王都の異変
さて、俺のアイテムボックスはフォーチュンバードが残したもので一杯だ。もちろん、カニ装備もちゃんとあるぞ……。あの後なんだが、やはりフォーチュンバードは襲い続けている。しかも、その数は王都に近付くにつれて増えていく。おかしいな? フォーチュンバードの襲来期であることはギルドも把握しているはずだし、俺達が今いるこの辺りは冒険者が出張ってきているはずなのだが。
「今回もザクザク、と。もうそろそろ王都だけど、襲撃回数も数も減らないね」
「普通は大都市の近くは減るのだがな。おかしいな……急ぐぞ」
王都の周辺は遠くから見てもおかしかった。まず、門が閉じている。真昼だというのに、だ。そして門の外はいくつものテントが張ってある。門が閉じられたのは何日も前のことなのだろう。俺達はバラけて情報を集めることにした。
「おい! どうしてこんなことになっているんだ!?」
とりあえず近くのテントに座っていた男に聞いてみる。ちらと見えたテント内には武具防具が置いてあったからおそらく冒険者なのだろう。
「ああ。新しく来たのか。悪いが、こっちも良く分かっていないんだ。それでもいいならこちらで分かっていることを話してやるよ。そうだな……肉3人前でどうだ?」
金銭ではなく食糧を要求するか……割と切羽詰まった状況のようだな。これは急いで情報を集めないと。
「それくらいなら出せる。ほら、これで3人前にはなるだろ」
「おう。ありがとな。……随分とデカイやつだな。一体どこで狩ってきたんだ、兄ちゃん。まぁ、いい。それよりも話そうか」
男の話をまとめると、数日前に突然王都の門が閉じられ、入れなくなったと。しかも、この数日門から出てくる人はいなかったらしい。
「つまり、中の様子は誰にも分からないと。そういうことだな? ギルドはどうしているんだ? 確か、特別な連絡手段を持っていたはずだが」
「ギルドは機能してねぇよ。職員は皆あんなかだ」
そう言って親指で門を差す。まぁ、そうだよなぁ……。本当にごく稀にギルド職員が外に出ていることもあるのだが、やはりそうタイミングよくはいかないか。
「あと、テントはどこでも張っていいのか?」
「ああ。どこに張ったって文句は言われねぇと思うぜ。だがまぁ、あの一際豪勢なテントの側は止めておけ。貴族のだから厄介なことになるかもしれない」
「確かにな。情報助かった」
「おう。何か新しい情報を得たなら教えてくれよ」
「そうだな。こんな状況じゃ仕方ないか。そっちもよろしく頼むよ」
「おう。っと、一つ言い忘れていたことがあった」
会話を終えようとしたそのときに俺は男に引き留められた。何やら言い忘れていたことがあったらしい。
「門のところに行けば分かることではあるんだが、一昨日くらいか、門に張り紙があってな。内容はフォーチュンバードを倒して出てくる何かの生き物を模して作られた装備を着ければ……」
俺はここまで聞いて嫌な予感に襲われた。『何かの生き物を模して作られた装備』。ものすごく身に覚えがあるよな。せっかく忘れようとしたアレがまた存在を主張し出した気がする。
「……門を素通りできるって話だ。今閉まっているあの門は幻影らしいぜ。質量感触ともにあるのに不思議なことだが。おい、どうした?」
「俺達はここに来るまでにかなりのフォーチュンバードを倒したのだが、今の話に身に覚えがあるものが含まれていてな……」
信じたくないという気持ちとおそらくそうだろうなという気持ちが混ざり合った微妙な感情をもって俺はアイテムボックスからあるものを取り出した。たぶんその時の俺の目は死んでいた。
「おおっ!! これ、フォーチュンバードから手に入れたのか!? なるほど……あの張り紙は一応事実を言っていたわけか」
男も複雑な顔でこちらを見てくる。その顔、本音が出てるぞ。『これを着るなんて、罰ゲームか何かか?』と言いたいんだろ? 俺も同じことを言いたい。正直、これを着て現状の改善を図ろうとするより外で自由気ままに狩りしていたほうが余程精神的にいいと思う。
