王都32 救出後
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アルは目の前にいる子の話していることが分からなかったようだ。俺はそれをハルマさん達に告げる。ダメで元々だったが少しは期待していたこともあって一瞬顔を陰らせていた。
だが俺はその雰囲気に乗れそうにない。
俺の耳は、彼の言葉を言葉として受け取っていたのだ。
「どうした、シルヴァー。変な顔になっているぞ。何かおかしな事でもあったか?」
「ああいや……ちょっとな……」
俺としては気のせいで済ませておきたいのだが……。件の子はどうも体が安定していないようで、こうしている間にもほぼ人の姿になったり、半獣半人の状態だったり、獣の姿になったりと忙しない。先程アルが対面していた状態はほとんど人と変わらないように見えていたが、今は獣の姿になっている。ここで言っていることを聞き取れたら先程のは空耳ではないってことになるな。
ちゃんと確認しようと話し掛けてきたヨシズを黙らせ耳を澄ます。
ぐるる《僕、どうなっちゃうのかなぁ》
「聞こえた、な……」
「ん? どういうことだ? ……まさか」
さすがヨシズ。察しのいいことで。
「そのまさかだ。何故か、俺には彼の言葉が分かるらしいな」
一体なぜ分かるんだ? 彼に混ざっているのはもしかして虎系の魔獣なのだろうか?
「ちょっと話してみる。……おい、俺の言っていることが分かるな?」
ぐるる《うん、わかる……》
「とりあえず、名前は?」
ぐるる《ロウ、です》
「うん、話が通じるようだな……ロウ、いくつか聞きたいことがある。分かる限りでいい。答えてくれるか?」
話が通じると俺が言うと周りで聞いていた者は皆驚いた顔になっていた。だがこれ幸いにと質問事項をまとめていくのは賞賛に値するな。切り替え早すぎるだろ。
目の前の子が了解したのを見て、質問を始めていく。俺は通訳に徹する。そこで分かったことと言えば、まず、やはりロウと融合している魔獣は虎系であること。奴らはこの技術を実用化する段階にまでいっていること。そして、ロウが知る限りここにいたのは先程俺達が遭遇したあの科学者風の男ともう1人特徴のない男がいたということなど。
「……もう1人いたのか。この教会にはもういないと見ていいだろう。冒険者組が捕まえてくれるといいが……」
ヨシズが唸るように言う。どうやら本当にちょっとの時間差で捕まえ損ねたと分かって悔しくなったのだ。
「特徴がないんじゃなぁ。朝になって人混みに紛れられたら王都の門でも捕まらないだろうな」
「特徴がないってことが何よりの特徴だとも言えるけどね。俺達でもたぶん見逃すと思う」
「特徴って大切だな」
「おい、そこの3人、撤収するぞ。いつまでもここにいても仕方がない。一旦城へ来てくれるか?」
了解、と各々返事をする。たぶん国王への報告と今後の対策などを話すのだろう。俺達のような根無し草(冒険者)は謁見まではいかないだろうがな。
「それと、そのロウ、だったか? そいつも城のところまで来てもらうが多分入れてはもらえないだろう。誰か1人は付いていてくれ」
「それは俺が適任だろう。話せるしな。だから俺が残る」
ガルゥ《我も残ろうぞ》
「助かる。で、ロウ。万が一その力が暴走する兆候があったらそこのシルヴァーに言え。それで、ロウ、おそらくお前はもうここにいられないだろう。酷いことを言っているとは思うが、理解してくれ」
仕方がないとはいえ、成人もしてない子には辛いよな。ロウは頷くが鳴き声にどこか悲し気な音が混ざっている。はっきりと聞き分けることができているのは俺とアルくらいだ。まぁ人が獣の鳴き声を細かく認識できるわけがないからなぁ。
「……シルヴァー、ちょっと来い」
ハルマさんが声を潜めて俺を呼んだ。ロウの側を離れ、メルを誰かに預けないと。
「……何だ? 他に指示でも?」
「……指示というかな、もしロウが暴走するようであれば楽にしてやってくれと言おうとしたんだ」
「……それは……」
「……王に危害を加えられる訳にはいかない。それに、王都には非常に多くの人が無防備に眠っている。そんな時に暴れられては困るんだよ。可哀想だが、大を生かすためには小を切らなくてはならないんだ」
俺は、悲しい気持ちでいっぱいだった。せっかくまだ生きているのにそんな厳しい道があるのかと。だがハルマさんが言っていることも分かる。仕方がないことだ。ロウが暴走しないように祈りつつ俺は指示に従う意思を示した。
「すまないな。だが、まだ可能性でしかない。そう暗い表情は見せんなよ?」
「ああ、もちろんだ」
*******
王城の近くに着いた。俺とアルは残り、他のメンバーは城の中に入っていった。
ここに来るまでに街に散らばっていた冒険者にも状況を伝えてきたからこの後騎士と見回りを交代して一応の依頼達成とすることになるだろう。
「シルヴァー、待たせた。ハルマさんやイルニーク伯、カストル公が報酬について増額してくれた。その代わりと言っちゃあなんだがな、ロウをうちで預かることになった」
そうだろうな。普通は余計な爆発物は持ちたくないよな。まぁ、道中にそのことは別に構わないと言っていたし、パーティの皆も反対はなかったからなんの問題もないんだが。
ぐるる!《いいのですか!》
「別に構わない。子どもが遠慮するなよ。俺達がしっかり面倒を見てやるからな」
ガルゥ《なかなか男前な発言ではないか》
ふっ、たまには格好良く決めておきたいからな……なんてな。
「さて、あとは追って知らせてくれるらしい。この場はひとまず解散だ。明日は休みだからそこでのんびりこれからのことを考えよう。ロウは俺の所で一緒に寝るか?」
ぐるぅ《はい》
俺はふと王城を振り返った。夜だと昼とは別の威圧感を感じる。
ロウを俺達の預かりとしたのは『王都に爆弾を置いておきたくないから』それもあるだろうが、ロウの身を案じてのことでもあるのだろう。人と魔獣の融合がここまで力を増す結果になったと欲深い貴族が知ったら我先にと引き取るという声を上げて、ロウを利用するという想像が容易にできる。
そんなこと、使用人にあれほど慕われているカストル公が許すわけがない。何が最良か考えて、ロウにとって一番安全なのは守る気がある冒険者の所だったのだろう。俺は、ただでさえ恐ろしい目にあったこの子を魑魅魍魎の巣食う場所に放り出しはしない。
ガルルゥ、ガルゥ《我も守るとともに、導こう》
「獣の姿の時は、任せた。俺じゃ説明できないからな」
「オレは、守ることについて教えることになるのか」
ヨシズに教えてもらえれば身を守るのは何とかなるだろう。
「そうだね。ならこっちは隠形術を教えればいいかな」
……ロウ、こちらでの生活も意外と大変かもしれないぞ?
俺は寝てしまっているロウに向けてつい心の中で呟いてしまった。とはいえ、そんな俺も彼のために何かしら教えるつもりだ。
「何にせよ、預かったからにはちゃんと力の制御も出来るようにさせないと。学院に通っている間は先生にも知恵を貸してもらおうか」
「「いいな(ね)」」