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虎は旅する  作者: しまもよう
クナッスス王国編
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王都34 あとは…

 

 やっと寮へ帰り着いた。参加してくれた学生メンバーはすでに皆戻っていたようだ。学院の入り口で待っていてくれたキノコがそう言っていた。彼ももう半分寝ていたから詳しくは明日と部屋へ戻ってもらった。

 俺は寝入ってしまっているロウをとりあえずベッドに寝かせてゼノンやヨシズと少し話す。


「お疲れ。一応の解決だな。少なくとも一番の原因は取り除いた。俺達も寝るか?」


「そうだね。あとは明日やろう」


「ああ、それなんだが、明日はお前達はキノコ達と出かけるだろ? 悪いがオレは一応教師ってことになってるから後始末的なものに追われることになる。ロウの待遇とかだな。学院長が学院長だから何の問題にもならないとは思うが。キノコ達への説明はお前達に任せた」


 まぁ仕方がないか。『学院長が学院長』ってのはこの学院の最強だからだ。ロウが暴れても眉ひとつ動かさずに押さえこむだろう。


「……ロウもいるとちょっと部屋が狭く感じるな。というか俺の寝る場所がない」


「これも明日何とかしないとね。……もう寝るね、おやすみ」


「ああ。お疲れ様」


 ガウゥ《我も寝る。明日お前達が出かけている間は我がロウといよう》


「助かる。出来るだけ部屋から出ないようにしてくれ。ロウの待遇はヨシズが明日決めてくるからな」


 俺はロウに目を向ける。今はぐっすり眠っている。かなり張り詰めていたからな。精神的に限界だったんだろう。見たところまだ10になったかどうかの子供だ。


「……かわいそうだと思うよりもちゃんと生きていけるように育てないとな」



 *******



 翌日


「おっ、起きてきたか。シルヴァー達が最後だぞ。」


 待ち合わせの正門前には昨日参加してくれたメンバーがすでに集まっていた。


「すまないな。というか、お前達はどれだけ楽しみにしていたんだ? 」


「ふふふ。昨日は私達も結構仕事したもの。シルヴァーさんやゼノンくんは私達とは別だったから知らないと思うけど、陽動の方にかなり敵がきていたのよ? それを頑張って蹴散らしてきたのよ。……だから、弾んでね?」


 ……だいぶ懐が軽くなるかもしれない。

 俺達も心臓に悪い戦闘をしていたが向こうもかなり敵がいたようだ。だが待てよ? 陽動のメンバーはあの大広間までの予定だった。俺達がたどり着いた時はそんなに倒された魔獣がいなかったはずだが……。


