表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虎は旅する  作者: しまもよう
クナッスス王国編
53/452

閑話 アルジェント



 

 ……我は暇である。シルヴァーとゼノンが学院に通うにあたり宿を引き払って学院の寮に移ったのに合わせて我も寮とやらで生活することになった。だがこの寮とやらが学院の敷地内にあるため外……王都内を散策しようにも我の出入りを可能にする許可証をもらわねばならないのだが、シルヴァー達が入学して2日目の現在はまだ出来ていないという。


 我が見たところ、この学院を覆っている結界は魔獣の侵入を防ぐ効果も持っているようだ。だから我が出入りするには許可証が必要となるのだろう。

 ……いくら我が聖獣といえども、魔獣の因子を持っていることにかわりはないからな。最初にここに入るときもひと騒動起こった。あのときは学院長が何かしてくれたおかげで入れたが出ることまで考慮していなかったらしい。昨日それが判明して平謝りされたな。お詫びに肉をたくさんくれたから許す。


 ……だがやはり暇である。学院の敷地は広いとはいえ昨日のうちに一通り見てしまった。校舎も同じだ。昨日も暇に耐えかねてここを出て色々見て回ってきたのだ。とりあえず本校舎に行き、生徒に見つからずに全教室(ただし、学院長室は除く)に侵入というミッションをこなしてきた。空き教室は何の問題もなく入れた。それ以外では驚いたことに職員室が一番ゆるかった。大丈夫なのか? 我の知ったことではないが。


 そういえば、所狭しとロッカーが置いてある部屋があったな。一つ一つに番号が振られてあったからおそらく生徒用だろう。見ただけでは普通のロッカーに思えたが、ちょっと集中してみると異様なことに、魔力を帯びていた。魔道具か、これは。似たようなことで、職員室の机の引き出しも魔力を帯びていた。たまたまいたドル爺が教えてくれたのだが、職員室の魔力を帯びた引き出しはアイテムボックスのような効果を込めているらしい。だからいたずらに壊さないようにと注意された。……我をそこらの馬鹿犬と同じように見ているのか? そこまで愚かではないぞ。というか、今の我の言葉はシルヴァー以外に通じないというに、何故ドル爺は分かったのだろうか。表情か? 獣故に感情に素直だから仕方がない。


 ……やっぱり暇である。回想するにも限りがある。どこか行こうか。


 そうして向かったのが特別棟。たしかこの時間はドル爺がつめていたと思う。


 たのも〜


「ほっほ、アルか。よう来たの。ゆっくりしていくといいぞい。何ならサボちゃんと対戦するか?」


 良いのか!? サボ殿は我といい具合に拮抗した力を持つ、サーベルタイガーのなかでもトップレベルの存在である。対戦は互いの戦闘技能の向上につながるのだ。


「ほっほ、ご自由に。最近はとんと挑戦者がおりませんからなぁ。生徒も腑抜けておる。今度、模擬戦トーナメントでもやらせてもらおうかの。あれならサボちゃんもそなたも参加できるであろう」


 ドル爺……やっぱり我の心を読んでるのではないか? 暇を持て余している我にぴったりのイベントではないか。もし本当に開催するなら是非参加したい。


「……参加の方向で決まりかの。さあ、サボちゃんも既に待機しておる。存分に遊んでくるがええ」


 もちろんだ!


 その日は存分に対戦しあった。勝敗についてはまあ、悪くはなかったとだけ言っておく。


「なかなか見ごたえのある対戦じゃったのう。両者とも楽しめたようで何よりじゃ。またくるがええ。……おおそうだ。もう聞いたかの? お前の許可証が出来たそうじゃ。学院長のところに行けば貰えるはずじゃ。詳しい説明もそこでしてもらえ」


 やっと……やっと出来たのか。ようやく我も外へ出れるな。王都はまだまだ気になる場所が多いのだ。これで出かけられると思うと大変嬉しく思う。


 では、ドル爺、我は学院長のところに行って来る。サボ殿とはまた対戦させてくれ。ドアへ向かいながら人が手を振るように尻尾を振る。


「行っておいで」




 そしてやってきた学院長室。今は少し手が離せないそうなので許可証の説明は少し後になりそうだ。我は応接室で寛いでいる。


 許可証が来たらどうしようか。やはり気になるのは東街区だな。一人で行動するなとは言われているがシルヴァーもゼノンもヨシズも手が離せないではないか。我は早い解決を求めているというに……。今夜あたり許可をもぎ取っておこうか。


「……お待たせしました。これが許可証です。戦闘の邪魔にならないように首につけるようになっています」


 差し出された許可証とやらを首につける。ふむ、確かに戦闘の邪魔にはならなさそうだ。だが待てよ? 我は大きさを変えられる。もしこのまま大きくなったら首が絞まってしまうのではないか?


