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虎は旅する  作者: しまもよう
クナッスス王国編
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王都35 サバイバル授業


 さて、あれからヨシズはロウの扱いについて他の職員と協議した結果、基本的には部屋で過ごし、戦闘職員の付き添いがある限り学院内のみ出歩くことが出来るように取り計らってくれた。


 ただ、何をするにも言葉が通じないと仕方がないのでロウはまず念話の習得に奔走していた。アルは普通にできていたが(とはいえ対象は俺のみなのは変わらないが)理論は分かっていないので教えることはできず、他に教えれる人物はと考えて一人浮かんだ。

 ドル爺だ。

 あの人は【伝話】を知っていたのでもしかしたら【念話】も知っているかもしれない。そう思い突撃したところやはり知っていた。これ幸いにとロウにそれを習得させて、コミュニケーションの問題は解決した。今やロウは学院のマスコット的な何かになっている。体が安定して獣人のかたちに収まったからだ。背が低いのも相俟って皆可愛がっている。姿形が定まったからか人の言葉も話せそうだったので今度は俺がロウを指導した。俺の経験が生かせて本当に良かったと思う。


 つまり、ロウについての大きな問題は解決したのだが……


 最近、ロウは目に見えて強くなっているように思う。念話を習得して一週間くらいしたときだったか、派手にアザをつけたまま部屋で寝ていたことがあった。ロウが起きてから聞いてみたのだがはぐらかされるばかりで結局真相を暴くことは出来なかった。

 だが、ここ最近のロウの戦闘能力の向上でなんとなく理由がわかった気がする。ドル爺が稽古をつけ始めたのだろう。ロウは言わば爆弾だぞ。ありがたい事ではあるが立場的に良いのだろうか? まぁどのみちロウが暴走するようなら責任はすべて俺がとるつもりでいるから問題ないか。





「さて、今日は重要なお知らせがある!」


 いつものように座学が始まるかと思いきや、今日は何か話があるようだ。先生の言葉に教室が騒がしくなる。この先生がここまで機嫌がいいのは初めてだ。一体何があるのか……。


「オホンッ、諸君、よく聞くがいい……このクラスは明後日からサバイバル授業に入る。期間は諸君の腕による。適当に6人程のグループを作っておけ」


「行き先はどこっすか? 王都の近くじゃサバイバルにならないっすよね?」


「ふふふふふふ。よく聞いてくれた、キノコよ! この学院には特別な魔法陣があってな、それは人を王都から離れた村、もしくは村跡に転移させるという素晴らしい機能を持っている。ゆえに行き先はランダム! 一度だけ他国まで飛ばされた奴等もいたから本当にどこに出るかは分からない。まあ流石に魔の森には出ないがな。

 そういう訳もあって、出発する際に全員に【伝言板】の魔道具を渡す。これでグループのリーダーには自分達が飛ばされた所が分かり次第連絡してもらう。その後はひたすら王都を目指してサバイバルしてこい。あまりにも戻ってくるのが遅かったら確認するが基本的に期限は切らないものとする。ちなみに【伝言板】の魔道具はお前達の生存確認に使うから受け取ったらちゃんと設定すること。それと、シルヴァーは拾ってきたロウとやらも連れて行くように」


 サバイバルか……いきなりの大きいイベントだな。まぁ冒険者である以上出来なきゃならないものだからこれが授業に入っているのにも不思議はないが、あの説明だけだと先生の機嫌が良い理由がない。もう少し何かありそうだな……。

 と、考えていると斜め前に座っているキノコも同じ様に考え込んでいた。そして何か浮かんだのか一つ頷いて質問していた。こいつは何するにも早いよな、本当に。


「質問いいっすか? 何故先生はそんなに機嫌が良いんすか?」


「機嫌? ああまぁ、あれだ。お前達がサバイバルしている間は私の稼ぎ時だからだな」


 なるほど。そりゃあ機嫌が良くなるな。エレノア先生は午前は俺達の座学を担当して、午後は冒険者として活動していると聞いているが、それだとやはり贅沢できるほどのお金はそうそう稼げはしない。それが、俺達がサバイバルでいないと一日中活動できるから普段と比べれば大いに稼げることになる。さらに、狙ったのかどうかは分からないがちょうどフォーチュンバードの襲来期だ。場合によってはひと財産築けるぞ。


 と納得して俺も一つ頷くと何故か視線が集中していた。


「どうした? 俺が何かしたか?」


「ねぇ……シルヴァーさん……フォーチュンバードの襲来期って本当?」


 なんだ、そのことか。思考がだだ漏れしてたようだな。思わず独り言として言っていたのか。


「本当だぞ。前の襲来期からもうそろそろ4年経つからな」


「なぁ、シルヴァー、フォーチュンバードって、どんな性質があるんだ? そんなに稼げる魔獣なのか?」


 フォーチュンバードというのは4年に一度大量発生する魔物(・・)だ。特徴としては、まず、人であろうと獣であろうと見境なく襲ってくることだろう。しかも、大抵の町に張ってある魔物避けがあまり効かない。ただ、フォーチュンバードは狙いを定めた相手に合わせて能力を変質させるから戦闘能力がない人に狙いを定めた奴はとても倒しやすい。

 そして、フォーチュンバードが稼げる最大の理由としては人の場合は倒した後確率10%くらいで金目のものに変化することだ。(ちなみに獣の場合は物凄く上手い肉になる)

