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虎は旅する  作者: しまもよう
クナッスス王国編
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王都25 トラブルは待ってくれない

 

 ――走る。ひたすらに。早く、シルヴァーたちの元へ行かねば。



 メルとミルの母親は我に助けを求めてきた。それはいなくなってしまった娘を助けてほしいということだった。我も詳しいことは知らぬ。教えてもらう前にメルミルの遊び友達であるリジー、シリル、レオがメルミルの母親の気持ちに引っ張られたのだろう。泣き出してしまったからだ。

 だがそれでも分かることはあった。メルミルがいなくなったのは我が不穏な気配を感じたあの場所だろう。リジー、シリル、レオがあそこにいたことからもそれは間違いないはずだ。


 ……嫌なところでいなくなるものだ。もしあの邪神信仰の集団が関係していたらまずい。魔獣の捕獲に加えて人体実験でもしようというのか?


 想像だけで動くのはよくないな。さて、そろそろシルヴァー達がいるあたりだろう。少し向こうに少々へばっている若者達が見える。おそらくその中にシルヴァーの姿を見つけ、その近くに跳び下りる。



 ザッ……


「何だ!?」


 驚いた声がしたと同時に拳が振るわれた。反射的に向けてしまったのだろう。全力が入っているわけではなかったので見切って避ける。我には造作もないことだ。


 ガゥ《落ち着いてくれ》


 シルヴァーの動きに気付いたその他の人も臨戦態勢をとった。流石にこの大人数に飛びかかられたら面倒なことになるからまずはシルヴァーに落ち着いてもらう。


「って、アル、か……驚かすな。それで、どうしたんだ? 何か問題でもあったのか?」


 確か東街区へ散策に出かけていたよな? とその目は尋ねている。


 ガゥゥグルゥ《然り。我が以前出会った子供らの中の2人がいなくなったそうだ》


「何だって!? あそこって、一応貴族街だろ? そんなことをする奴らがのさばっていられるのか」


 シルヴァーは驚きに感想を漏らすが事態は深刻なんだぞ。ポヤポヤしている場合か!


 グルルルっ《そういうのは後にしてくれっ! 早く見つけねばならんだろうが》


「そう急くな。アルはその件は奴ら(・・)に関わっていると思うのか?」


 その言葉を聞いたヨシズとゼノンは表情を険しくさせた。シルヴァーも真剣な表情を浮かべている。


 グルゥルルル《確定はできない。だが、奴らには決して不利益にはならないだろう。可能性は高い。だから急がねばならぬのだ! 人体実験に利用されたらどうする!》


「……まて、アル。焦ってもどうにもならないぞ。お前も落ち着け。そもそも、いなくなった子供の情報もこっちに伝えてもいないだろう。情報がなきゃ俺達も探しようがない。しっかり経緯を話してくれ。……いや、ここじゃまずいか。

 ヨシズ、ゼノン、用事ができた。ギルドに行くぞ。ゼノンは動けるよな? ヨシズはギルドに入ったらギルマスとコンタクト取れるか?」



 ここで話せという言葉を撤回して、シルヴァーはギルドで話を続けることに決めた。衆人耳目のあるこの場で子供2人攫われたかもしれないなんて話すのは余計に大きな混乱を招く。ギルドなら理解のある人物が多いからそこまでの混乱は起こらない。まぁ、内容が物騒すぎて注目を集めるのはあまり変わらないかもしれないが。それでも、シルヴァーの判断は正しいだろう。ギルドまでの道すがらアルの頭もいい具合に冷えるかもしれない。


 そんな判断をシルヴァーがしていたかは置いておくとしても、一応はパーティリーダーらしいところもあるものだ。ヨシズもゼノンも内心感嘆の声(ゼノンは尊敬、ヨシズは感心と、少しベクトルは違うが)を上げながら「是」の返答をした。


「動けるよ。何か腹に入れておきたいけどね」


「俺も問題ない。ギルマスがいなくてもサブマスに繋ぎを取れるはずだ」


「それならいい。さぁ、行くぞ」



 次の瞬間、シルヴァー、ヨシズ、ゼノン、アルが動いた。アルが持ってきたのは急ぎの要件であることは確かなので、各々全力のスピードを出しギルドに向かうためにシルヴァー、ヨシズ、アルは屋根の上まで登り、ゼノンは人混みに消えていった。


 その場に残された人というと……

「あら……置いてかれちゃったわ。シルヴァーさんとのんびり帰ろうと思ったのに」

 とはラヴィの言葉。驚いてないのは流石だがどこかズレていることは否めない。


 その他の人は


「なんだあれ……」


「鬼畜メニューをこなしたとは思えないほど余裕、よねぇ……」


「人間業じゃない……というかアルは人じゃないけどいやまて…どのみち人間辞めているというか?」


「混乱しすぎだな。俺もだが」


「でも助走もつけずに壁を登るとか……」


「ゼノンくんとか、すぐに分からなくなったよね……隠形術?」


「ふざけた身体能力だよ」


 呆れをもって見ているしかなかった。それほどまでシルヴァー達の身体能力は抜きん出ていた。なかには何故学院に通っているのかと問いただしたくなった者もいる。


「それでさ、あいつらの身体能力は置いておいて、何かさ、妙に焦ってなかった?」


「あ〜、そんな気はしたね。後で聞こうか。余程ヤバイ話じゃなきゃ教えてくれるでしょ」


「お、頼む。俺には明日教えてくれ。残念ながら俺は寮じゃないからなぁ」


「私達からもお願いするわ。もし力が必要なら遠慮なく言うように伝えてね」


「はいはい、分かったよ。正直、まだろくな力もついてない俺達が役に立てるのかは怪しいものだと思うけどな……」


「そりゃそうだ。さっきも余裕があったのは極一部だしな」


「……おい、思い出させんなよ」


「ははっ、悪い」


 ほとんど皆がそう深刻に考えることなく帰路についたが、早速ヘルプが来ることまでは誰も想像もしていなかった。



 *******



 ギルド


「……ん? 何か暗くなったな?」


 ダンッ!


