王都33 ロウ
今回はロウ視点です。『だれ?』って言わないで。
拙い文章で申し訳ないです。
―――見慣れない
僕がここに来てこの部屋で過ごすようになってだいぶ経った。体を起こすと窓から林が見える。でも、僕がいたいのはここじゃ、ない。
ここは、学院の寮の一部屋だ。
僕が居候しているのはシル兄さんとゼノン兄さん、アルの部屋だ。もし僕が力の制御ができなくなったらちゃんと止められるように、ということでシル兄さんが責任をもって僕を預かったそうだ。
本当だろうか。
起きてもどうせ部屋にしかいられないからまた寝転がり、考える。
兄さんが時々こぼす愚痴から推測すると、どうやら僕が普通に外へ出れるようにいろいろやってくれているらしい。だが、魔獣と融合しているなんていうのはどう考えても『バケモノ』でしかない。僕でさえもそう思うんだ。他の人は言うまでもないだろう。兄さん達には悪いけど、その努力が実ることはないと思う。
なら、僕は一生軟禁されるのだろうか、それとも研究機関で解剖されてしまうのだろうか? 僕の体は各国と対立している組織のもつ技術だ。もしそれについて何か分かれば対策をとれるかもしれない。敵のもつ技術を知るのは常道だ。……そんな流れになったら全力で逃げよう。幸い野で暮らす知識は備わっている。
あるいはそれが目的なのかもしれない。逃げたのなら、捕まえなくてはならない。まだ安全性が確認できていないのだから。でも、魔獣と融合したから相手…つまり僕は強い。追いかけてきた人にもよるだろうが、僕を捕まえられずに殺してしまう、などという結末も考えうる。
それはいやだ。……本当に、どうしてこんなことになったんだろう。
*******
あの日、僕は数人の友達と外で遊んでいた。母から最近はどうも僕のような使用人の子供が行方不明になっているから出来るだけ外へ出ないでくれと頼まれていたがそこは、子供だったからその言葉は上滑りして頭に残っていなかった。僕達がやった遊びは隠れ鬼だった。
「「「じゃんけんぽんっ」」」
ちょき、ちょき、ちょき、ちょき、ぱー。
「あ〜、一回で負けちゃった……。しょうがない、俺が鬼だ!! 20数えるから」
始めに鬼になったのは僕の親友のリオンだった。リオンが20数えているうちに僕と他の3人は隠れる場所を探す。ここは、小さい公園だからそれなりに隠れる場所がある。隠れ鬼をするなら東街区ではここしかない。
「い~ち、に~い……」
カウントが始まった。早く隠れないと。どこにしようか。リオンのことだから木の裏はすぐに探すだろうしなぁ。
「……じゅうごー、じゅうろくー……」
根っこにちょうどいい隙間をもった大きめの木があったので僕はそこに隠れた。リオンのカウントがかすかに聞こえてくる。もう時間はないからここから別のところには行けないな。
「……にじゅうっ! よし、探すぞ」
リオンが20数え終わったと推測される頃から少し経ったのでちょっとだけ外を覗く。リオンは早速一人を見つけていたようだ。早い早い。
そう思ったらリオンがこちらを向いた。まずい、見つかったかな?
