王都20 とばっちり
昼食会は大盛況だったとは思う。会場の至る所で喧嘩まがいのことが起こっていたが。そしてその内容も授業で扱うものが多かったので職員が呆れていたが。彼らの思いは一つだった。『学ぶ前の段階でここまで議論できるとは、今期は仕事が増えそうだ』と。後から聞いたのだがこれはヨシズの言葉なので間違いない。職員一同の予想はこれからいろいろな意味で仕事が増えるだろうとのこと。おそらく俺達の仲裁とかだろうな。まぁ頑張ってくれ。
昼食会の後、俺達は学院内を案内してもらった。だいたい5、6人に先輩2人がついた数グループに分かれ、普段使う教室や、戦闘試験に使った特別棟、果ては練習用武具倉庫や学院長室まで突撃させてもらった。よかったのだろうか? アッシュ学院長の眉間にシワが出来ていた気がするのだが? しかも、俺は聞いてしまった。学院長が『 授業が始まったら、今期の生徒はかわいそうですが問答無用のハードモードで指導しましょうかね。ふふふ……執務を邪魔した腹いせです。』と呟いていたのを。俺ら、とばっちりが確定してるじゃないか! 先輩方め……。
あの呟きが聞こえていたのは俺とラヴィさん…つまり獣人のみだったらしい。2人して急に青い顔をしだしたことに残りのメンバーが疑問をぶつけてくるが、言っていいものだろうか?
「あ〜、先程、学院長室へ行っただろ? 退室する間際に恐ろしい計画を呟いていたのを聞いてな……」
先行き不安とばかりにどよんとした空気を作り出す。俺の周りに雨が降る寸前のような雲が浮いているように見えるはずだ。ちなみにこれ、魔力があれば誰でも出来る。正式には『メイキングエフェクト』と名付けられている。使用者の背後及び周囲の景色に手を加えるという効果がある。通称、『背景』。もっとましな名前はないものか。これをつけたやつ、余程ネーミングセンスが無かったんだろうな……。それで、これは所謂お遊び技術だな。人化した後ヘヴン(俺が持っている鈴と懐中時計の形をした魔道具の作成者で、今より遥か過去にいるらしい)が1番最初に勧めてきた技術だ。その割には今までほとんど使ってない。何しろ、使うとどこかふざけた空気になるから使い所がなかったんだよな。
「な、なんだよ。そこで勿体振るなよ」
背景を使ったお陰か、いい感じに怯えてくれる。しまった。笑いが込み上げてきて続きを言えない。
「そこからは私が話すわ。そのね、学院長は私達が執務の邪魔をした腹いせに最初からハードモードの授業を行うと言っていたの。先輩方、どういうことなのか聞いてもいいでしょうか?」
俺の後に続けて言ってくれたラヴィさんは話の矛先を先輩方に定めた。話を向けられた先輩方は一瞬ビクッとして顔を青ざめさせていた。思い当たることがあるんだろうな……。
「先輩方? 詳しく、教えて下さいますよね?」
ラヴィさんが言葉を続けた。詳しくの後に「、」をおいた所がミソだ。妙な威圧感がある。見た目が可愛いから余計にそう感じるのか。俺もちょっと怖い。先輩方もその迫力に諦めがついたのか割と素直に話し出した。
「……ああ、分かった。疑問に思うのも尤もだ。実は、冒険者コースは一番初めの授業で3つの選択肢が与えられるんだ。俺らの時は確か……
『冒険者コースに来た諸君、君たちは十分わかっているでしょうが、まだ未熟なひよこでしかありません。君たちはここで立派な冒険者になるために必要な技術を磨いてもらいますが、これからの授業の進め方について君たちに3つの選択肢を与えようと思います。
一、1年での卒業を目標に座学と実戦を半々で学んでいく
二、半年での卒業を目標に実戦重視で学んでいく
三、半年での卒業を目標に徹底的に訓練を行い全てを体に叩き込む
さあ、君たちはどれを選びますか? ちなみに、我々のオススメは三です。一番実力がつくでしょう。ほとんどの人がAランク目前までの実力をつけることができます。実際にAランクまで上がり栄光を手にした卒業生もいます。
