風精館Ⅲ
風精館の中は薄暗く静かで床板のミシミシという音が響いていた。
草原の風景画や花瓶などの装飾品は意図せず不気味さを演出している。
他に客はおらずフロア内にはアルベルトとエリナとカウンターに座った老婆だけだった。
「アルベルトさんこっちですよー!」
カウンター近くで元気にこちらを呼ぶエリナは風精館の中では異質な存在であった。
カウンターの前に立つと老婆がしわがれた声で応対した。
「いらっしゃい。魔物の素材の買い取りだね?」
「はい…お願いします」
エリナの紹介とは思えないような雰囲気に飲まれ落ち着かないアルベルトではあったが、紹介してもらって店に入った以上ここで取引をしないというわけにもいかない。
麻袋から解体した角兎の素材を引き渡すと老婆は首から下げていた老眼鏡を掛けて品定めを始めた。
老婆の鑑定は終始無言で行われその間真剣な目付きに圧倒されたアルベルトは声を出すことが出来なかった。
五分ぼどそんな沈黙が続き鑑定が終ると老婆は部屋の奥に無言のまま消えてしまった。
「はぁ…」
老婆がいなくなったことでアルベルトは肩の力を抜き溜め息をついた。
「ふふふ、そんなに緊張しなくていいんですよ」
張り詰めた空気のせいで気付かなかったが鑑定の間エリナはこちらの様子を見ていたようで笑われてしまった。
「あの空気は緊張しますよ……」
「大丈夫ですよ!お婆ちゃんの鑑定の腕は確かですから!」
エリナから意外な言葉が飛び出してきた。
「お婆ちゃん?」
「えへへ、すみません。実はここ私の家なんです。」
それを聞いてアルベルトは老婆とエリナの空気の違いに愕然とした。
「お婆さんあんまり似てないですね」
「そうですか?鼻とか似てると思いますけど」
言われてみればそんな気もするがやはり似ていない。
「ここには二人で暮らしてるんですか?」
「はい、両親は王都で働いてるのでここには二人だけです」
エリナはにこやかに答えてくれた。
「両親から何度か王都に来ないかとは誘われてるんですけど私はフリーベルの方が好きなので!」
確かにフリーベルは良い町だが王都で暮らせるならその方が暮らし安いだろう。
それに家もこんなに古い建物だ。
アルベルトにはいまいちここで暮らす理由が分からなかった。
「王都は暮らし安い所だとは思いますけどここほど自由には暮らせないんです」
「王都は魔物退治に寛容じゃなくてこういう換金所も無いんですよ」
「それじゃあ魔物はどうするんですか?」
「そりゃ本業の兵士さん方が退治しますよ。王都の兵士はとても強い方があつまってますし数も多いですからね。あの辺で魔物退治をしようとしても魔物が見つかりませんよ。」
「だったら兵士になればいいんじゃないですか?」
アルベルトの問いかけにエリナは溜め息をついて答えた。
「無理ですよ。そんなの両親が許してくれません。ここで魔物退治してるのだって秘密にしてて、一応私この店の手伝いをしてることになってるんですから。」
「なんだか大変そうですね」
「大変ですよ。隠し事するのって。」
自由にさせてもらえないエリナに同情もしたが両親も苦労していそうだ。
そんなやり取りをしているとお婆さんが書類と金を持って戻ってきた。
「はいよ。買い取り金額はこれで文句ないかい?」
相変わらず愛想のない対応で渡された書類にはいくつもの項目に分けて値段が書かれていた。
アルベルトは字は読めないので何の値段なのかは分からなかったが数字は読めた。
合計金額482ゴルド。
贅沢しなければ一週間は問題なく暮らせそうだ。
「どうです?けっこう良い値段じゃないですか?状態が良かったのもありますけど他の店より絶対お得ですよ!うち穴場ですから!」
エリナが自慢げにそう言った。
「ええ、この値段で問題ないです」
魔物の素材の相場は分からないが騙しているようにも見えないしきっとそうなのだろう。
一先ずは生活費が入ったことでアルベルトは安心することができたのだったーーー




