王都26 救出に向けて1
ギルマスに相談した翌日のこと。俺達はいつもよりもずっと早く起きて相談する。場所は俺とゼノンの部屋だ。アルもいることを考えて広目のところを貰えたのだ。だから相談するのにはもってこいだった。
「ね、兄ちゃん。今回はたとえ高ランクの冒険者であっても危険なんだよね」
「ああ。仮にアルを捕らえた奴らとは別件であっても異変があった場所で一切その跡を見つけられなかったあたり何が起こるかわからないって意味で危険だな。奴らであった場合は言うまでもないと思うが、魔獣との連戦だろうなぁ……」
「まあそこのところは置いとけ。今考えてもどうしようもない。必要なのはどうやって捜索を貴族に認めさせるかだ。俺の考えの通りならいくつかあるんだがな」
「ああ、ギルマスが言っていたやつか。あの感じだと最後の言葉で導ける方法が一番いいみたいだったな。『道は誰でも歩ける』だったか。いくつかって言ってもこのメンバーで思い当たるものがあるのはヨシズくらいだろう。ゼノンは何か思い当たることがあるか?」
「みち、ねぇ……全く分からないよ」
俺もゼノンもギブアップ。アルも降参のポーズをしている。
「そうだろうなぁ……。じゃあ教えるが、この方法は多くの協力者が必要なんだ。だが内容はいたってシンプルだぞ。人通りの多いの多い大路で噂を広め、東街区が賑わう頃にそこへ行って大きく呼びかけるんだ。口上としては『知っているか? 貴族の守るべき民、未来を担う子供が行方不明になっている。何故貴族は動かないのか』って感じになるか」
「おいおい、ヨシズよ……。それは貴族に喧嘩を売っているのでは……」
「そうだな」
「そうだなって、流石にまずいだろ!? 貴族と敵対すると冒険者の立場を……追われることはない、か……。だが日常を過ごすのに大変な目にあうんじゃないか?」
「それは大丈夫だろ。今回行方不明になっているのは貴族の使用人の子供だろ? 行方不明になっているのに探そうともしない責任は貴族にいく。仮に本当に情報がいっていなかったとしたら、その貴族は余程人徳がないか、慕われすぎて使用人が話すのを躊躇ったかだろうが、そういう人物は王家のテコ入れ対象だからこちらに注意を向けるなどとても出来ないだろうよ。それに、シルヴァーはイルニーク伯と面識があるだろ? 彼なら事情を察してとりなしてくれると思う。ここには他にも俺の知り合いの貴族がいるからどんな問題も叩き潰せるはずだ」
「結局あてにできるのは権力かー……」
「ある意味当たり前のことだよね。この国は絶対王政だったんだから」
「……確かにな。まぁ、後の憂いについてはなんとかできそうだと分かったが、俺達はどう行動したらいいんだろうな?」
「それについても一応案がある。
まず、行方不明の子供の親にコンタクトを取るだろ、そこで事情を聞く。その時にちゃんと冒険者であると証明できるものを持っていた方がいいな。
そこで貴族に対して子供たちの捜索の嘆願をするつもりであると告げる。たぶんここで乗ってくれるだろう」
「そうだな。子供を心配する親なら可能性がある限り泥舟でも乗るだろうさ」
「言い過ぎだ。泥船じゃ俺達も困ったことになるだろ。それは嫌だぞ。
……コホン。それで、子供がいる使用人を雇っている貴族の屋敷の前の通りからこの地区で子供が行方不明になっている。そのうちに貴族までターゲットになるんじゃないか。捜索に人員を割いてくれ。と言う。そのときに威圧感を与えるためにできるだけ多くの人が必要だから人を誘ってくれ」
「それだけで動くものか?」
「動かざるを得なくすればいい。王命がくだったとかでな。次に狙われるのは高貴な血筋の人かもしれないと言っても動いてもらえそうだな」
「あくどいね。でもどうやって王族も動かす? 王城にも働きかけるの?」
「シルヴァーの伝を使ってあらかじめ話を通しておけばいいだろう。現王は頭のいい人だからこちらの提示するメリットも察してくれるはずだ」
