王都11 宴
クマ料理!!! 来たぜ(熊)肉料理!!!
女将が出来た料理を持って来た時、宿の食堂で今か今かと待っていた冒険者一同は大歓声を上げた。
「ふふ。お待たせしました。大人数だからって時間をズラしてごめんなさいね。熊肉はたっぷりあったから料理もたくさん作れたわ。
楽しんで食べて下さいな!!」
「「「うぉぉおおおーー!!」」」
かくして、狂乱の宴が今始まる……。
そして俺の目の前には実に食欲がそそられる匂いを放つ熊ステーキがある。じゅるり。
「いただきます」
口に入れたら溶けるような食感。流石最高級の肉である。食べ物とは、調理次第でここまで美味しくなるのか。虎時代では考えもしなかった。美味しさを求めるなど、せいぜいが育ちの良い奴を狙う程度しかしなかった。
シルヴァーが食べているその傍らでは
「「うまーー!」」
「うるさいね。何を当たり前のことを言ってるんだ。あの熊だよ? 最高の料理に決まってるじゃないの。うまーー!」
「お前も反応変わんねぇよ……うまーー!」
「さすが、『渡り鳥』だな。本当に仲良いパーティだよな。ゴクゴク」
「というか、もう『笑い取り』にパーティ名を変えてもいいと思います。 ハムハム」
「いつもこういう場では笑いを取りにはしるからな。ピッタリじゃないか。モグモグ」
なんてやり取りがあったり。『渡り鳥』はいつもこういった場を盛り上げるそうだ。まぁムードメーカー(笑)は必要だよな。
「酒樽いっこ追加で〜」
「酒は行き渡ったかー? 未成年は流石にいないかー。ゼノンはほどほどにな〜。」
「……では、遅くなったがエンペラー種までを狩ったウェアハウスに乾杯! 」
「「「かんぱーい!!」」」
宴の開始の音頭は女将に取られていたのでタイミングが合わず、ずいぶんと遅い乾杯である。実はもう既に一時間は経っている。しかも、酒だって開始十分には入っていたし、ヨシズに至っては……かなり呑んだのではないだろうか。何故か? でろでろに酔った酔っ払いを侍らせているからだ。それにどことなく声が間延びしている。酔っているのだろう。見た目に変化は特にないが。
「これだけ食べてもまだ料理はあるのか?」
宿の食堂の彼方此方に食べ終えた皿が積まれている。
「あるわよ。本当に大きい熊だったんだから。まだまだ食べれるわよ」
「「うおぉぉおお!!」」
「おお……それはいい」
食べれる限り食べてやろうじゃないか。最高だな!!
その時俺は大変恐ろしい、獣を彷彿とさせる笑みを浮かべていたようだ。一人がそれをわざわざ指摘しに来てくれた。ほっとけ。
そして俺達の前には巨大な鍋がある。熊鍋だ。今まで出て来たのが熊ステーキ系統だったのが最後はちょっと趣向を変えて鍋にしてみたそうだ。これも美味そうだ。じゅるり。
「今生き残っているのは……ひぃ、ふぅ、みぃ……8人か。一人当たりの取り分が楽しいことになりそうだな。十分食べ切れるだろうが」
「ふふふふふ……酔い潰れなくて良かったわ。締めにこれは最高ね」
「同感だ」
「「「「「「「「いただきます」」」」」」」」
良いダシが出てる。ステーキに比べればそれはあっさり風味だが、これはこれで良い。鍋の楽しみは何か? 皆で囲んで食べることだろう。それに、参加者の多くがもう寝こけている中美味いものを食べていることは実に優越感がある。勝利の美酒……いや、勝利の美味鍋に酔いしれている気分だ。
お・れ・も・酔・い・が・回・っ・て・い・る・な
まぁいいか。どうせ宴もたけなわ。女将もこれがラストだと言っていたしな。
「ふぅ〜。食った食った。そういえばゼノンとアルはどこいったんだ?」
