王都の異変 side
グギャーグギャー
ギャシャーー!
王都が閉ざされて早3日。外は当たり前のようにフォーチュンバードが飛び交っています。一歩でも出ればすぐさまあれらが襲いかかってくる以上、迂闊な行動はできません。しかし、もう食料がありません。ギルド職員および取り残された住民を賄うには倉庫にあった分では足りないのです。
「あれも食料と見ればまだ籠れそうではあるが。だが、肉以外のものに変化する性質さえ無ければなぁ」
「こちらとしてもまさかその性質に悩まされることになるとは思いもしませんでした」
「それでもここまで持ったのも王都に残っていた冒険者や学院教師、授業から帰ってきた学院生がここまで入り込んだ鳥どもを減らしてくれたからだろうな。学院長はどうやったのか、丸々残ったフォーチュンバードをいくつか持ってきていたし」
「そうですね。あの方は本当に不思議な人です。けれど、とうとう限界が見えてきましたね」
「武具防具の磨り減りだな。修復のしようがないほど壊れたものがかなりの数になった。オレの盾もそろそろ限界だ」
「そうですか。ヨシズさんは確か【ウェアハウス】の所属でしたよね? シルヴァーさん達と王都の外へ出ていた可能性もあったのに、取り残されるとは、ご愁傷さまです」
「むしろアンさんの方が不運だと思うぞ? 学院生が帰ってくるのに合わせてヘルプに来た丁度そのときにこんなことになるんだからなぁ」
「そうでしょうか? しかし、冒険者時代からこれくらいの理不尽はありましたからね」
「なかなか苦労しているんだな」
「お互いに、ですね」
私達はそこまで話すと場所を交代しました。私は休憩に、ヨシズさんはフォーチュンバードの監視を行うのです。これは、王都に閉じ込められたと知った学院長がすぐさま提案してくれた方法です。おかげでそれぞれが確実に休憩をとれるようになったので。無駄な消耗が減り、長く持ちこたえることが出来たのです。
それにしても、一体何が原因でここまでひどい状況になったのでしょうか?
――そもそも異変が起こったのは3日前の昼過ぎのことでした。
あの日、私は丁度ここ王都クナッススにやって来ました。恒例の学院生サバイバル授業がそろそろ終わる頃なので、魔獣や魔物の鑑定および解体の手伝いをしてくれと呼び出されたためです。難しいことを要求されるわけでもないので観光がてら来たのですが、やはり道中も魔獣が増えているように感じました。ドルメンからここまで馬車で来たのですが、そのなかでも私は考え続けていました。
「魔獣大暴走の兆候でしょうね。シルヴァーさん達がかなり狩ってくれたのでドルメン近くはましになっていましたが……王都は少しまずいかもしれないですね」
王都の近くは魔獣・魔物はそこまで強い個体はいません。ですから、まだ問題にはなっていないのだと思います。しかし、群れで行動しているものが多くなっているようです。……これは王都のギルドマスターに伝えねばなりませんね。杞憂であればいいのですが」
「お嬢さん、そろそろ王都だよ。考え事をしていると通り過ぎちまうぞ?」
「それは困ります! ふふっ、ここまでありがとうございました」
ともあれ、今の私は観光がてら来たのです。それなのに仕事のことを考えるなんて、損していると言ってもいいでしょう。ギルドマスターにはちゃんと告げますが、まずは普通のアンとして王都を楽しみましょうか。そういえば、シルヴァーさんはまだ王都にいるでしょうか。常識はずれの武勇伝を聞きたいものですね。そのようなことを考えて王都を見て回ったのは日がだいぶ上った頃のこと。
それは、突然のことでした。
「おい、どういうことだ!? 門が閉まってるぞ!」
「嘘だろ? まだ日が落ちてないのにそんなことが……」
そんな声につられて私も振り向いて王都の門を見ました。戦時中ならいざ知らず、平時は王都の門は開いたままなのです。それが閉まると言うことは余程の異常事態が起こっているのか……。
「気をつけろ! フォーチュンバードの襲来だ!」
「戦えない奴は建物の中に入れ! お前ら、応戦するぞ!」
「「「おう!」」」
「発生する数が多いわ! ペース配分には注意して!」
私は戦っている冒険者に注意喚起しながらある場所を目指しました。それは、北街区のセントラルパークです。王都の構造は、中央に王城、その周辺に高位貴族の屋敷があり、その外側に東西南北に街が置かれています。その中の北街区は中級の引退冒険者が住居を構えています。この地域が一番子供の数が多いのですが、今日はそこのセントラルパークで子供向けのイベントが行われていたはずです。異常なフォーチュンバードの沸きに対応できていない可能性があるのです。
やはり、対応できていない人が何人か見られました。現れているフォーチュンバードはそこまで強くはありませんでした。しかし、いかんせん子供がたくさんいる場所です。誰も武器になるような物を持っていなかったのでしょう。苦戦を強いられていました。
「手伝います!」
「あら、アンちゃん。助かるわ」
ここに住んでいる人は私の現役時代と同じ頃に冒険者をやっていたので知っている人が多い。近くでフォーチュンバードに応戦していたこの人も私の知り合いです。流石というか、何というか、子供を守りつつ3体と渡り合っていた。倒すまでは行っていなかったが1体なら難なく倒してしまいそうでした。
「2体やっちゃいます!」
危なっかしかった人は、私のヘルプで持ち直しました。数人は既に避難しに向かい、この場も収束するかと思いきや、そうは行きませんでした。人が減ったことにより、一人が対応するフォーチュンバードの数が増え、余計に苦しくなってしまったのです。殿をつとめていましたが、私が対応できる数も限りがあります。6体が同時に襲いかかってきたそのとき、私は死を覚悟しました。
「助太刀するぜ! おら、鳥ども、掛かって来いやぁ!」
「ヨシズさん! 助かりました」
「ヨシズ! 伏せなさい!」
「っと、伏せろ、アンさん」
後方から別の男の人の声が聞こえたと思ったと同時に私はヨシズさんに引き倒され、地面に伏せることになりました。一瞬異様に濃い魔力を感じたので、誰かが魔法を使ったのだと分かりました。
「【魔力よ失せろ】」
「んげっ、離れるぞ!」
その魔法は込められている魔力量からして大変危険なものと分りました。こんな魔法を使えるのは私が知る中でも一人しかいません。間違いなくあの男性は学院長その人でしょう。人がいるというのにあの魔法を放つとは、相変わらずアタマおかしいのですよ!
その場は学院長の魔法で収束しました。しかし、フォーチュンバードの脅威はなくなったわけではなく、王都も安全とは言えない状態にありました。しかも、依然として門は閉まったままなのです。私達はとりあえず、非戦闘員をギルドに集めて守り、戦える人は、連絡手段を渡した上で街ごとに散らばることになりました。
そうして耐えること3日ほど。もう限界でしょう。子供も大人も変わらない現状にどんどん衰弱していっています。物資が足りない。人手も減りだしています。私も疲れてしまいました。
……いけない。それでも私は諦めることは許されないのです。ここまで励ましてきた私が諦めてしまうと皆がダメになってしまいます。それは、それだけは避けないと。
私は諦めません。助かる手があると信じ続けます。