「そこまで言うなら……それでいくか。じゃあ今日は俺は伯爵に事情を話して手伝いを求めるだろ、ゼノンは人を集めてくれ。ヨシズは……」
「悪いが俺は仕事がある。そこまで手伝えない。だがマグルスにギルドからも人を呼んでくれないか頼むのはやっておこう」
「頼む。決行は休日である明日だな。時間はどうする?」
「午前がいいだろう。9時ごろがベストだ。それと、今日の夕方に行方不明の子供の親の元へ行くぞ。忘れるなよ」
「「分かった」」
かくして、俺達は動く。ヨシズとゼノンは学園へ、俺はイルニーク伯爵邸へ。シルヴァーの武具防具がそろそろ出来上がっているはずだ。
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「……では、あとは馬車ですね。今は安全性を高める作業をしているところです。それと、どうも職人が新しくアイデアが浮かんだとか。ですから、完成品は以前に言った効果にプラスして何かがつくかもしれません。まぁ、問題は無いでしょう」
以前に言った効果というと……快適空間、空間拡張、自動修復、獣除けだよな。それだけでも貴族くらいしか買えないような値段になるだろうに、さらに何か効果がつく?
……これは買うとしたら天井知らずの値段になるんじゃ無いか? 王家への献上品レベルだろ。
「……くどいようだが、本当にいいのか? 王族でも持っていないような物になるのではないか?」
「そうですね……確かにそれくらいのレベルにまでいくかもしれませんね。ですが、最初に出来たものはどれだけ完成度が高くても試作品とされるので裁量は作った貴族にあるのですよ。だから大丈夫です」
なるほど。貴族の制度に助けられたな。俺の精神が。
「分かった。それでは、馬車の方はよろしく頼む。武具防具は大切に使わせてもらおう。
っと、そうだった。もう少し時間を取れるだろうか? 話しておきたいことがあるのだが」
「構いませんよ。何でしょうか?」
「実はな……この街区で子供が行方不明になっているようなんだ」
そこでちょっと言葉を切ってみる。伯爵はこのことを知っているのかどうか。
「何と!? そんなことがあったのですか。
……しかし、貴族の間ではそのような噂はありませんでしたよ? 貴族の子息ではないでしょう。それならば、行方不明になったのは使用人の子供ですね?」
「あ、ああ。よく分かったな。確かに行方不明になったのは使用人の子供らしい。実はこの話はアル…俺のパーティーメンバーのウルフが持ってきたものだ。詳しい話は聞けていないのだが、昨日行方不明になったのはメル、ミルという双子らしい」
「ああ、カストル公のところの。それなら、もしかしたら公のところまで情報がいっていないかもしれませんね。
シルヴァーさん。行方不明の子供の救助にどういった方法を考えていますか」
「……悪いがそれは教えられない。貴族に話すと何処から情報が漏れるか分からないからな」
「そうですね。知らない間柄ならばそれもあり得るでしょうが、私達は違うでしょう。それでも心配ならば敵対するような行動はとらないと誓いましょう。無論、魔術的な枷ありきのもので構いません」
「誓いまでするならば話そう。ただ、その時は出来れば2人きりか貴方の一番信頼の置ける方1人の同席でお願いできるだろうか? もちろん3人目の方にも誓いはしてもらうのだが」
俺がこう条件を提示すると、ドアのそばにいた兵が話した。
「伯爵。話を遮ってしまい申し訳ないのですが、発言を許して頂けないでしょうか」
これにイルニーク伯は頷き、許可を与えた。
「では、失礼します。シルヴァーどの。貴族相手に条件をつけるとは、命が惜しくはないのか? 幾ら冒険者と言っても限度がある。その話し方も、態度を改めよ!」