「う~ん? 気のせいかな……ロウの視線だった気がするんだけど」
なぜ僕だと断定できる!? リオン……。
「う~ん……っ!」
「……ちょうどいい所に子供がいたものだなぁ。クヒヒッ」
突然、リオンの腕が掴まれてリオンを拘束した。正体は奇妙な笑いを漏らす男だ。リオンと一緒にいた、すでに見つかっていた子はすぐに逃げていた。たぶん、大人を呼びに行ったんだろう。僕達のように、貴族に仕えている使用人の子供はこういうことがあった場合、最低一人は大人を呼びにいくように言われている。そして、隠れていられるなら隠れているように、とも。
「ちっ、一人は逃したか」
「離せっ! 離せよ!」
リオンが抵抗する声が聞こえてくる。でも僕は助けにいけない。行っても大人にはかなわない。木の根の割れ目で震えていた。
「離せよ! くっ……気を付けろ……」
「クヒヒッ、誰に言っているのか……。まあいい、実験体にちょうどいいものが手に入った」
実験体……? まさか、身代金目的の誘拐じゃ、ない? それはまずい。それじゃ、助けが間に合わないかもしれない。早く大人に知らせないと。早くどこかに行ってくれよ。
早く、早く。
「……みぃ~つけた、クヒヒッ」
その瞬間、背筋が凍った。
「出てこい」
男の腕が僕を捕まえようと木の根の隙間という狭い空間で動く。僕は何とかして捕まえられまいと体を出来る限り縮めていたが、ついに男の指が服に引っ掛かって引きずり出されてしまった。
「クヒヒッ、やはり遠目に見えていたのはお前だな。都合よく俺が隠れている林に来たからこりゃちょうどいいと思ってたんだ、クヒヒッ」
なんだって? それなら、リオンは俺のとばっちりじゃないか。
「……なら、リオンは放っておいてくれ。狙いは僕だけだったんだろう? 捕まるのも、僕だけでいいはずだ」
「確かに二人はきついわな」
「……っ!」
体に変な力がかかって意識がとんだ。男がきついとこぼしたのまでは聞こえたからリオンはたぶん無事だろう。さらわれていないはず。
次に目を覚ましたのはどこかの部屋だった。窓がなく、薄暗いし、調度品はほとんどないけど過ごせないことはない。……食料があれば。
「クヒヒッ、起きたか。お前の望み通り、リオンとやらは置いてきたやったぞ。ここにいるのは今はお前だけだ。ああそれと、食事は2回、ここに持ってきてやる」
思ったより対応はしっかりしている。飢え死にすることはなさそうだ。だが、ここはどこだろう。王都から離れてはいないと思うけど、助けは来るかな?
2日後。食事を運んできた男がいつもとは別の人だった。
「奴の……はちょうどいいか」
何をいっていたのかよく聞き取れなかった。ちょうどいいとは、何が?
3日後。人が増えた。魔獣が人を運んできたのには驚いた。魔獣を手足のように使えるなら、あの時はリオンもろともさらわれていた可能性があった……? たまたまあの男だけだったのか、さらわれたのは俺だけで、リオンは無事だろう。……生きているよな?
「「ひぃっく、ふぇぇん」」
「な、泣かないで……落ち着いて」
今日新しくここに来たのは双子の女の子だった。カストル公の所で働いている人の子供だ。遠目に見たことがある。
ここについて、気づくやいなや泣き出したのに焦って落ち着かせようとするが泣き止んでくれない。最終的に僕と同じくらいの女の子が落ち着かせてくれた。
「……怖かったね……」
その一言が大きかった。やはり魔獣にさらわれたということがショックだったんだろうな。僕とは違う経緯だからいまいち想像できない。
その翌日くらいか。僕だけ部屋から連れ出された。その時に嫌な予感がした。最初に会ったときこの男は何て言っていた? そして、昨日ちらと見た別の男は何て呟いた?
『まあいい、実験体にちょうどいいものが手に入った』
『奴の実験体にはちょうどいいか』
まさかまさか、実験体? ついに、来てしまったのか? 助けは望めないのか?
実験体になどなってたまるかと抵抗したが最初に捕まったときにもあったあの変な力ですぐに意識をなくしてしまった。
いやだいやだいやだ……ユルサナイ。
『汝、その怒りを如何とす』
僕を実験体になどしたあいつを裁く
『汝に義あるか』
これは私怨だ。だけど、あいつが僕以外のものを同じようにしないとは限らない。止められるなら止めなくてはならない。
『……汝、その怒りを如何とす』
コロス。あいつを殺して納めるさ!
『よかろう。我らが殺意、共に晴らそうぞ! 基盤はお前だ。我が力を使うがいい』
意識を失っていたとき、確かにいくつかの問答をした気がする。たぶんあれは……僕と融合した魔獣とのものだったんじゃないかな。
そして今、そいつは僕に安全な人と危険な人を教えてくれている。この国の貴族は……危険。シル兄さん達は、安全。完全に警戒を解くわけにはいかないけど、聞いていいものかな。
「ただいまー。ロウ、大丈夫か?」
「お土産あるよー。ほら、露店もの。これ好きでしょ?」
ぐるる 《ありがとう》
この、優しい人たちに
『僕は、解剖するために生かされている訳じゃないですよね?』
『一緒にいてもいいですか?』
と聞いてもいいものだろうか。
でもなぜか一つの予感がある。
『もちろん』と明言してくれる予感が。
そして、いつかきっとここは僕が居たい場所になる。




