王都9 騒動はいつものこと
アイネの森からのんびり歩いて来たので王都に着くまでに周辺はすっかり暗くなってしまった。だが、そんなに複雑な道を行く訳でもないので、歩き続ける。三人とも夜目が効く方だが、やはり明るい方がいいということで地面スレスレに光球を浮かべていた。無論、森から王都まで魔力がもつわけがない。交代制である。
「ここまで来て思ったんだが、この光球、見ようによっては人魂に思われないか?」
「確かに。だが、集落が近いわけでもないし、こんな暗い中外に出ている奴もそういないだろうから問題はないだろ。それに、人魂ってほとんど無害だしな」
「ヨシズさんとシル兄ちゃんは人魂を見たことがあるの?」
シル兄ちゃん……? ああ、そうか。
「……俺の名前を略したんだな。まぁ、いいか。俺はあるぞ。冒険者になる前だ。(……虎だったことは言えないが……)」
あの時は確か、何故か目覚めた夜中にふと見上げたら大木の上の方にふよふよと浮いていたのを見たんだったか。思わず威嚇してしまったが害のあるものではないと本能的に分かっていたのかすぐに気にすることなく寝たな。
「オレもある。確か、数年前の英雄達との腕試しでたくさん見かけたな」
「「アンデッドフェスティバル?」」
「ああ、流石に知らないか。アンデッドフェスティバルは何年かに一度あるのだが、何処かの村の門の先に忽然とアンデッドが現れるんだ。冒険者と一対一で対戦して、冒険者が勝ったら特別な景品がもらえる。例えば剣士だったら珍しい素材で作られた剣だったりな。だが……」
「負けたら、何かペナルティがある?」
「そうだ。負けたらその人物に呪いがかけられる。一年間限定でポーションが効き辛くなったり、魔獣の美味しい所が取れなかったり、鉱石を狙っても皆クズ石になったりとかだな。まぁ、死ぬ程のものではない。アンデッドは元英雄達なんだ。呪いは次こそは勝ちに来いという彼等からの試練だそうだ」
ちょっとシャレにならない呪いもあったぞ。というか……
「元英雄達だって? そんな存在がアンデッドなんかになるものなのか?」
「そこは俺もよく知らん。だが、確かにアンデッドになる条件に当てはまる方々ではないよなぁ。……学院の資料室をひっくり返せば何か情報が出てくるかもな。もしくは、皇都大図書館か」
「魔の森に向かう途中で判明するといいね」
「というか、折角学院に通うんだからお前等が調べてこいよ」
「時間があればな。ヨシズは入れないのか?」
「一般公開はしてなかったはずだ。それに、お前等が学院に行っている間に俺もいろいろやらなきゃならないから、時間が作れないだろ。資料室は本当に書類の山だからなぁ……」
本音は行きたくないと。
それっきり、特に話すこともなくなり、無言で、黙々と……歩いて行った。
ところで、あのハイテンションはどこいった、俺。
「ただいまー」
ギルドに着くと思わずこう言ってしまうのはやはり、もはやそこがホームになっているということだろうか。
「来たかヨシズ! シルヴァーもゼノンもよく帰って来たな。その様子だと魔獣の群れに当たったわけではなさそうだな?」
ギルドに入るとギルマスが喜色満面といった風に迎えてくれた。だが残念ながら (?) 魔獣の群れはおそらく俺たちが原因だ。
「狩った」
「……ハァ?」
「だから、奥まで行って魔獣を引きつけてまとめて狩った」
「「「嘘だろ!?」」」
驚愕の眼差しを何対もいただきました、まる。だが、そこまで驚くようなことか? 俺が魔獣に追いかけられたことは知っているだろうし。こうして無事にのんきにしているならそれらを全て倒したものだと分かってもらいたい。
「しっかり狩って来たから証拠も見せれるぞ?」
「よし、見せてみろ。流石にそうホイホイと信じるわけにはいかねぇし」
そう言って魔獣の売却カウンターがある別室に向かう。暇していた奴らも皆野次馬根性で着いて行こうと腰を上げたところで閃いた。
データ統計は俺達がやるとしても、剥ぎ取りはこいつらにやってもらえばいいじゃないか。
臨時収入のお誘いをかけようか。