ヨシズがふと回りを見回して疑問をこぼす。
「中盤で先に戻ると言っていたぞ。ヨシズに言いに来ていたじゃないか。『シルヴァーにいちゃんは食事に夢中すぎて聞いていなさそうだから』って」
そう答えるのは『笑い鳥』のリーダー。
……間違えた。『渡り鳥』だったな。
「そうだったか? 俺もほとんど聞いていなかったな」
ダメじゃないか。ま、人のこと言えないが。
「俺はもう寝るな。また魔獣を狩り過ぎた時は手伝い頼むな」
「だが断る。と言いたい所だが、まぁ、時と場合による」
「その時になってから考えればいいさ。だがまぁ、学院に行くからここまで狩ることになるのはほとんどないだろ」
「学院か……毎年一人は問題児がいるんだよなぁ」
不安になることを言わないでくれよ。……ん? その目はなんだ、俺とゼノンが問題児扱いされるだろうって? 失礼な。喧嘩売っているのか。そうか、喜んで買ってやるぞ。
「さぁ、解散だ解散。あ、女将。寝こけている奴らをそのままにしておいていいか?」
ヨシズが言った。もう終わりか…と考えた所で俺の頭も冷えた。せっかく満腹になって良い気分なんだ。わざわざそれを盛り下げることなどしなくていい。
「別に放っておくくらい良いわよ。だけど、朝の仕込みに入る時に叩き起こさせてもらうけどね」
「まぁそうだろうな。別に構わん。というかどうでもいい」
煮るなり焼くなり好きに……ってやつだな。俺もどうでもいい。他人事だしな。
後から聞いた話だが、女将の鉄拳は一発で完全に目が覚めるほど痛いそうだ。俺は絶対に受けたくないと改めて思った。
深夜
リーンリーン
「……ん? あぁ、………」
ガルぅ……
「寝てていいぞ。ちょっと外に出てくる」
とりあえず屋根の上にでも行くか。
「よっ……と。待たせたな、……ヘヴン。こんな深夜に何の用だ?」
『私の名前を言う前の沈黙は何かな? まさか忘れていたとか、言わないよね?』
「忘れてた」
眠いからか考えたことがすぐに口に出るなぁ。
『へぇ……まぁ今は問い詰めないでおくよ。それより、そっちは何か変化はない?』
「へんか、なぁ……あったな。魔獣の数が増えているようだ」
それが何か?
『うーん……確定は出来ないんだけどなぁ……昔からだんだん大気中の魔力が増えてきているんだけど、どうやらシルヴァーが生きているうちに飽和状態になる予兆があるんだよね。とりあえず忠告しておくと、魔獣だけじゃなくて、獣の数にも気を付けて。もしかしたら魔獣の増加は魔生物大発生の前兆かもしれない』
ヘヴンに似合わない真剣な声だ。その魔生物大発生というのはよほど大変なことなのか。
「もしそうだったら、どうなるんだ?」
『とにかく魔獣や魔物が発生し続ける。明らかなのはその一点だね』
「マジか……もう少し詳しくは分からないか? 具体的には対策とか対策とか対策とか」
『対策ばかりか。悪いけど、まだ解読中だからね。ちょっと分からないかな。また何か追加で情報を得たら連絡するよ』
「りょーかい。こっちの現状も調べておこう」
『頼んだよ』
ヘヴンの言葉からあちらには文献で残っていると分かる。そしてまだ解読中、か。今より高度な古代でそこまで時間がかかるとは……厄介な。というか、のんびり平穏に過ごしたい俺をそんな世界規模の危機に巻き込まないでほしい。
そこまで考えた所で今考えても仕方がないという結論に至り、さて、もう一眠りするか。と思ったのだが、ヘヴンはせっかく話をする機会が出来たのだからと言ってそのまま一時間は話した。
『何か返答短くない?』
……俺は眠いんだ、察しろ。