「ついでに言うと、俺のパーティーメンバーは全員一つずつ所持している。俺のはカニだが、他にクモ、トカゲ、サメ、チョウがあったな」
クモはゼノン。8本の足(手?)が付いていたのだが、全て自分の意思で動かせるらしい。見た目は最悪。トカゲはロウ。四足なら恐ろしく早く動く。ただ、何故か色は虹色だった。恐ろしく目立つ。サメはアル、頭の部分が柔らかいので頭突きが出来なくなっていた。大幅な戦力ダウンかと思いきや、サメは噛みつくことができたらしい。逆に凶悪化していた。あれは魔術的な力が働いているのか? それで、最後のチョウはラヴィさんだ。蝶をモチーフにした仮面がセットになっていた。そして、飛べる。
「へぇ。まさかとは思うが、チョウを着るのは男、じゃないよな?」
「全力で回避したぞ。ラヴィさん……女性に譲ったさ。男がチョウをモチーフにしたものを着るとか、ひどい視界の暴力だろ」
チョウだけはなぜか妙な仮面が付いていたしな。あれは間違っても男が着ける様なものじゃない。
「まぁ、何にせよお前達の方が新しい情報を得られそうだな。頑張って門の向こうに行ってきてくれよ」
「何なら譲ってもいいぞ?」
カニ装備は確かに性能がいい。だが、俺としては譲っても構わないと思う。使う気になれないし。そもそも真っ赤な鎧とか、目立ってしょうがない。
「遠慮する。どれだけ性能がよかろうとカニはなぁ……」
やはりネックはそこだよな。俺だって着たくない。だが、どうせ着なくてはならないのだろうな。俺達だって王都には入れないのは困る。サバイバル授業の報告もしなくてはならないし。早く戻れるのに越したことはない。
気持ちを切り替えよう。今はしっかり情報を集めねば。
少しして、粗方情報が出揃ったと見て俺はメンバーと合流した。それぞれ得てきた情報を擦り合わせる。
結論。
あの装備を着て王都へ突入するしかない。
「やっぱり決め手はあの門のところにある張り紙だよね。一度行ってみないとなんとも言えないし」
「そうだな。ここにいる人達はフォーチュンバードを倒してもそんなものは出てこなかったと話していたから、あの張り紙が本当のことを言っているかどうかは分からない。だが、行ける可能性がある以上は俺達がやることになるだろうな」
「多分ね。……皆のを見るとチョウは一番ましかしら。男性向けでは決してないけど」
「男があれを着るとか、悪夢でしょ。想像したくもない。一度着てしまうとその人専用になっちゃうから、興味本意で着ようとしなくてよかったよ」
わふん《そういえばシルヴァーはカニ装備の試着もしておらぬな》
チッ。ばれたか。だが、アルのの言葉は俺以外には分からない。このまま気付かないでいてもらえば……。
わふんわふんっ《自分だけ回避しようとしているのだなっ》
「アル? どうしたの。シル兄ちゃんがどうかした?」
わふんわふんわふんっ
ふふふふふ……通訳の俺が黙っていればばれまい。まぁ、無駄なあがきだろうがな。
「シルヴァーさんだけ試着もしていないことを言っているのではないかしら? カニ装備は誰かに譲れる状態にあるのでしょう」
「な~るほど。セコいね卑怯だね無駄なあがきだよねっ」
さあ出せ、今出せ、すぐ出せ、今すぐ出せと催促するゼノン。ロウまで参加してきた。
「言われてみれば……この場で着てください!」
後はラヴィさんか……俺は恐る恐る振り向く。彼女はそれはもう満面の真っ黒な笑顔を浮かべていた。見るのではなかったな……。
「……シルヴァーさん。観念してくださいね?」
「……ハイ。ってお前ら、待て。落ち着け、ちゃんと着るから」
どうせならこのまま行ってしまおうと皆で着替えて王都の門に突入してしまった。事前準備をほとんどしていないが大丈夫だろうか? 果てしなく不安だ。




