閑話 アルジェント2
王都に着いた翌日はシルヴァー達は早速依頼を受けていた。我もそれに着いていって今、アイネの森とか言う場所にいる。「討伐」をすると言う事だが、これは討伐か? 「狩り」というものではないのだろうか。我の独自の見解だが、討伐というのはこう……一体の強敵に仲間とともに立ち向かう!!……というようなものだろう。シルヴァー達は数百体の敵を数人で嬲っている。我はあれを討伐だとは言いたくない。正直に言うと狩りという言葉もしっくりこないな。我がウルフ達とやっていたのは何だったのか。これに比べると狩りだとはとても言えない……。だが他に何か適当な名称はあったか?
……ああ、リンチと言う言葉があったな……。
数は向こうの方が多いのだが……ヨシズは八つ当たりしているし、シルヴァーも体躯が勝るクマさえも投げ飛ばしている。ゼノンもスピードに勝る(はずの)フォレストビーを翻弄している。何と言うか、相手が実に哀れである。我もまさか魔獣に憐憫の情を感じるとは思わなんだ。
「おーい、アル、お前は参加しないのか? 獲物無くなるぞ?」
なぬ? それは聞き捨てならないな! 我も参加するぞ!
我らの圧勝は約束された事であろう。
流石に3セットこなせば皆頭が冷えた。少し狩り過ぎたな。狩ったものは血抜きの術を施して即座に3人のうちの誰かのアイテムボックスに回収される。アイテムボックスがいっぱいになるまで狩れるからどんどん獲物が追加されていったため、止めるなんて考えは全く浮かばなかった。ウルフ達と共に狩りをしていた頃は倒れている獲物の数を見て狩る数の調整ができていたが、それがないとここまで歯止めが効かなくなるのだな。一つ賢くなった。
帰りがけ、我らは別の冒険者チームと鉢合わせた。シルヴァーがやけに丁寧な言葉遣いをして、それがツボにはまり、吹き出してしまった。全く似合わない。我もそうだが、虎・狼系の獣人や聖獣はどうも敬語は似合わぬ。
その冒険者が言うには大量な魔獣に追いかけられていた人物が目撃されたらしい。たくさんの魔獣を刺激するなど剛毅な者もいたものだ。
……思い当たる、節があるな。思った以上に大事になっている模様。我は無言を貫くぞ。
主犯格はそこな3人だ。我が嬲っ……倒した数は常識の範囲内である。
異常の調査に来た冒険者のリーダーらしい人物はユーグと呼ばれている。なかなかの実力者だ。我には届いていないがな!
そのあと少し話をして、彼等はそのまま調査を続け、我等は王都に帰ることになった。帰ったらシルヴァー達には討伐証明部位の剥ぎ取りやら、種類別の統計やらを取らなくてはならないそうだ。面倒なことをするものよ。こう言うところで人というものは実に不便だと思う。獣なら住むのに危険が迫っているかどうかくらいは赤子でも感知する。魔獣はその限りではないが。ウルフのコミュニティでは北西方面が嫌な気配を増しているということがまことしやかに伝達されている。北西だから、人の言う魔の森にあたるな。シルヴァー達もいずれはそこに行くだろうが、皆早急に力をつけねばすぐに行き詰まることになるであろう。
そういった情報も人は時間をかけないと得ることができないという。統計を取って、過去の事と照らし合わせてようやく事態を認識する……気の長いことだ。
帰りの道中は森でのテンションは身を潜めている。我もはしゃぐ気分ではない。会話の中にアンデッドの話があったが、我は身に覚えがある。あれは、ある山村と共存していた時のことだったか……
その日、我は獲物を追い込み過ぎて山村に近付いてしまった。少々軌道修正したら、視界の端にボーン種が多めのアンデッドの集団がかすめた。襲いに行く様子もなく、ただ集まっているだけ……いや、何か話し合いのようなものをしている感じの集まり方であった。
アンデッドが話し合いだと?
