王都19 そして昼食会
あの後、俺たちの様に既に冒険者であるメンバーは皆ギルドカードに学生の身分が追加されているとの説明され、確かめてみればなるほど、確かに学生の表記があった。まだ冒険者登録をしていない人は仮登録を今日のうちに済ませるそうだ。この学院の事務は忙しいだろうな。俺は絶対に勤務したくない。
そして続いた昼食会。それは学院の食堂で行われた。ここの案内も兼ねているらしい。しっかり覚えておかないと。この学院、広すぎて毎年迷子が出るそうだ。そんな間抜けな醜態は晒したくない。
話を戻して、食堂は大変広い。ここに通う学生も非常に多い上、貴族、冒険者と身分も上から下まで揃っているので住み分けと言うか、余計な諍いが起こらない様に広く作られたそうだ。創設当初は今よりずっと狭かったらしいのでそれは大変だったことだろう。
さて、ここまで来てもまだ俺達にいくつもの視線が向けられている。視線が痛い。そして鬱陶しい。
「なぁ、そろそろその熱い視線を向けるのを止めてくれないか? 鬱陶しい」
ギラギラとした光線が式の間中、移動の際さえも突き刺さっていたのだ。いい加減飽きる。獲物を見つめている様なその視線はたとえ女性から送られていたとしても遠慮したい。
……しかも実際は男共が大半を占めていたという悲しいまでに何の慰めにもならない事実があるんだよな。
「うん。うるさいよね。こうなると知っていたらヨシズさんの言葉を無視して着替えたのにね……」
全くだ。ゼノンも同じ思いだよな。
だがそれを聞いた男……俺達を見つめていた男の1人がすぐに返答を返してきた。
「何を言うか。皆待っているんだぞ」
なにを?
「「「どんな戦闘風景だったのか聞きたい! サーベルタイガーとの戦闘、どうだったんだ?」」」
……それか、それなのか、聞きたいのは。まだ戦うには早い存在だろうに、俺達の格好をみればボロボロに負かされたのが分かるだろうに、聞きたいのな。正直、自分で体験してこいと言いたいんだが。
「自分で体験してきたら? 今日はまだ待機しているかもよ? あ、ちなみにサーベルタイガーの名前はサボちゃんだってさ」
あ……ゼノンが言ってしまったか。俺も同じ気持ちだし、それに追随しておこう。
「俺の知り合いが臨時で職員をやっているから話はすぐに通せるぞ? 聞くより体験したほうが身になるだろ。挑戦したらどうだ?」
ふふふ……どうだ、もう何も言えまい。もしまた聞かれてもお前が実際に挑戦すればいいと返せばいいな。戦った感想を知りたいんなら自分で体験してこいよ。間違いなく皆同じ気持ちになるぞ?
「それはそうだがな……たとえ今から挑戦しても結果は目に見えているだろ。同じように負けるだろうさ。俺らはな、お前達が感じたことをもとに対策を自分で考えてみてから行きたいんだ。だから、頼む! 教えてくれ」
……そう頭下げられてもなぁ……又聞きの情報からどうやって有効な対策を思いつけるというんだ? まぁ、いざ冒険者として行動するとなれば必須の能力ではあるが、vsサボちゃんについては自分で情報を集めるべきだろ。せっかく死ぬことのないアリーナで対戦できるんだ。自分で情報を集めるという経験を積めよ。 これについてはその能力を伸ばすという意図が隠されているんじゃないのか?
