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虎は旅する  作者: しまもよう
クナッスス王国編
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王都の異変3

 

 その中は異様な光景だった。まず、霧で前が見えない。外は完全に晴れていたというのに、だ。パーティメンバーの姿は何とか見えるといったところだ。派手な装備も一役買っている。そう確認したところ、突然ゼノンの気配が薄くなった。何しているんだ? 霧のせいで余計に気配を掴みにくい。そのうちに存在すらも曖昧になり、いるかどうかを問いかける。


「ゼノン、いるよな?」


「うん。やっぱり気配を消しちゃうと分からない?」


「すぅって消えていくのは感じた。少しすると完全に掴めなくなるな。戦闘になったら恐いな」


「すごい隠密能力ね。意識しても掴めなかったわ……それに、たぶんだけどこの霧、認識を狂わせる効果がついているわ。相乗効果で余計に分らなくなっているのだと思うの」


「全く分りませんでした。戦闘中だと気付かずに攻撃してしまいそうで恐いです」


「そっか。ロウは仕方ないと思うよ。まだ経験が浅いんだし。それじゃあ、普通にしておくよ。それよりも、ほら……きたよ」


 ギャシャーー!!


 フォーチュンバードの団体さんだ。『異常気象』に遭遇したときより多い。いくら何でもこれはおかしい。王都内に取り残された人達は大丈夫だろうか。四方八方から襲ってきているが、一事が万事この調子だとするとやはり対応できなくなっているのではないか? 


「まぁ、俺達の場合はここに来るまでにさんざん相手したからそこまでひどいことにはならないと思うが……」


「でも、少し連携してる?」


「そのような気はします。狙いを僕に定めるあたりっ!?」


「【ウォーターウィップ】! 一旦下がって」


 グルルゥッ


「助かりました、ラヴィさん、アルさん」


 向こうが学習したのか、一番弱いロウに集中して襲い掛かっていた。すぐに対応しきれなくなり、危ういところでラヴィさんとアルが間に合った。まったく……肝が冷えた。だがまぁ、二人のおかげで助かったな。こうなるとやはり俺が盾になった方がいいのか。ヨシズだったらあっさりこなしてくれるだろうが(というより、それが本職だ)俺は慣れていないから不安があるな。


「うぉら!! こっちへ来いやぁ!」


 俺じゃないぞ。確かに数瞬前にヘイトを集めようと思ったが。この声は俺の前方から聞こえてきた。


「そこの妙なシルエットの奴等! 味方か敵か!?」


「この声……まさかな……。俺達は王都の外から来た! 一段落したら状況を教えてくれ!」


「お前、シルヴァーか!? こちらも話を聞かせてもらうぞっ。とりあえず建物の中に入れ! 鳥どもの襲撃は途絶えることはないと思ってくれ」


 嘘だろ……確かにここの大気の魔力量は異常に思える。しかし、フォーチュンバードが絶えず現れるほどだろうか? いやそこまでの量、濃度ではない。とはいってもヨシズが嘘を言う必要はない。となると……


「嘘だろ……」


 フォーチュンバード自体謎生物だが……あり得るのか? 

 ともかく、襲撃が途絶えないならヨシズの言う通りフォーチュンバードが来ないと言う屋内に逃げ込まねばならない。俺達は攻撃の手を止めて走る。



「……ここまで来れば大丈夫だ。よし、聞きたいことはたっぷりあるが、今はギルドに向かうぞ」


「こちらも王都内部の状況を知りたい。ちゃんと話せよ」


「もちろんだ」


 俺達は新しく作ったのだろう地下通路を通ってギルドに出た。ギルドにはかなりの人がいた。ちゃんと食べれているのだろうか。


「おーい、戦果があったぞ」


「おかえりなさい、ヨシズさん。戦果って……あら、シルヴァーさん」


「アンさん!? なぜここに? ドルメンにいるものだと……」


「まぁ、その話はあとにしてくれ。シルヴァー。お前達はどうやってここまでこれた? 王都の門が閉じて3日ほどか。斬っても叩いてもびくともしなかったあそこをどうやって通ってきたんだ?」


