さん!私たちと友達になりましょう!」
高坂さん 「城ケ崎。私たちは別にあんたをライバルだとかは思ってないぞ」
城ケ崎さん 「そ、そんなことはどうでもいい」
朝井さん 「じゃあこれからは仲良く、、、」
城ケ崎さん 「それはできない」
天月 「なんで!?」
城ケ崎さん 「私が友達になりたくないからだ。そこに理由なんてない」
天月 「でも私と部活、一緒にやるんだよ?」
城ケ崎さん 「部活に友達かどうかなんて関係ないだろ。それに私は部員にはなってやるが、部活には行かない」
天月 「そんなこと言わずに、、、」
城ケ崎さん 「・・・・・・・」
高坂さん 「・・・もういいよ。行こっ麗奈」
天月 「・・・うん」
とこんな感じであった。
俺が気になったのは、城ケ崎さんと友達であるとされる塚井さんが、終始、口を開くことがなかったということだ。
彼女は天月たちをどう思っているのだろうか。
そもそも塚井さんが、ほかの女子と話しているのを少なくとも俺は見たことがない。
やはり天月たちをライバルだと思っているのか、それとも城ケ崎さんとは逆で仲良くしたいと思っているのだろうか。
城ケ崎さんがいくら彼女に何かを吹き込もうとも、その実の心中は、城ケ崎さんですら知りえないことであろう。
まあ、俺が気にすることはないか。あんまり入り込むとまた面倒ごとになりそうだ。
昼休み。
俺は須藤に誘われて埃くさい屋上への扉の前に来ていた。
ここでメシを食うのは落ち着くようで落ち着かない、そんな場所である。
「で、景史。部員はどうなったんだ?」
須藤が聞いてきた。
「ああ、決まったよ。城ケ崎さんに」
「・・・マジか。大丈夫なのか?」
須藤はとても驚いている、というか怯えているような感じだった。
「なにが?」
「城ケ崎だぞ。何か裏があるんじゃないか?」
裏かぁ・・・。でもそれは考えたことなかったな。
もと゛女帝゛、、、もとい暴君の如く、部活を中からぶっ潰してくるかもしれないということだろうか。
・・・それは俺と天月が彼女の秘密を握っているので心配する必要はなさそうだな。
それと城ケ崎さんは部員であっても部活には来ない。
「ないだろ。城ケ崎さんには部員にはなってもらったけど、部活には多分来ることはない。本人がそう言ってる」
「そうか、でもすげーな。あの城ケ崎が人の頼みを聞くなんて・・・」
「そ、そうだな。運がよかった」
「運?」
「あ、いや、なんでもない」
「ん、そうか。まあでもこれでオカ研は作れるんだよな?」
「そうだ。だから今日の放課後、顧問になってくれる神野先生に言いに行く。須藤も来い」
「え?顧問の先生って神野先生なのか!?」
ああ、言ってなかったっけ。
「そうだけど」
「おい、それもまたすげーな!その美貌から繰り出される生徒を叱りつける声は男子たちに変な性癖を植え付けるとされる、我がクラス担任の神野教子先生が顧問だとは・・・」
須藤って思ったよりだいぶ変態だな。これはもうむっつりというレベルじゃない。
そんなことを思っているのは須藤だけ、、、ではないな。男子の中に恋心を抱いている人はいると噂で聞いたな。性癖がどうとかは知らんが。
「待てよ、冷静に考えると、オカ研すごくねえか?」
「なにがだ?」
「だってよ、クラス、いや学年一を争う美女が二人いて、顧問が神野先生だぞ!」
まあ城ケ崎さんは来ないけどな。
「こんなの、仮に合宿でもやったら、、、」
とここで須藤は妄想の世界にでも入ったのか、黙ってしまった。
しかし須藤、よく喋るな。教室ではほとんど喋らんのに。
だいたいオカルト研究部の合宿ってなにすんだよ。することねえだろ。
・・・でも天月ならやりかねないな、青春バカだし。
そんなこんなでもう昼休みが終わろうろしていた。
俺は須藤を妄想の世界から引きずり出し、教室に戻った。
放課後。
俺は城ケ崎さんにも「職員室に来てほしい」と一応誘ったが「大事な用がある」と断わられてしまった。
゛大事な用゛というのは早く家に帰って昨日のアニメが見たいのだと思う。
なにしろ俺も同じである。早く帰ってアニメ見たい・・・。
しょうがないので、俺・天月・須藤の三人で職員室の神野先生のところに向かった。
「先生、部員集まりました」
「おっ早かったじゃないか」
「ええ、まあ」
「えーと、まずはお前、佐和野だろ?そして天月。んで須藤か。あれ?あと一人は?」
「城ケ崎さんなんですけど、今日は用事があるみたいで、、、」
「そうか。でもよく揃ったな、やればできるじゃないか佐和野」
