王都10 伯爵との対談
「初めまして。私がイルニークです。この度は本当に申し訳ない」
ギルドの応接室で待つことしばし。そして時間通りにやって来たイルニーク伯爵は開口一番謝罪の言葉を切り出した。
「ああ、いや……。俺はシルヴァーと言う」
こういう場合どう返そうか本当に迷う。やっぱり貴族はやりにくい。身分的な意味で。
「とりあえず伯爵も座って下さい。どのような話があるのかは分からないが、ギルマスの同席は必要でしょうか?」
ギルマスは貴族相手だからか、気持ち悪いほど丁寧な言葉遣いになっている。俺もそうすべきか? いや、すぐにボロが出そうだ。やめとこう。
「いや、必要ないよ。ギルマスたる君の手を煩わせるような事じゃない。仕事に戻っていいよ。書類、溜まっているんだろ?」
「うぐっ……」
痛恨の一撃〜。というか、割と気楽な関係なのか?
「伯爵とギルマスはどんな関係なんだ?」
「ヨシズから聞いてないのか? 学院の同期だよ。まあ、一年くらいしか一緒にいなかったんだがな」
「ええ。あの時は本当に我が家が腐り落ちていた時でしたので。ちょっと敗北して教国に行かされたんです。ようやく戻って膿を出して正道を歩む準備が出来た所であのバカがやらかしたことが報告されましてね……」
ハァ……と重い溜息をつく様に伯爵の苦労が感じられる。話を聞いているに、伯爵は信頼出来る貴族だと思える。
「……こんなことは貴方に聞いてもらう必要ありませんでしたね。本題に入りましょう。マグルスはどうぞ仕事に戻ってください」
「チッ……」
その舌打ち一つに本音がありありと現れているぞ。あわよくばサボろうと思っていたんだろう。
コンコン
「お話中の所申し訳ありませんが、そこのギルマスを回収しに来ました。連れて行ってもよろしいでしょうか?」
「げっ……」
「ご苦労様。連れ出していいよ」
それでは、とギルマスに逃げる隙も与えずその人はギルマスを連れて行った。その手慣れた感じにギルド職員の実力が無駄な所で発揮されているな…と少し遠い目になる。
「さて、いくらなんでも謝罪一つで許してもらおうなどとは言いません。これからのことについて話しましょう。何か希望がありますか?」
「いや、そもそもなぜ俺だけこの場に呼び出したんだ? ガードンが迷惑をかけたのは俺だけじゃないだろ。迷惑をかけられたのはあの町の人皆だと思うんだが。それに、希望って言っても何を欲しがればいいのか……」
「ああ。シルヴァーさんはガードンの一味にずっと付け狙われていたと調べの結果が出たのです。いつも路地裏に数人は待機していたとか。やけに過剰な対応を取っていたみたいですね。それがあったのでこのような対応となりました。欲しい物についてはやはりそうですよね。それも考えに入れてこちらから提案を持って来てあります」
「提案? 教えてくれ」
「はい。まずは、シルヴァーさんが冒険者であることを考えて、馬車や武具防具の作成を無料で請け負うことです。メンテなども向こう十年は無料で請け負わせていただきます。馬車はともかく、武具防具については作成はシルヴァーさん用の物のみとさせていただきます」
それは心惹かれるな。移動手段が徒歩だと隣国に行くにも時間がかかってしょうがないからなぁ。馬車は嬉しい。武具防具は……いずれは作ってもらう予定だったからいい機会ではあるな。
「次に、我が領地内に限るが、売買の際に割り引いたり、色を付けたりすること。こちらも向こう十年は効力があるとします。そして、シルヴァーさんのパーティメンバーにも適用しましょう。
以上の二つですが、いかがでしょうか?」
うーむ……貰えるのは嬉しいが俺等はまだ馬車はいらないよな。次の目的地の帝国は近いからまた護衛依頼でも受ければいいと思う。売買の際に割り引いたりしてくれるのはありがたいが、そこまで頻繁に利用することにはならない気がする。
「正直、武具防具の作成はありがたいんだが、馬車はまだいい気がしてならないんだ。次の目的地は帝国だからそこまで長い距離でもないからな」
「確かにそうですね。ですが、ここ王都にある依頼は意外と遠くのものも多いんです。馬車はあって困るものではありませんよ。置き場所に悩むというなら、 私の知り合いに頼んでおけば何も問題ありませんし。むしろ作成者がその人なので管理の面でも適任ですね。なにせ、魔術陣つきのものになりますので」
「魔術陣付き? どんな効果があるんだ?」
「快適空間、空間拡張、自動修復、獣除けですね」
それはすごい。そこまで効果を付けるにはかなりの金額になる。いま伯爵が言った効果を出せる魔術陣はとても難しいのだ。それくらいは知っている。作成者はよほど技術力があるのだろう。果たして、本当にそんな物を強請っていいものなのか?
