王都36 卒業と旅立ちと
少しばかり駆け足です。
フォーチュンバード事件も終息し、王都は以前の活気を取り戻しつつあった。俺も復興作業に従事した。まぁ、復興と言っても戦闘の余波で壊れたところの補強とか、流通をもとに戻すために大量に依頼された雑務を引き受けたりとかだけで、そう大したことはしていないのだが。その合間に、アノ装備を作り替えることが出来る職人が現れ、いち早く依頼に向かったのは蛇足の話か。
そうして王都がある程度元の姿を取り戻した頃、卒業式が行われることになった。入学してからちょうど半年だ。何とか目標を達成できたと言える。まぁ、その前に卒業試験というものがあるのだが。何も情報がない辺り俺は内心戦々恐々としている。
「おーい、ゼノン、シルヴァー」
「キノコ。おはよー」
「おう、おはよう……って、そうじゃねえ! なあ、卒業試験について聞いたか?」
「いや、そろそろ卒業の時期だとは聞いたが具体的に何があるかは知らん」
ここ二週間は街の復興を優先するようにと言われていたから学院には寝るためにしか寄ってなかった。だから教師陣が何かを企んでいたとしても気付けないだろう。
「おっくれってるぅ~……というのは冗談で、まだ噂でしかないんだが卒業試験が教師陣vs俺等になるとかならないとか。今のうちから準備しておいた方が良いかもしれねぇ」
「まさか。教師全員が出てくるとなるとこっちには勝ち目がないぞ」
「何故だ? 俺としては良い線行くと思っているんだ」
「教師陣というなら、当然学院長も入っているわけだ。あの人に参加されると確実に詰むな。たぶん真の最強はあの人だろう」
「それ、どこの情報なんだ? シルヴァー」
「経験則だ。だが、信頼してくれて良い」
「まじかよ……」
マジだ。あと、懸念材料としてサボちゃんのこともある。敵に回られたら……まぁ、卒業できないだろうな……。
*******
「卒業試験? 私のところにはなんの情報も来ていないわ」
「そうか。キノコが話していたのだが……」
昼食を食べながら卒業試験について話す。ラヴィさんは知らなかったらしい。この子も意外と情報を集めるようにしているみたいだが、引っ掛からなかったようだ。とすると、キノコはどこで聞いたのだろうか。
「教師陣と戦う!? 勝てるわけないわ……学院長が怖すぎるもの。あと、ドル先生も相手するには大変そう」
「確かにな。ドル爺は基本的に戦闘指導だけで本人との対戦はしていなかったから未知数ではあるな」
「年の功で私達を嵌める可能性もあるわ」
入学試験の時に対峙したときも、『この御老体、やるな』と感じたからな。強いのは確かだろう。経験も向こうの方が上だし。
「楽に勝てる相手ではないことは確かだ。学院を卒業するのは骨が折れるとは聞いたが、噂の段階でかなり踊らされている気がするな……」
「それ、ありうるわね……。キノコが回し者だったりして」
「まさか……」
「先生方はひねくれているから、ないとは言えないわ」
*******
そんな、やり取りも、あった、なぁ……。
「シルヴァー! ぼうっとしてないでヨシズを沈めてくれ!」
分かってる。だが、装備が変わっているから攻めにくいんだよなぁ。
「ローテお願い! これ以上サボちゃん押さえきれないよ!」
「任せとけ! 俺の斧が鳴るぜ!」
状況を話そう。俺達は今、卒業試験の真っ最中だ。二日前に連絡があった。卒業式の前日である今日に本当に最後の試験を課すと。内容としてはキノコが言った通り、教師陣+サボちゃんvs俺達だった。絶望した。さらに、追記でこの試験に落ちたものは卒業取り消しにするとあった。つまり、負けたら全員留年だということになるな。目の前が暗くなった。
「うぉらぁっ! 余裕だな、シルヴァー?」
「いや、そうでもないが……タイミングはつかめてきたか」
確かに先程はここ数日を振り返っていたからぼうっとしていたかもしれない。だがな、俺だって何も考えずに攻撃していたわけではない。フォーチュンバードの事件で【ドラゴン装備】を手に入れてからヨシズの防御はより突破しにくくなっている。普通は俺一人で倒せるわけがない。
だが、よく考えれば俺が攻撃してヨシズを無力化すれば倒せる可能性がある。そのためにはタイミングが肝心だ。ヨシズが引く瞬間に攻撃すればおそらく……。
「……ここだ」
「げっ……しまった……」
体を浮かせて……地面に叩きつけてっと……ぐるぐる巻きにして……うん、いいサンドバッグ一丁あがり♪
ヨシズを吹っ飛ばした方にいたメンバーが袋叩きにしようとわらわらと集っていくのを見て俺は身を翻す。流石にもうヨシズは戦えないだろう。おっと、一応注意しておかないとな。
「止めは刺すなよ」
「何言ってるの、シルヴァーくん。私達がそんなへまするとでも?」
いや、その目、異様に殺意に満ちているように見えるのだが……。
「ともかく、大丈夫! おちょくってくれたお返しに少しぼこぼこにするだけだから。シルヴァーくんは行った行った。君はこちらの主力なんだから」
「ああ、そうだな……」
ヨシズよ……強く、生きろ……。俺は助けることはできない。この場では敵だからな。
「【スネークバイト】」
サボちゃんを倒しに向かおうとしたが、足止めを食らった。相手は誰だ……?