「これは特別な素材を使用しているのでどんな大きさにも対応できる優れものですよ。アル君の許可証を作るとどこからか聞きつけたマグルスが……あ、現ギルマスのことです。で、そのギルマスがアル君が体の大きさを変えられることを知っていたようで、いつもの素材では意味がないと忠告しに来てくれたんですよ。それで急遽予定を変更してたまたまギルド倉庫にあったゴム蛇の皮で作ったので君が大きかろうが小さかろうがぴったりになるはずです」


 ……確かにそのようであるな。子犬バージョンでも大型犬バージョンでも苦しくない。本来の大きさでも多分大丈夫だろうな。


「ちなみに、マグルスがそれにギルドカードの機能もつけていたので無くさないように。君が喋れれば依頼を受けることもできるそうですが、現状では難しいですね。くれぐれも、悪用しないように」


 了解した。我が喋れればもっと自由に動けるのか……真面目に今の念話の問題を解決せねばならぬな。




 時計の針を進めて、シルヴァー達が学院に入ってから1週間経った。我は許可証をもらったら出入りは自由になった。よって、かねてから計画していたことを実行に移そうと思う。単独行動については渋るシルヴァー達をアリーナで対戦して倒すことで認めさせた。我が思っているよりサボ殿との対戦は力になっていたようだ。3対1でも余裕で勝てた。


 では行こうか。東街区へ! 今日は午後はシルヴァー達も外で授業を行うらしいから万が一何か事件が起こっても駆けつけられるそうだ。そこまで念を押さずとも……というくらい言われてウンザリしたのも記憶に新しい。


 東街区の端の空地。そう言えばあそこは何故あのままなのだろうか。シルヴァー達はあの地区はほとんどが貴族の屋敷で埋まっていると言っていた。あとは使用人用の宿舎だとか。ギルマスのところに行った時も東街区の空地で通じていたが『貴族様が自分の持つ土地を空地になんてしておくものかねぇ』とボソリと呟いていた。


 あそこは誰か持ち主がいて、それは貴族である。

 見栄を張る貴族なのに、あの場所を空地のままにしている。

 草が生い茂っていたあたり、管理されているとは言えない。


 あの空地は場所にそぐわない状態なんだな。誰かが所有している場所だというのに子供が遊び場にするほど放って置かれている。しかもあそこで会った子供の親が迷わずあの場所に探しに向かう程度には昔からあの状態なんだと思う。


 怪しい場所なんだがな……。間違いなく我等を捕らえた奴らに関係した場所であるとは言えないのがもどかしい。まだ隅から隅まで調べたわけではないし、所有者がいる以上勝手な行動もできない。シルヴァー達に迷惑をかけるわけにはいかぬゆえにな。


 そしてようやく目的地に着いた。今日は普通に道を使ったので最初の時と比べれば遅い到着だ。屋根を伝って行くというのは意外と時間の短縮に繋がるのだな。



 ふむむむ……我以外の魔獣が通った気配はある。だが獣らしさがない……のか? どこか機械的な感じがする。

 ……どうとも判断できんな。人と一緒にいる魔獣も支配された魔獣も街の中では大人しいから見分けがつかん。何の魔獣かくらいは知っておきたいが。


 うっすらと残っている匂いをたどる。すると、本当に端も端の王都を囲む壁の所に辿り着いた。匂いは上へと続いている。


 ……これは確定か? おそらくここを登って行ったのは魔獣であろう。人が登れるとは思えん。


 これ以上追うことはできないので場所を覚えてからまた空地に戻る。今から戻って子供らはいるだろうか。先程は見なかったな。




「メルー! ミルー! どこにいるのー!」


 空地に戻ったら何やら問題が起こっているようであった。叫んでいるのは以前子供らを迎えに来ていた女性である。メルミルのお母さんだとか言っていたな。


「あ、わんわ……」


 近付いたらまず子供らが我に気が付いたようだ。一斉に駆け寄ってくる。


「「「ふ……ふぇ……わぁぁぁん!」」」


「あ……リジー、シリル、レオ」


 子供らは我に抱きつくや否や火がついたように泣き出し、それに反応して女性も我に気が付いたようだ。ふらりと近付いてくる。我は子供らの涙を拭う。


「リジー、シリル、レオ。不安にさせてごめんね。あなた達はとりあえず家に戻りましょう」


「「「でも……メルが、ミルが!」」」


「大人が探し出すから。必ず見つけるから。1度戻りましょう? ほら、ウルフさんが困っているわ」


「「「うん。わかった……」」」


「……ウルフさん。もし私の言っていることが分かっていたら、あなたのご主人にこのことを伝えてくれないかしら? 最近、使用人の子供が行方不明になる事件が相次いでいるの。少しでも多くの手が欲しいのよ」


 本当に切羽詰まっているのであろう。形振りなどかまっていられないのか、言葉が通じていると確信も持てないだろう我にも協力を求めるとは。


 がぅ《手伝おう》


 母親の頬を伝う涙に、我はこの事件に巻き込まれてやろうと思った。聞こえないだろうが、了承の旨を口に出す。


 彼女の泣き顔も子供らの泣き顔も見たくない。さっさと解決して笑顔を見せてもらおう。早くシルヴァー達に話さねば。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