 こちらには向こうのビラのことは伝わっていないのか。外部との連絡手段がないのは本当だったか。


「向こうの門に張られたビラにフォーチュンバードから出てきた装備をつければ通れるとあった。その通りにしてみたらあっさり通れたぞ」


「ビラ? この状況は人の手によるものである可能性が出てきたか……。まぁ、今はいいか。シルヴァー、向こうからこちらに来れるのは分かった。こちらから向こうへは?」


「知らん」


「オイ……」


 そこまでやって、一旦奥に引っ込んでいたアンさんが戻ってきた。持ってきてくれたのは水だ。お茶が出ない辺り緊迫しているのが分かる。そして俺達はこれからどうするのか話し合った。まずはこのふざけた装備の効果を確かめることからだ。またフォーチュンバードの雨を潜り抜けるのか……面倒だ。しかも俺が行くことになった。


 ヨシズとともに物騒な雨を潜り抜ける。門の側は思ったよりフォーチュンバードは近付いてこない。ギルドにつくまでこんな様子なら楽なのにな。で、肝心の装備の効果だが、俺のカニ装備は王都の門を行き来できる。生身だとだめ。良かったことと言えば、兜を被せたヨシズが外へ出れたことか。



「おーい、戻ったぞ。このふざけた装備、意外と高性能だった」


 わふん《身体能力の底上げをしてくれていることか?》


「それもそうだが、これの一部でも身に付けていれば王都の門を通れるらしい」


「解決の糸口が見えてきたようですね」


「うぉっ!? だ、だ、誰だ……って学院長」


「お疲れさまです、シルヴァー、ヨシズ。こちらに残ったメンバーの装備の解析も終えました。流石フォーチュンバード製ですね」


 能力は良くても見た目がなぁ……。


「そうだ。シルヴァー、食糧を余分に持ってないか?」


「持っているぞ。ここの人達を賄う程度にはな」


 控えめに言ってこうなる。ユモアの森でかなり取ってきたおかげだな。一つ一つが大きいからたぶん足りるはず。俺だけではなくゼノンもラヴィさんもたっぷり取ってきてあるはずだから、大丈夫だろう。


「助かる。フォーチュンバードはなかなか肉で現れないんだ」


 フォーチュンバードで食い繋いでいたのか!? ある意味すごいな……。


 そのあと、ちゃんと食糧を放出し、翌日から順次王都の外へ送っていく計画を話した。限界に近い状況でこのような情報を教えられて、予想以上に皆いきいきし出した。


「シルヴァー。本当に助かった」


「エレノア先生。そちらもよく無事で」


「まぁな。フォーチュンバードを倒すのは慣れていたけど、流石にあの数だと死ぬかと思ったがな。そうだ、ここまで辿り着いたのはたぶんお前達が最初だよ。おめでとう」


「こんな状況じゃ素直に喜べないな……。そう言えば、ドル爺は?」


「爺はな……」


 そう言葉を濁して先生は力なく首を振る。まさか……


「ええと、あまり思い詰めないように……」


「ああ、そうだな。それじゃあ、先に行かせてもらうよ」


 エレノア先生が先に出ていくのは単にあの人自身が貴族にも冒険者にも好かれていて、腕も立つから、ギスギスしているだろう外を仲裁してくれるように頼まれたからだ。


 そして、俺達は最後に残ってこの異常の原因を探る予定だ。それにしても、こうして人を外へ連れ出しているのだが、その多くの人が最後に王都を振り返り手を合わせているのを見ると悲しくなる。おそらく彼等に近い人が亡くなったのだろう。どれだけの死者が出ているかは分からないが、被害は軽いものではなさそうだ。


 俺ももっと何か出来たのだろうか。もっと早くここに辿り着いていれば救える命もあったのだろうか。ドル爺も……





「シル兄ちゃん、粗方終わったよ。どうしたの、そんな神妙な顔して」


「いや、ドル爺がな……」


「ドル爺? 高笑いしながらサボちゃんに乗って鳥を殲滅してたけど? そのあとぎっくり腰で悶絶していたのを見たよ」


 は? 死んだんじゃ……いや、死んだと明言はされてなかったか? 取り越し苦労で良かったよ。





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