「君の柔軟性にはかねてから興味があったんですよね。私と遊んでもらいますよ?」
「……アッシュ学院長……」
最悪の相手にぶち当たってしまった。死なないといいが……
「あ、そうだ。私に本気を出させてしまったら命の保証はしませんので。まぁ、魔道具や魔法陣を使わない程度の縛りはしてあげますが」
「は?」
学院長を倒すにはどうしても本気を出すまで追い込まなくてはならない。しかし、そうすると俺の死亡率が跳ね上がると……。
「参ったな……助けは期待できないし」
俺と学院長の近くには誰もいない……いや、誰もここに来れない。なぜなら結界が張ってあるから。
「逃がしはしませんよ。全力を見せてくださいね。【ファイアエクスプロージョン】」
こんのぉ……結界内という狭い場所で人に向けて使うか? この時点でたいていの奴は死ぬぞ。まぁ、対応できないわけではないが。
「【リフレクトシールド】!」
俺の秘策その1。こういうのは跳ね返すに限る。隙が出来やすいんだ。で、その隙に距離を詰める。俺の得意な接近戦に持ち込むためになっ。
「……なるほど。良い動きをしますね。これは私も本気を出せそうです」
学院長の本気か……未だ見たこともない。あまりにも予想が付かないので怖くてたまらない。
「流石に本気はやめて欲しいが……」
そんな願いが聞き入れられるはずもなく。全力で立ち向かう羽目になった。本気を出した学院長は魔法も体術も使ってくるんだな。危うくやられるところだった。
「魔法陣ありだったら詰んでいたな」
あれの開発者は学院長だし、今だ未知数だからな。
だがまぁ……俺の勝利だ。学院長は魔法は強いが体術はそこまで突出したものはない。俺はそこにつけ込ませてもらった。
「くっ……ゼノン達の助けに向かわなくては……」
学院長を倒し、生徒の方が優勢になった。しかし、まだ強敵はいる。一番近いのは数人がかりで対峙しているサボちゃんだろう。ドル爺も強敵のようだが、そちらはラヴィさんとアルが対応していたのを見た。
とりあえずサボちゃんだな。俺が向かうべきなのは。しかし、そんな俺を引き留める影があった。
「大丈夫よ、シルヴァーさん。つらそうだから休んでおいて」
「ラヴィさん? うぐっ……ケホ……本当にだいじょうぶ、なのか。相手は……ぅぐ、サボちゃん、だぞ……?」
ドル爺とはどうなったんだろうか。
「ええ。ドル先生はアルくんと相討ちになったから私はまだ余裕があるの。というか、今のあなたに来られても不安にしかならない気がするわ」
肋骨何本か持って行かれたからな……。俺としてもこれ以上は危険だとわかるが……任せても、大丈夫だろうか? ラヴィさんだって弱いわけではない。
「まかせ、た。俺は少し休んでいる」
「そうしておいて。良い知らせを楽しみにしていてね」
*******
最終的に勝利したのは俺達生徒組だった。卒業取り消しは免れたと言うことだ。本当に良かった。卒業式は怪我人溢れる中執り行われた。一種異様な光景だと思うが、毎年のことなので問題にならないそうだ。恐らく先生方もマヒしているのだろうな……。
何はともあれ無事に卒業し、俺達はラヴィさんとロウを新たなメンバーとして迎え入れて王都を旅立つことになった。