「……本当にいいのか?」
「構いませんよ。実は、商品化の実験も兼ねているのです。だから少し……ざっと半年くらいの時間をもらうことになるのですがいいですか? 武具防具はすぐに作成し始めればそんなに待たせることなく渡せます」
「半年か……」
結果。武具防具についてはもう少ししたら鍛冶屋を紹介してくれるそうだ。そこで鍛冶屋と相談して決めて行くと。代金は完全伯爵持ちだ。馬車については俺達が学院を卒業して帝国に向かう時に渡すということになった。
俺達が学院の冒険者コースを受けると言うのも、半年もの時間を潰すのに実にちょうど良かった。目指すは馬車完成のタイミングでの卒業だな。
「また一週間後に家に来てください。今度は入れると思います。それと、悪いけど、マグルスを連れて来てもらえますか? あ、マグルスと言うのはギルマスの名前です」
ああ、それは知ってる。
渡された新しい召喚状をアイテムボックスに入れて俺は部屋を出る。ギルマスはどこだろうか。逃げていなければおそらく執務室だが……。
わふっ!
「おい、まて、アル!!」
俺が部屋を出ると待ち構えていたらしいアルに引っ張られる。行き先はおそらく売却部屋だろう。
「ギルマスを呼ばなきゃならないんだよ! まだ戻れないぞ」
そう言うと一瞬止まったが速度を変えずにまだ俺を引っ張る。
ということは、ギルマスがいるのもこの先か。
「あっ! おかえり〜」
「戻って来たか。じゃあ俺は戻るな」
「助かったぜ、マグルス。シルヴァー、行くって言っておきながら行けなくてすまなかったな」
「いや、あれは仕方がなかっただろ。宿に戻ったら詳しいこと話すな」
ヨシズとゼノンは俺のいない間に何かやっていたようだ。ギルマスはヨシズの言葉に 「おう」 と答えて部屋を出て行こうとする。
が、俺は伯爵に頼まれている。ギルマスを連れてこいと。
パタン
逃がすことはできないな?
「おい、シルヴァー。閉める必要はねぇだろ」
「ギルマス。イルニーク伯爵に連れて来いと言われているんだ。悪いが逃がすわけにはいかない」
「あ〜、はいはい、分かった分かった」
俺のマジな空気を察してくれたのかギルマスは大人しく伯爵がいる部屋に向かってくれた。
……というか、何故かドアのすぐ向こうにスタンバイしていたギルド職員さんが連れて行った。
本当に有能な人達が集まっているよな。その有能さはギルマスの逃亡を阻止するために輝いているという所が残念すぎる。
さて、やることやったし、クマを食いに行くか。
「シルヴァー、金額くらいは確認しておけよ。……って、聞いちゃいないな」
「金額誤魔化しても気付かなさそうだよね」
わふっ!
ん〜? 何か言ったか?
くまっくまっくま〜美味しい(だろう)くま〜
ああ楽しみだ。じゅるり。