「……俺は冒険者だ。命の大切さは十分わかっている。命はそう、大切だ。行方不明の子供だってな。……いいか、行方不明の子供達を助けるには早くから情報が漏れてはいけないんだ」
「だがな、お前の態度は……!」
兵士が激昂しかけたとき、パンパンと手拍子が鳴る。それに一旦言葉を止める。張り詰めた緊張感が少しだけ緩んだ。
「そこまでにしなさい。シルヴァーさんの態度は私が許可しました。これは何の問題もありません。たしか貴方の名はモス、でしたね。たとえどんなに無礼な態度であってもシルヴァーさんは私の客として招いています。手を出そうとするのは言語道断。頭を冷やして来なさい。
シルヴァーさん、お騒がせしました。誓約書も書斎にあるのでそちらへ行きましょう」
「ああ。伯爵だけでいいのか?」
「構いません。一番信頼できる人物は今は領地の方を任せていますから」
そうして書斎までやってきたのだが、流石貴族。置いてある蔵書もしっかりしたものが多く、素晴らしいものだった。その中のおよそ八割は俺が読めないものだろうがな。
「では、【我、ここに誓う】……誓約は成ったようですね。あとはシルヴァーさんの方で持っていてください」
【誓約】は魔力を帯びた特別な紙を用いて行う。書面の最後には双方の署名または血判を必要とする。これは一部の【契約】も同じだが、決定的に違うのは【誓約】では枷がかかるのは誓約した人物のみであるということ。この場合枷はイルニーク伯のみに適用され、俺は枷の解除権のみを持つ。
「ああ。さて、話すとしよう。
おそらく伯爵が聞きたいのは救出方法か? そちらについてはまだ詳しく決めれない状態にある。行方不明の子供達が何処にいるかは俺も分からない」
「そうでしょうね。では、予定しているこれからの動きを教えてください」
俺は朝に相談して決めた行動を話す。
「……ふむ。相手がカストル公でなければ実に有効な行動です。頭の固い法を変える一手にもなりますからね。ですが、今回においては悪手です。公爵は使用人からの評判が高いのでその作戦は不発に終わるでしょう。最悪、参加の意思を示した全員が王都を追われるかもしれません。ですが、王に知らせるのは策をどう変えるにしても大事なところですね。私がそれを引き受けましょう」
「助かる。それで、カストル公はそんなに影響力のある人物なのか。ならば、事情を話してこちらについてもらった方がいいのだろうか」
「ええ。その方が良いはずです」
「信頼は出来るのか? 俺はあまり貴族に縁のある生活をしていなかったからよく分からないのだが」
「彼は信頼出来ますよ。ええ。彼はマグルスやヨシズとの付き合いがありますから」
何だって? マグルス、ヨシズの知り合いか……確かにそれなら信用できるか? 同じ条件であるイルニーク伯爵も信用しきれなかった俺としてはどうにも賭けという感じが拭えないが。
「それに、彼は不正を許さないことで有名な……見た目武官な文官です。今回のことを聞いたら怒り狂い、即座に行動を起こしてくれるでしょう。気性は一般的にそう思われている武官も真っ青な熱血漢ですからね……」
『何度その性格に迷惑を被り、そのくせ助けられたことかハハハハハ……』と、遠い目をして伯爵が呟く。
それを目にして流石の俺も、そんな人が実在するなら信じられるかもしれないと思った。
「それなら大丈夫かもな。今日の夕方に行方不明の親御さんと話をした後にヨシズ達と向かうつもりだ。もし出来れば前触れをお願いできるだろうか?」
「それくらい、お安い御用です。ついでに私も同席させてもらえますか?」
「まぁ、事情を知っているからな……構わない」
「ではまた夕方に。おそらく私が先に着くでしょうから気にしないでください。それと、ヨシズによろしくと」
「ああ分かった」
形を成してきているのは泥船か否か。だが少なくとも分かるのはイルニーク伯が新たな乗船者になったということである。




