王都の異変 解決編
改めて見直して、こう思いました『私、疲れてるんだな……』と。
「さぁ……行くぞ」
【シオマネキ装備】を着けた俺はキッと前を睨み覚悟を決める。【シオマネキ装備】というのは例のカニ装備の正式な名称だ。ギルドで鑑識だか識別だかを使える人が能力の確認がてら調べた結果分かった。こういった名称は魔道具などに付いていることが多い。それを考えるとやっぱりこの装備は魔道具の一種なのか……。
俺以外のも判明している。ゼノンは【ぐんそう装備】というらしい。何故『ぐんそう』何だろうな? それで、新たに判明したことと言えば人間としてはあり得ない動きができるそうだ。アルのものは【シャーク装備】という。水中行動が可能になったらしい。使うときがあるのか? ラヴィさんが着けているのは【アゲハ装備】。特に新しく判明した能力はなかった。飛べるようになるとかは真っ先に俺達が検証していたからな。
……どれも素晴らしい能力がついているのは分かった。しかし、今回で見納めになりそうな気がするのは俺だけか?
「シル兄ちゃん、シル兄ちゃん、現実逃避もそれくらいにしてよ」
「ああ、すまんな。しかし、何と言うか……」
王城までやって来たのだが、フォーチュンバードの異常発生(in 王都)の理由が分かった。王城内に足を踏み入れて見えたのは……フォーチュンバードがうじゃうじゃいる光景だった。足の踏み場もないとはこの事を言うんだな。
「確かに信じられないわね。……ここで繁殖してるなんて」
「王様方はすでに逃げているんだよな? 取り残されていたりとかは……」
「ない、と思う。ギルドの人なら分かるんだろうけどな」
フォーチュンバード掃討組は俺のパーティメンバー全員と数人の実力派冒険者だ。彼等も王城内の状態を見て唖然としている。……唖然としながらも身体は襲ってくるフォーチュンバードに対応しているあたり流石と言うか何と言うか。
王城の掃討戦が開始してすぐに俺達は高笑いをしながら戦闘を進めるまでになった。何故かって? 王城のフォーチュンバードはどれも当たりだったからだ!
「「「フフフフ……ハハハハ……フハハハハ!!」」」
物欲の化身となった俺達はその勢いのまま王城内を隈無く探索しフォーチュンバードを全滅させた。
まぁ、それなりの苦労はあったがな。一番苦労したのは何故か俺達のパーティが集中狙いされたことか。理由として考えられるのはやはりこのフォーチュンバードから出てきた装備だろうな。俺、ゼノン、アル、ラヴィ、ロウの被弾率が高かった。ヨシズもそれなりだったが恐らく俺達と一緒に動いていることの弊害……つまりはとばっちりだろう。
「よし。確認が終わったぞ」
「おお、仕分けるか。おーい、各リーダーは集まってくれよー」
フォーチュンバードからのアイテムの仕分けはさっくり終わった。元々ここにいるメンバーがそこまでこだわらない人達であり、分け方もギルドで定めているとおりのやり方だったため割とスムーズに進んだ。だが、問題がなかったわけではない。
「おいおい、シルヴァーよ。この装備は俺達にゃ要らないもんだ。お前にあげよう」
「お、どうせならコンプリート目指すか? こっちからもプレゼントだ」
自分達のものを見返りなしにあげるというのは冒険者としては破格の対応だ。彼等より低いランクの俺としては面子の関係もあって受け取ることが多い。そう……普段なら俺も受け取るかもしれない。しかし、問題は渡そうとしている『モノ』だ。
「要らねぇよ!! 一つで十分だ」
【シオマネキ装備】をつけてしまったことを何度後悔したことか。王都を進んでいくと霧の効果を無効化するようになったので着けたままだったが、普段使いにするには派手すぎる。もしかしたら作り直せるかもしれないが確定ではない以上、受け取ってしまったら単に着づらい装備が増えるだけである。
