461 教会内で人探し
名前だけが書かれたリストを手に、俺は柱の陰でため息を吐いた。ここから、Aランク冒険者にあるまじき非効率な動きをしなくてはならない。教会の解放区間で名前だけを頼りに8人……ではなく7人の神官を探すのだ。そのついでに、獣人排斥派の確認も行う。獣人への差別意識を持っていそうな神官などの顔や特徴を覚えておく感じだな。
このエフラヴァーンで起こっている妙なことについてそのままにしておくのは座りが悪いからな。それに、面倒だがこれは依頼であり、一応、金になるのだ。
俺は無理やり気持ちを奮い起こし、歩き始める。
別に命の危険があるわけでもなし、散歩程度に考えておけばいい。それに、咎められたとしても『マーク司祭から頼まれている』という呪文もあるからな。
探す7人の名前は、アンヘム、ヤスミン、タマラ、サンドル、ナタリエ、ハイナー、マヌエラというらしい。
名前の感じからすると、男3人に女4人の組み合わせか。このメンバーにフォルクスが加わるので、ちょうど男女半々になるな。
教会内を見て回る順番はとくに決められてもいないので、神官達の個人部屋らしき棟を軽く見てから、とりあえず入り口から右回り的に回っていくことにする。
「さて、早く見つかってほしいような欲しくないような、微妙な感覚だな」
入り口付近はそれなりに人がいた。この場所は(たまたまかもしれないが)獣人排斥派が多いようで、なかなか視線が痛い。顔見知りの神官なんかは目が合うとサッと逸らされてしまった。
組織の中で生きる難しさを感じさせられる。
そして、とくに咎められるようなこともなかったので、ゆったりと周りを見ながら奥へ進んでいく。
教会は中庭もあるようで、なかなかに緑豊かだった。自生しているのか育てているのか、ベリーが実る茂みもあり、その手前で一人の子どもが摘んで食べていたりする。採集は自由なのだろうか。
「あら、冒険者さんですよね? どうかしましたか?」
声をかけられ、珍しい、とそちらへ向く。ここまで教会の人達は俺を睨みつけるか遠巻きに何やら噂するか近寄りたくないオーラを出しながら壁の端を通り過ぎるかのどれかで、話しかけてこようとする人は一人もいなかったのだ。
近くに来たのは男女の二人組みで、どちらも普通の人間で、俺に声をかけてきたのは、女の方だ。
「ああ、自然豊かな中庭に感心していただけだ。あー、そうだ、依頼でここに来たんだが、今度の討伐遠征に参加する神官について知っているか?」
こうして話しかけられたからには一応、探すフリはしておかなくてはならないと思い、正直に聞いてみると、二人は何故か目で会話するかのように顔を見合わせていた。
「ええ、もちろんです。実は、彼も私も今度の遠征に同行する予定なんです」
彼らはそれぞれアンヘム、ヤスミンと名乗った。リストにある名前とも一致している。
「ひょっとして、あなたも討伐遠征で護衛してくれる冒険者ですか?」
も? と一瞬疑問に思ってから、すぐにカプラのことかと氷解する。彼女とは既に面識があったのだろう。
「ああ。そうなるな。俺とあと5人ほどのパーティで同行することになっている」
「そうなんですね。失礼かもしれませんが、冒険者のランクを伺っても?」
「いや、構わない。俺のランクはAだ」
「「ええっ!?」」
証拠にギルドカードを見せれば、嘘ではないと信じてくれたようだった。
「だから、戦力的には問題ないだろうから安心していいぞ」
「それは心強い! ですが……今のエフラヴァーンだと、大変ですよね?」
何がという主語が抜けていたが、何を指しているのか分かる。大変なのは、いろいろなことだ。
苦い顔でされた質問に、俺も苦笑しながら返す。
「まぁ、多少はな」
「そうですよね。教会も、獣人を嫌う人達の声が大きくなっていて、申し訳ないです」
どうやらこの二人はエフラヴァーンの現状を憂う、まともな神官のようだ。
「やはり、人数が増えて声も大きければ影響される人も増えるし、そこから反発するのは難しいか」
「ええ、そうですね。私たちも、どうしてサージ様の支持がこんなにも厚いのか分からない……」
「ふむ……単に聖人だから阿っているわけではないのか?」
「サージ様に近い人達はそうかもしれませんが、そうでもない人達もいつの間にか考え方があちら寄りになっていたりするんです」
「だからますます対処しづらくって! まさかと思うけど、これが神様の思し召しとかだったら私たちの方が窮地ですから」
ヤスミンが、苛立ちや不安をないまぜにした複雑な感情を露にしてそう言う。間違っていると彼女たちは思っているのだろう。だが、普通とは思えない広がり方をしている現状、もしそれが人知を超えたモノによるのなら、太刀打ちできないから怖いのだ。
俺個人としては、獣人差別が神様の思し召しというのはないと思う。女神アデライドにはそんな感情は感じられなかったし、失礼かもしれないが、神としての力もそう強くはないような気がする。まぁ、神の考えることなんて、普通の人間がわかるものではないのかもしれないが。
「思ったよりも奇妙な現象なんだな。俺はここまでいくつかの国を旅してきたが、こんな洗脳状態が感染していくようなことには遭遇しなかったぞ」
「洗脳状態が感染……面白い言い回しですね」
「ふと浮かんだだけだ。正しくとらえているとは限らないぞ」
「でも、なんか、そう大きくは違わない気がします」
もしそうだとしたら、厄介だな。単なる宗旨変えとかではなく、思想そのものを都合の良いように変えられる……変えられてしまうとなると、普通の手段ではどうにもならないかもしれない。対抗する方も人知を超えた何かが必要な気がする。
「その洗脳状態? も人によって違っていて、危険な考え方をしている人もいるんです」
「同じところで仕事していると、分かってしまうんですよね」
「そうなのか。今度の遠征に来る神官の中にもいるのか?」
「ええと……前に顔合わせしたときはいなかった……よね?」
「いなかったと思います。ただ、直前で都合がつかなくなったり参加したいと言う人もいるので、どうか気をつけていただければと思います」
「あ、ああ……」
気をつけるのは俺の方か……。
そちらについては頭になかったのでうっかり返事が遅れてしまった。
「Aランク冒険者に対して失礼な忠告じゃないの? アンヘム」
「いや、でも、言っておかないと分からないことだってありますから」
「ああ、俺も考えていなかった部分だ。油断して向かうよりずっとマシだから気にするな」
そうフォローしながら、俺は視線を遠くに向ける。
そうか、背中から刺される可能性も考えないとならないのか……デンジャラスだな。しかし、当日はパーティメンバー全員で向かうから大丈夫だろう。イェーオリ達も同行できればより安全ではあるが、さすがに難しいか。
とりあえず、アンヘムとヤスミンは神官だからこそ、大丈夫な人と怪しい人が分かるというので、当日は互いに協力していこうということになった。
「ご案内しなくて本当に良いんですか?」
話の流れで教会の各部屋について聞いていたら、遠征に同行する神官の何人かはおそらく鍛錬場にいるだろうと丁寧に教えてくれた。二人はその場所まで案内すると申し出てくれたが、俺の真の目的からするとそうしてもらっては困る。自分でも不自然さを自覚しながらも、別に探す人がいるからと言って断った。
善意の申し出をうまく断るのは難しいものだ。