「そうなんですよ!さわ君が頑張ったんです」
運がよかっただけなんだけどな。
須藤は偶然オカルト好きだったし、城ケ崎さんは偶然アキバで出会って秘密を知ったし。
「まさか、須藤はおろか城ケ崎まで部員に引き入れるとはな、ただのボッチではなかったようだな」
「ははは、そ、そうですか・・・」
「そうだ。もっと自分に自信を持て」
「は、はあ」
こんなんで自分に自信がつくとは到底思えない。
「よし!じゃあ先生が部活の申請をしといてやる。お前らは部室でも見に行ってくるといい。ほれっ鍵だ」
そう言って先生は俺に鍵を渡した。
「あとで私も行く。それまで待っとれ」
「はいっ。分かりました」
天月がそれに答えて、俺たちは職員室を後にした。
そして部室となる東校舎四階にある空き教室へ向かった。
「へ~こんな場所あったんだ」
須藤が口にした。
空き教室は後ろにたくさんの机が積まれていて、前の方には大きなスペースができていた。
「しっかし景史。やっぱ神野先生やべえな」
「もういいよ、それは・・・」
「え~何がヤバいの?須藤君?」
天月が須藤に突っ込んだ。
「ええっと、それは、、、えーと、、、まあ・・・」
須藤、全然喋れてないぞ。
やっぱこいつも女子とか苦手なんだな。多分、俺以上だなこりゃ。
どもりすぎだろ。引くレベルだぞ。
「あーとりあえず、机を出しとこう」
俺は話しを逸らすように言った。
「あっうん。そうしとこうか。机は四つだね」
「そうだな」
とここで何かあったのか、須藤が俺に耳打ちしてきた。
(四つ?城ケ崎が来ないなら三つでいいんじゃないか?)
ああ、そういうことか。
(いや一応、四つにしとこう)
多分、天月は城ケ崎さんをどうにかして部活に来させようとしている。
それがいつになるかは分からんが、このまま諦める奴ではない。
俺たちが机を出し終わったころ、先生が部室に入って来た。
「おおー、いい感じじゃないか」
大きくあいたスペースの窓側に机を四つ、テーブルのようにくっつけた。
「それで、部長は誰になるんだ?」
部長・・・。決めてなかったな。
まあ天月でいいだろう。
「それは、天月でお願いします」
「え?私っ?」
「お前しかいないだろ」
「じゃあ天月っと」
「・・・出来るかな」
「大丈夫だ、天月。部長なんてそんなに責任があるわけじゃない」
「そ、それなら」
「よし」
これで部長は決まった。
「それと、活動内容なんだが、、、」
「オカルトについての研究ですねっ!」
須藤が意気揚々と答えた。
自分が好きな分野ならペラペラ喋れるタイプかこいつ。
そりゃ友達出来ないわ。
「名目上はそうなんだが、、、」
「ん?なんですか?」
雲行きが怪しくなってきた。
「いやあ、先生にはどうやら人望があるらしくてな、それにいままで顧問をやってなかったからか、職員室に行けばいる先生としても生徒からの相談が絶えなかったのだ。そこで君たちには私の代わりにその生徒たちの相談を受けてあげてほしい」
「え?」
「その中にはなにやらオカルトチックな不可解な相談事の時もあった。そういう事でも是非、力になってあげてほしい。あとな、オカルトの研究ったってそんな忙しいことではないだろう?」
俺と須藤は唖然としていた。
そんな中、部長になった天月は目を輝かせながら、
「いいですね、それ!楽しそうです!」
と先生に賛同していた。
「そうだろう?じゃあ先生に相談事がきたら、ここを紹介しとくからな。頼んだぞ、オカルト研究部」
そう言って先生は行ってしまった。
・・・先生は初めからこれを企んでいたのか。
自分への相談事が面倒だから、オカルト研究部とかいう、いかにも暇そうな部活の顧問になって、その部員である俺らにその相談事をたらい回しにするという算段だったのか。
・・・・してやられた。
神野先生に相談すべきではなかったのか・・・。
しかし、もう遅い。部長である天月がそれを受け入れてしまった。
これからは、先生からたらい回しにされた生徒が相談をしに、オカルト研究部に来ることになる。
まあ高校生の相談事など大したことではないだろうし、オカルトを本気で研究するつもりなんてなかったのも事実だ。
ただ、面倒なことがさらに面倒になってしまったのである。
唯一、可哀そうなのは、本気でオカルトの研究を期待していた須藤であるが、まあそれはどうでもいい。
こうして俺たちは、オカルト研究部、もとい゛なんでも相談室゛をする運びとなってしまったのである。