 また、さらに運が良ければフォーチュンバードまるまる手に入ることがある。フォーチュンバードから取れる素材はどれも幸運上昇の効果があるため冒険者としては垂涎モノだ。自分で使わなくてもオークションに出せば天井知らずの値段が付くからそれを目的にして狙う人もいるだろうな。


 といったことをつらつら話してみると教室内はサバイバル授業への怨嗟の声で溢れかえってしまった。


「くっそ〜、なんでそんな時にサバイバル授業なんだよ!! 俺達だって稼ぎたいのに!!」


「はっはっはっ! 本当ならこの情報は明後日に話す予定だったが手間が省けたな。まあ頑張ってサバイバルしてこい。お前達がいないだけで私達が狩れる量が増えるからな! 日程変更は受け付けないぞ。さて、今日は座学も実戦も休みだ。明後日の準備をしてこいよ〜」


 ははは。やはりそういった思惑があったか……。颯爽と教室を出て行くエレノア先生の後ろ姿を見ながら俺は乾いた笑いをもらす。軽くスキップもしているのが見える。そんなに俺達が悔しがる姿を見るのが楽しかったのか……。


「……だがな、」


 ニヤリとして先ほどの続きのように話し出した俺に再び集まる視線。これを聞けばおそらくその気持ちが180度転換するぞ。


「フォーチュンバードは襲来期ならどこにでも(・・・・・)現れる。飛ばされる先は王都から離れた所って話だ。もしかしたら王都よりも狩りまくれる環境にあるかもしれないぞ?」


 もしそうだったら人が多い王都よりも1人当たりの撃破数か増え、より多く金目のものを手に入れられるかもしれない。


「なるほど、ものは考えようだな。こうなったら先生が悔しがるくらい狩ってやんよ!」


 怨嗟の声は鳴りを潜め、今度はヌッフッフッフッフと不気味な含み笑いが木霊した。

 かつて俺が森にいた頃もかなりの数が襲ってきた。今回は果たしてどれだけ稼げるだろうか。



 *******



 ついにサバイバル授業だ。俺のグループは俺、ロウ、ゼノン、ラヴィさん、アルの4人と1匹だ。初めはキノコもこちらに入る予定だったがあるグループが少々攻撃力に不安があったためそちらに加わったのだ。まぁ、俺のグループは過剰戦力と言われても否定できないしな。1番不安があるのはロウだが最近はそれを感じなくなるほど目覚ましい成長だからおそらく問題はない。


「準備は良いか? 魔道具は持ったな? 設定も済ませたな? そうしたら1グループずつ魔法陣に入ってくれ」


 俺は魔法陣学は齧ったくらいだからあまり詳しくないが転移の魔法陣ともなると非常に複雑な紋様が浮かんでいる。やっぱり俺には無理だなこの分野は。


「おや、このグループは5人か。ああ、このメンバーなら問題ないだろうな。さて、起動するぞ、ちょっと眩しいかもしれんが我慢してくれ。すぐ着くからな」


『起動』


 そうして俺達は光に飲み込まれた。これ、眩しいなんてものじゃないぞ。目を瞑っていればよかった。



 光がおさまり、目が慣れたところ、俺達はどうやら空家に転移したようだ。だが、放棄されてずいぶん経っているのか小さい穴が無数に開いている。しかも、人が生活している音がしない。


「この様子だと出たのは村跡かな。ね、シル兄ちゃん」


「だろうな。……ラヴィさん、大丈夫か?」


「ええ大丈夫。とりあえず、外へ出ましょうよ」


 そうして外へ出ようとしたら何か声が聞こえてきた。俺達は一旦身潜める。




「……あ〜あ、残念、人が住んでいない所に出ちゃったか〜」


 カタカタ


「仕方がないわよ。こういうこともある事は知っているでしょう」


 カタカタ

 

「……」


「え? 暇なのも事実だって? まぁそうだけどよ。帰るにしても少なくとも3日はここを離れられないからなぁ」


 カタカタカタ


「いつも思っているけど、どうして言っていることが分かるのよ……」


 カタカタ


「慣れ?」


 カタ



 何だ? 人がいるのか? 妙な音が会話に入っているのだが……。敵かもしれないのでボロ屋の壁の隙間からそっと覗く。無論気配は絶っている。


「ヒッ」


 同じ様に覗いていたラヴィさんが思わず悲鳴を上げていた。大きく声を出すのは何とか避けることができていたが、ラヴィさんの気配がぶれてしまった。向こうが気付いてない、なんてことはないな。


 隙間から見えたのは服や鎧を着たスケルトンが4体いた。バトルアックス、杖、剣、鞭(……おそらく暗器使いだろう)をそれぞれ武器として持っているのが見える。


 彼らの中で、バトルアックスを持った奴が頭を回し、こちらを向く。その空洞の目は確かにこちらを認識していた。


「いたなァ……人間」


「今回も楽しめそうね」


「……!」


「ああ、退屈はしないだろうなぁ!」



 ……カタカタいっていたのは彼等が骸骨だから。しかも、ただのスケルトンではなく、ちゃんと意思があって、強者の気配がする。



 それが意味していることはただ一つ



 俺達は英雄達との腕試しアンデッドフェスティバルに遭遇したということだ。



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