「っうおおおおお!? 何だ、敵襲か!?」


 バンバン


 マグルスの執務室の窓に張り付いた影はここを開けろとばかりに窓を荒く叩いた。壊してまで力ずくに開けようとはしないあたり理性ある存在なのだと分かる。

 それを認めたら頭が冷え、マグルスの脳は高速回転する。そうしたら答えはすぐに出てくる。


「ヨシズか」


 この間、一秒。腐ってもギルマス。頭脳労働は得意なのだ。

 今回は何のトラブルを持ってきたのか。窓を開けてやりながら内心ビクビクしてはっきりと見えたヨシズに問いかける。


「こんな微妙な時間にトラブルか。今度はなんだ?」


「……はぁっ、はぁ。俺がトラブルであるみたいに言うなよ。まあ今回はトラブルを持ってきたってのは事実だが」


「早いな。ヨシズ」


 ヨシズが部屋に入ってきたすぐ後にシルヴァーが続いた。こちらにはさすがの俺も気付いていなかった。多分ヨシズとは別の方向から来たのだろう。


「……ん? お前ら全員できたのか?」


 俺の察知範囲内にゼノンとアルジェントの気配も追加された。アルジェントはもう着く。ゼノンは……入口にいるのか。


「……シュリ、悪いがゼノンをここまで通してくれ」


「かしこまりました。ついでに人払もしておきますね」


 頷くことで了承の意を伝える。本当によく気のつく秘書だと思う。有能な右腕がいるからといってサボれるわけではないのが悲しいことだ。

 ……さて、いい加減落ち着いてもらおうか。


「おいヨシズ。用件は何だ?」


「「っつ!人攫いだ!」」


「…………マジかよ」


 大分威圧を込めたので返事はすぐに返ってきた。が、それが問題だった。なんだよ、人攫いって……。


 詳しく聞こうとする前にゼノンが来た。これで【ウェアハウス】のメンバーは全員来たな。詳しく聞こうじゃないか。というか、これ以上仕事を増やさないでほしい。


「それで?」


「東街区の件の空地周辺でアルが接触したことがある子供のうち2人が行方不明になった。あの辺りではもう数人居なくなっているらしい。行方不明の子でアルが知っているのはメル、ミルという双子で、どこかの使用人の子だ。場所を考えると、どうもきな臭い」


 よりによってあの街区での誘拐かよ……。ちっ、面倒な。


「分かった。だがすぐに捜索には移れない。あそこに住んでいるのは貴族がほとんどだからな。許可を得るのに3日はかかる。残念だが、諦めるんだな。その居なくなった子供の親も雇い先からしっかり手当が出るようになっているから時間が解決してくれるだろうさ。ボソリ(……こんな制度必要ねぇと思うがな。どう考えても問題ありすぎだろうが)」


 この言いようにシルヴァー、ゼノン、アルジェントはそれはもう激しく殺気立った。俺でさえ思わず呑まれてしまったんだから相当だ。このままフォローなしじゃ殺される。そう思ってすぐに言葉を続ける。


「まて、そう殺気立つな。今の言葉はこの王都で定められていることだ。古くからある国だから妙に頭が回っていない決まりがあるんだよ」


 ……ふぅ。幾分かは和らいだか? ヨシズ、頼むからフォローしてくれよ。お前は気付いているだろう?


「ほら、シルヴァーもゼノンもアルも落ち着け。マグルスは決まりって言っただろ。しかも、大昔のものときた。それなら、抜け道があるはずだ。気付けよ」


「……抜け道?」


「抜け道ね……分からない」


 ゼノンも分からないんじゃダメだな。シルヴァーが分かるはずがない。アルは言わずもがな。


「抜け道って言うと分からなくなるのかね? ヨシズが気付けたんだからゼノンくらいは考え付くと思ったんだがなぁ。

 あのな、昔はこの国はガッチガチの王制……いわゆる絶対王制で身分もしっかり区分けされていた。民衆は理不尽に耐えるしかなかったんだよ。だが、今は大分緩くなっているのは分かるよな。だから、有志を集めて早急な解決を求めればあるいは……な。

 ここでの話だが、国も頭の固い法律に悩まされているんだ。問題が起こればその都度今にあったものに改定しているからひょっとしたら動いてくれるかもしれない。

 他にもシルヴァーはイルニーク伯爵と面識があったよな? そっちに話を繋ぐのもいいだろう


 あいにくとギルドの対応はこの国の法律を大きく無視したものにはできないんだ。だが他にも方法はあるんだからそっちをやってくれ。俺のオススメとしては……『道を歩くのは誰でも出来るぜ?』と、それくらいだな」



 さあて、これでどう動くかね? まあギルドで出来るのは支援くらいのものなんだが。

 この国ももう少し融通がきいてくれると楽でいいんだがなぁ。今回の件はその一歩になってくれるかね?







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