我は獲物を追うことも忘れ立ち止まって振り返り、その驚きの光景を見つめた。間違いなく、話し合いをしている。好奇心に逆らえず近付いてみた。彼等は流暢な人語を喋っていた。骨なのに……。
注意して見れば見るほど異様である。まず、人里が近くにあるのに襲いに行かないなどあり得ない。また、あれらが持つ武器はもっとボロボロなはずだ。あそこまで手入れされたものを持った個体は見たことがない。近くで誰かがやられて、それを奪ったとか? そんなはずはない。この近くであれらが持つ武器を使える者がいたら、我等はとっくに住処を追い出されているだろう。むしろ、あんなに良い武器を使う者がアンデッドごときに負けることはないだろう。極めつけに、アンデッドは喋らない。というか、喋れない。喋れるはずがない。それなのに話し合いをしている。知性が感じられる。話が通じるのではないか?
そのことに思い至った時、我はすぐに行動に移した。
『そこな骨ども、一体何者か。普通のボーン種ではあるまい』
「おお! ウルフが喋るとは。ノーライフ・キングの言う聖獣か!」
所々カタカタ音が出ていたが、間違いなく人語で言葉が返ってきた。
『いかにも。して、我の問いに答えてもらいたい。そなたらは一体何者か』
「俺達は還るに還れない存在さ。魂にまで“力”が定着してしまい、次に生まれた時に力が強過ぎて成長できない可能性があるということで、転生を保留にされている。生前が衝撃的すぎたんだな」
「いや、俺は衝撃的というより笑撃的だったと言われたが」
「そりゃあんただけでしょ」
「違いねぇ!」
『死者ではあるのだな。ひょっとして、力とは剣術やら、魔法やらのことか?』
「間違ってはいないな。今の俺達は生前の能力に加えてアンデッド特有の回復力がついた存在だな。俺は生前は剣聖と呼ばれていた」
いろいろぼかし……誤魔化した返答に思えたが、我の意識を惹きつける言葉があった。
『ふむ。剣聖か。人の強者という存在だな。疑っているわけではないが、手合わせをしてもらえるか?』
久しぶりの心躍る対戦であった。一通り対戦したら時間切れだとか言って一人残らず消えてしまったので細かいことを聞きそこねたが、あれがアンデッドフェスティバルというものだったのだろう。また会えるといいが。その時は謎が解決して欲しいものだ。
ギルドに着くとシルヴァー達は狩ってきたものを解体する作業に入っていた。周りを巻き込んでの大作業だ。
我は手伝うことは出来ない。下手に参加したらせっかく傷を少なくして持ってきたものがズタズタになってしまう。
作業を終えて、シルヴァーはギルマスに引きずられて何処かへ行った。我も時間を潰さねばならぬ。しかし、これと言ってすることなどない。寝るか?
目を瞑ってみたが寝る気にはならない。仕方が無いから少しギルド内を散策することにした。子犬バージョンならそこまで迷惑はかからないだろう。
どこの部屋も空いているわけではないが、それでも部屋の中がどんな状態になっているかを把握することは可能だ。そうして歩いていると、シルヴァーともう一人の気配が感じられる部屋の前に着いた。どうせならここで待っているか。おそらくギルマスのところへ向かおうとするだろう。我なら位置を把握出来ているからな。ちょうどいい。
シルヴァーがギルマスの逃亡を阻止したところで、ちょうどいい時間になった。あのクマの調理が終わった頃だろう。と、いうことで我等は宿へ戻り、そのあとは宴会になった。
我は大型犬ほどの形をとり、女将から肉をもらったりして楽しんだ。子犬姿でもよかったのだが、意外と人が多く、潰されかねない上に、一部の者から変な視線を向けられたから速攻で体を大きくした。我は男に頬ずりされて喜ぶような趣味はない。
それでも偶然を装って撫でにくる輩が多かった。その手を噛みちぎってやろうかと思ったがこんな場所で流血沙汰を起こせば面倒なことにしかならない。
そろそろうんざりしてきたので、もう寝るというゼノンに便乗して我も部屋に行くことにした。一応その旨を告げていたが、聞いていないな、あれは。明日は王都でのんびりすることになりそうだな。ちょうどいいからちょっと不穏な気配を感じた辺りを見に行くか。