「そうだよなぁ。幸い俺達はこの装備の特徴を聞いていたから一人を除いてうっかり着けたりはしていない。譲ろうと思えば出来るだけましなんだろうが……持っていてもなぁ」
「売ればいいじゃないか! 寄るな! 来るな! 押しつけるな-!」
ゼノンが怒り出した。この中では一番いじりやすいから……。苦笑して眺める。
ロウの方にも行ってるな……すげなくあしらわれているが。
「なぁ、おれには要らないんだ、コレ。貰ってくれるよな……?」
「要りませんね。ただで貰う物ほど高い物はないと言いますし……それに、案外似合うかもしれませんよ。お・じ・さ・ん♪」
「お、おじさんだと……おれも、大分老けたんだな……ガクッ」
見事な舌鋒。両手両膝をついてうなだれた相手に同情する。ロウから見ればおじさんだろうが、まだ青年気分でいたいよな……。
そろそろ収めるか。パンパンと手を叩き注目させる。そこで改めて決定事項を告げる。
「皆からかうのもいい加減にしてくれ。ゼノンも簡単に乗らないことだ。収拾が付きそうにないから、とりあえず今各自の手元に渡っているのはその人の物とする。ゼノンが言ったとおり、要らなければ売るなりしてくれればいい」
「了解。まぁ、そうするしかないよなぁ」
――そんなやりとりもあったなぁ……。俺は遠い目をする。ああ、現実逃避だよ。
門の外で事態が急変していた。
フォーチュンバードを殲滅し終えたあとは霧の発生もなくなり、イロモノ装備を着ける意義がなくなったので俺はさっさと脱いでいた。どうも威厳というものが消え去るし、気が緩む。
それで、殲滅したことを知らせに王都の外へ向かったのだが、今度は王都の外が魔物で溢れ返っていた。嫌というほど見たあのフォルム……あれは、フォーチュンバードだ。俺はしばし呆然としていた。
「シル兄ちゃん、応戦して!」
「シルヴァー! 正気に戻れっ!」
「ヨシズ……お前はいいよなぁ……ドラゴンがモチーフの装備で。俺のは……」
俺の思考が停止したのはなにもフォーチュンバードが溢れ返っていたからだけではない。王都の外に出ると同時にアノ装備を着ける羽目になったからだ。ちなみに俺の意思で着けたわけではない。自動的に出てきたのだ。呪われているんじゃないか。
ちなみに、着ずに済んでいた人でも結局着ることになった。ヨシズだけは装備の見た目がそれなりに良かったから強制される前に着ていた。
「何を言うか。確かにヨシズのは良いがなぁ、俺なんて大熊猫だぞ! 大熊猫っ! 何なんだよこのデザイン……妙に性能が良いところがムカつくっ!」
「大熊猫だってまだましだぞ。こっち見てみろ? 無駄に精巧な豚面付けられてんだぞ。しかも取れないし」
「ブハッ……一生外れなかったら悲劇だな!」
「あの……ドクロスーツはどう思います?」
「おおぅ……漂う雑魚臭に変態的なオーラ……しかも複数人いるな……」
「そうなんですよ! ナンバーワンでもオンリーワンでもない、真に不憫なのは俺らドクロスーツっすよ!」
「「「「それに比べればカニ装備なんて、まだましだっ」」」」
……そうかもしれない。カニ装備の専用武器の二刀は恐ろしく使いやすいからな。見た目も大熊猫や豚、ドクロスーツなんてものを見てしまうと妥協できそうだ。
「悪かった。ここからは俺も参加するぞ」
そこで俺は吹っ切れた。イロモノ装備で底上げされた能力の前には例え視界を埋め尽くすほどの魔物だろうが、力不足だ。
……こうなれば、やけくそだ。殲滅してやるよっ!
恥ずかしさからなのかいつもよりずっと勢いのある戦闘を繰り広げる中に内心涙を流しつつも参加する俺だった。
すれ違った子供たちのキラキラした視線、大人達の苦笑いが痛いな……。