ですが、
一番厳しく、かつ初めから危険であるのも三。覚悟無き者はすぐに脱落してしまうでしょう。
どうぞ、好きなものを選びなさい。もちろん、どれを選んでも我々が君たちをしっかり導くことに変わりはありませんよ』
……まず学院長にこう言われたんだ。ああ、突っ込みは後にしてくれ。俺達はその選択肢の中で二を選んだ。Aランク相当の実力がつくというのはとても心惹かれる言葉だが未熟なまま危険だという道を行く勇気は俺達にはなかった。全員一致で選んだのは二、だった。だが、いざ授業が始まってみればそれはもう、きついなんてものじゃ無かった。考えてみれば当たり前なんだ。たった半年から一年で実戦に耐えうる実力をつけさせるんだ。日々の訓練に甘さなんて許されない。もし、俺達が三を選択していたら……心が折れたことだろうな。すまん、話がそれたな。
たぶん学院長が言っていたハードモードというのはあの選択肢中の三に当たるのではないかと思う。内容は俺達も知らないが、あの学院長のことだ。問答無用で森放置とか考えているんじゃないか? なんと言うか、ご愁傷様? 流石に死にはしないだろう」
いや、俺ら、とばっちりだよな? 元はと言えば先輩方が引き連れていったせいだろ?
「先輩……じょうだんじゃ……俺ら、とばっちりじゃないですか」
「流石に心が折れることが想定できるような訓練は俺も受けたくないんだけど。……冗談ですよね?」
「冗談じゃないぞ。まあハードモード確定については悪かったと思うが、前向きに考えておけよ。Aランクへの道が開けた、とな。……じゃないと多分持たないだろう……」
俺は先輩の最後のつぶやきが恐ろしい。持たないとか、一体なにを指しているのか。
「……まぁ分かりました。早いうちに覚悟を決める猶予ができて良かったと思っておきます」
ラヴィさん……潔いな。
「君は……そこらの男より思い切りがいいな。十分生き残りそうだ」
「まあ確かに、もうどうしようもないから俺達も覚悟を決めるか。な、ゼノン」
「そうだね。グダグダ言ってもしょうがないね。それに、よく考えてみればサボちゃん相手には十分な実力をつけるメニューの方がいいかもね……」
確かにそうだ。サボちゃんを倒すにはかなりの努力が必要か。……うむ、覚悟を決めやすくなったな。
「え? お前達それでいいのかよ!」
別にいいだろ? 目的のことを思えばこれくらいの覚悟が必要になりそうだ。目の前のこいつは同じ冒険者を目指すとは思えないな。覚悟くらいすぐ決めれるようになれよ。
「あっさり覚悟を決めるなぁ。すぐに覚悟を決めれる方が少数だと思うぞ? というか、サボちゃんと戦闘したって言うのはお前達2人だったんだな。……あの試験は俺は後から聞いただけだが、無茶もいいところだ。よく頑張ったな」
すぐに覚悟を決めたことに感心されたが何故か憐みの目を向けられた。……そうか、誰の目から見ても無茶な試練だったんだな。vsサボちゃんを試練にと考えたやつ、覚えてろよ。
「ああ、そうだ。歓迎会は院内の見学を終えた者から会場入りするようにと言われていたんだった。この後用事があるやつはいるか? いなければ早速会場に行くぞ」
今日はヨシズやゼノンと話して完全にオフの日にしようと朝のうちに決めていた。アルだけは不満そうだったが一蹴しておいた。おまえは普段から俺達以上に狩りを満喫してるだろうに。
「うん、皆行けるみたいだな。じゃあ、ちょっと戻ることになるが特別棟に行くぞ。そこの一つを借りているんだ。まあ行けばいろいろ驚くぞ。あ、2人はバラすなよ。大人しく口を閉じていてくれ」
もちろんだ。若干一名が素晴らしいリアクションをしてくれそうだからな。
俺はゼノンと目を合わせ、ほくそ笑んだ。ああ、楽しみだ。
「そういえばアルはどこにいった?」
「ラヴィさんのところにいるじゃん。ほら、抱かれてるあの毛玉」
あれか……いつの間に子犬姿になっていたんだ? というかちょっと羨ましいな。