「そんなにいたのか? 死体はそこまで多くなかったと思うが?」


「そう、不思議なことに一部の魔獣は倒したら消えちゃったのよ。致命的な一撃が入ったら魔力の塊になって散っていたわ。元から身体がなかったみたいに思えたわね」


 そんなことがあるのかよ……。


「それなら、そういった奴が多かったから死体は少なかったってことか?」


「ええ。これについてはもう王都研究所の預かりになっているから詳しくはそちらでね。まぁ、昨日今日では進展はないだろうけどね」


「王都研究所か……座学で少し出ていたな。あらゆるものを研究しているから規模が大きいはずだが詳しいことは一切分からないんだよな」


「そうそう。情報の公開はしているから皆問題にしないのよね。不思議な組織だと思うわ。

 ……ま、それはともかく、行きましょ。話し込んでいたから私達だけ取り残されてるわ」


 ラヴィさんの言葉でようやく俺は2人で取り残されていることに気づいた。ゼノンやキノコは……だいぶ先にいるな。


「追いかけるぞ」


「ええ!」




 そうしてたどり着いた目的地、【都レストラン】


 その外装をだけで俺は思わず顔を引き攣らせてしまった。ここは庶民も利用するのでそこまで格式が高い訳ではないのだが、それでも『高級』レストランである。

 ここの息子のミヤがまず確認を取りに行き、戻ってきたところで皆入っていく。俺とゼノン、キノコにラヴィさんは一番最後だった。


「ねぇ……ここまで来ちゃった以上腹くくっておくけど、ほどほどにしてよ? 俺とシル兄ちゃんの懐もそう潤っている訳でもないんだから」


 そうだな。最近は学院の生活でいやでも狩りに注ぎ込める時間が減っているから潤ってはいない。


「まぁ大丈夫だろ。たった12人だし。もし払えない金額になったら少し出してやるから。もちろん、貸しでな」


 何の慰めにもなってないぞ。キノコよ。というかお前、金欠だから今日は目一杯食べるとか言っていたよなあ。


「入らないの? 4人とも。今日は夕方まで貸切にしてあるから、ここでティータイムも夕飯も済まして行きなよ」


 じゃあお言葉に甘えて。と、全員夕飯もここで済ませることになった。


 俺とゼノンは顔を見合わせる。思いはひとつ。


『ヤバいんじゃないか?俺達の懐』



 そんな俺達を知ってか知らずか皆めいめいに楽しみ始めていた。


「俺達も楽しむか。どうせ金額が大きくなるならならロウにも土産にできるものも買っていこう」


「そうだね」


 中に入ると、驚いたことに昨日参加していた冒険者の人達もいた。キノコが独自に呼んでいたらしい。幸い冒険者は自腹ということで納得しているそうなので俺達が払う必要はなかった。ちょっと一安心。




「……さて、概ねの成功を祝って、」


「「「乾杯!!」」」



 同じグループになった、同じ仕事をした、そういったことは互いに連帯感を生み出していたようだ。冒険者の目に学生だと蔑む気配はない。学生であってもその力は十分通用していたことがよく分かる。


「シルヴァー、お疲れさん」


「ハルマさん。ここに来て大丈夫なのか?」


 国軍所属の人だったと思っていたが。


「大丈夫。冒険者としても活動しているからね。実は、キノコとは従兄弟の関係なんだ。だからちょっと無理言ってね」


「いや、それは大丈夫というのか?」


 キノコあてに菓子折りでも買っておこうか。


「まぁ、力関係ははっきりしているから。

 ……それはそうと、ちょっと聞きたいことがあったのだよ。学院はあの男の縄張りで侵入もできないからね。君達がここで宴会を企画していてくれてちょうどよかった」


「聞きたいこと、とは?」


「ロウのことだ。一晩経ったが暴走の兆候はないな?」


 やはりそのことか。ハルマさんもまめだな。この行動は彼女の独断だろう。


「大丈夫だ。おそらく問題ないだろう。少なくとも俺と話せるからか、実に落ち着いている。

 ……学院でのロウの扱いは今ヨシズが対応している。だが学院長が学院長だからそこまでひどいことにはならないと思う」


「君もなかなか察しがいい方のようだ。まぁ、それが分かればいい。あ、もうひとつあったか。

 もし暴走を抑える方法を見つけたら教えてくれると助かる。もちろん、報酬は出すし、期限も切らない」


 もし見つけたら、だがな。条件は悪くないから受けたが多分暴走を抑える方法などわからないと思う。


 ハルマさんはそれだけだと言って帰っていった。キノコにも声を掛けてはいたようだが、忙しないことだ。やはり影は忙しいんだろうな。そんな中わざわざロウを気にかけて来てくれたのには頭が下がる思いだ。


 宴会は本当に夕方まで続いた。ティータイムの頃から酒が入ってしまい、ゼノンが女性陣の餌食になった。デザートの食べ方が可愛かったらしい。子供っぽいと言われているのと同義だな。成人したというのに不憫な。


 夕方にはロウへのお土産も買って、精算を済ませたが金額を見るのがここまで怖かったのは初めてだ。店主が終始笑顔だったとだけ言っておこう。



 さて、ロウへの土産も持った、片付けもした。問題は……酔いつぶれてしまったメンバーの運搬か。冒険者の人達は自己責任として、学生の面々はこのままじゃまずいよな。


 ……結局酔い潰れずに済んだメンバーが1人2往復程したという、締まりのない終わりになった。




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