などということを言ってみたが向こうは納得がいかないようだ。
「冒険者が得る情報は大半が又聞きのものだろ? それを想定した行動をすることこそがベストなんじゃないか。早く教えてくれよ」
「いや、自分で情報を集めるという経験こそが依頼者の意図を理解し、よりスムーズにこなすコツになるはずだ。サボちゃんは何度でも挑戦できる相手なんだぞ? しかも格上だ。こういう相手には何度も何度も挑戦を重ねて身につけた反射が勝機を掴むんじゃないか。聞いただけで立てた対策など、何の役にも立たない」
「……チッ、分かってないな。そんなんじゃどうせ落ちこぼれになるぞ。
もういい。この後誰かに行かせる」
おいおい、一気に言い方が子供っぽくなったな……しかも、行かせるって、差別意識でも持っているのか? そのままじゃ冒険者として登録はできてもそこまで高いランクにはなれないぞ? 高ランクの認定試験には性格診断も含まれていたからな。
「……それ以前に、ロクでもない大人になる将来しか浮かばないな」
「なんだと? お前、喧嘩売っているのか?」
居るよな、こういう悪口に対して異常に耳がいい奴。だが俺が言ったことは本心だから言い訳をする気にもならんな。
「喧嘩は売ってない。悪口と取るか忠告と取るかはそちらの自由だがな、お前のその態度は他者を見下す心が潜んでいるように思える。そのままじゃ孤立するぞ? 俺達にそれは障害にしかならない。あれは俺の本心からの言葉だ」
「………」
「おいおい、何でここはこんなに険悪な空気が漂っているんだ? シルヴァー、説明出来るか?」
見かねてかどうかは知らないが、いつの間にか近くにいたヨシズが話しかけてきた。そこで俺はこうなった流れを話す。
「……ああなるほど。情報の扱い方に対する意見の相違だな。シルヴァーの主張は間違っているわけではないな。例えば討伐依頼では依頼書に書かれている事が問題の地域の全てではないから自分で異常であるかそうでないかを理解しなくてはならない。自分で情報を集める能力が大切になる。だが、君の意見も間違ってはいない。経験を持つ他者の意見をもとにして策を講じるのは雑務依頼では必須の能力だ。これも例えば、屋根の修理を頼まれたとする。適当にやっていたんじゃ時間はかかるだろうし、不備も見つかるかもしれない。だが、いい評価をつけてもらったことがある人にやり方を聞いておけば時間の短縮にも繋がるし、不備もなく、評価が高くなるはずだ。
要は使い分けなんだよ。これにはこれと言った正答はないんだ。
それで、さらにヒートアップした理由を聞いたが、こちらは君に非があるぞ。君の『誰かに行かせる』という言葉は誰かをサボちゃんとの対戦に行かせてその人物が持ってきた情報をもとに今度は自分達が挑戦するということだろう? 君が『行かせる』人物が君の固定パーティメンバーで、そういうことが頻繁に行われているなら『パーティ内においてメンバーは平等に扱われなくてはならない』という規約に反するということでギルド追放の処分を受ける可能性があるし、固定メンバーではないならもっと悪く見えるんじゃないか? 君の上から目線の言葉はその人物を使い捨てにする意思があったとみなすことができるからな。そうなると、君はシルヴァーが言うように孤立してしまうだろう。冒険者のほとんどはそういった人を嫌っているぞ? ちゃんと問題点を自覚して直せ。
……というかな、お前ら、こういった内容はもう少し後の授業で扱う予定だったんだが。今期は最速卒業組が多くなるかもな。まあでも職員の手間も減るし、こういう風な議論はどんどん重ねていってくれ」
なんとなく整理できた気がする。情報の扱い方に対する意見の相違か……。向こうの言うことも全く間違っているわけではないと。
そうか……。
「すまなかったな。少々俺の考えが足りなかったようだ」
「いや、俺こそ自分の中に他者を見下す心があるとは思ってもいなかった。サーベルタイガーとの戦闘を思い出すのも正直に言って辛いだろうに無理言って本当にすまない」
ここに和解が成立した。それは喜ばしいことだが……一つ訂正していいか? 俺はサボちゃんとの対戦はそれほど辛い思い出ではないぞ。むしろリベンジに燃えている。
『サーベルタイガーとの戦闘を思い出すのも〜』の下りでゼノンとアルが揃って「んな(辛い)わけねーよ」と言わんばかりに視線を向けていたことは記憶から追い出しておく。
俺達のやり取りを聞いていたアルの『戦闘脳にそんな精神はあるまい』という言葉はまさか……
俺を戦闘狂だと思っていることによるもの……だろうか?
今回は書いていて私も訳ワカンネ状態になりました。最後の方のヨシズの長ゼリフは私の頭を整理するために喋らせたようなものです。私の表現力の無さは……泣けてきます( ; ; )