「今立っているやつ、どうせ来るんなら剥ぎ取りを手伝え」
「ん? ああ、ハハハ! なるほど、考えたな。いいぜ、やってやるよ。だが、金はいいから一部を飯にしてくれ」
そうきたか。まぁ、もともと一部は食べるつもりでいたからいいか。
「ふむ。この人数だと、巨大熊一体で足りるかな」
「あ? お前、バカにしてんのか?」
「足りない足りない。私は女だけど、食べるものは食べるからね?」
避難轟々。だが、あれは本当に大きかったからなぁ。十分だと思うがなぁ。
「とりあえず、向こうで出すからそれ見て判断してくれ」
皆顔を見合わせて肩を竦めたりしていたが、直に見るということに反対することもないのでおとなしく向かう。一部はどうせそこまで大きく無いだろうと思っているのか、ニヤニヤしていた。
……信じてないな。度肝を抜いてやろうじゃないか。
「遅かったな」
隣の部屋では、すでにギルマスが待機していた。ギルド職員も数名いる。
ここ、王都など主要な都市のギルドはどの部屋も無駄に広い。普段はその一角で事足りる……のだが……。
今回は埋まりそうだ。
「じゃあ、どんどん出して行くね」
各々部屋の隅から狩ってきたものを出して行く。今回はデータを取るので一応種類ごと分類している。これも普段はやらない。
「おいあれ見ろよ……」
「何あの量……」
「一日もしないであれだけ狩ったというの?」
そんな風にざわめいた空気も
「………」
「………」
「………」
全て出し終わる時にはすっかりなくなっていた。心なしか青褪めているやつも……ああ、あれを見たんだな。
巨大熊。それはアイネの森で見た魔獣の中で最も大きかった。正直、それが追いかけてきている時はその巨体に見合わない素早さに心臓を一撫でされた気分だった。
そのままヨシズのいる所まで連れて行ったがものすごく複雑な顔をしていたな。後から聞いたら、とっても良いストレスの発散対象が出来て嬉しいが、それがいることの異常さに気付いて内心頭を抱えて、俺が無事に逃げていられた事に対して納得できない (絶対に実力は低くてBランクだろってこと) 気持ちがいろいろ混ざった結果らしい。
だがそんなことはどうでもいい。あれは強かった。つまり、とても美味いことを期待できるのだ!!
美味いもの食べたさに若干リミットを外して速攻仕留めてしまったのは秘密にしておいてくれ。
「な? あれなら、全員食べられるだろう」
「「「まぁ、確かに……」」」
「ん? お前ら、あれを食うのか。残念だ。売ってくれたなら俺が買おうと思ったんだがな。他に売却しないものがあるならちゃんと言ってくれよ?」
ギルマス及びギルド職員は既に作業に入っていた。サクサク進めるその様子は流石王都のギルド所属の人達である。ギルマスも仕事は完璧なんだな……。
その後はワイワイガヤガヤとたまに出てくるボスレベルの魔獣や獣に時に驚き、時に慄き……剥ぎ取りをしていった。俺達はデータまとめだがな。
「ふ〜。終わった〜〜!」
あれだけの数を捌くのは本当に大変だった。剣ダコならぬペンダコができそうだ。まあ俺は剣はニガテだから剣ダコに縁は無いかもしれないが。
「じゃあこの熊は何処かで調理してもらうか。おい、シルヴァー。お前らはどこに宿をとっている?」
「闘牛の休息亭だ。分かるか?」
「おお! 俺達もそこに宿をとっているんだ。奇遇だな。じゃあそこの女将に頼んでおくな。出来るとしたら後一時間くらいはかかるだろ。それまで時間潰していてくれよ」
「あ、待て。一応俺も着いて行く。それを狩ったのは俺達だからな」
「ああ。頼まれたものをちょろまかすバカ対策のあれか」
とっさに気付いたヨシズが制止し、入り口へ向かう。
「そうだ。マグルスはあれで意外と細かいからな。ちゃんとやっておかないと」
「分かった。熊については頼んだぞ」
あの宿は調理するのは女将なのか。……旦那は何しているんだろうか? 機会があったら聞いてみるか。
さて、熊料理か……何があったかな。熊鍋、煮込み、肉刺し……ああ、とっても楽しみだ。じゅる。
「浮かれている所悪いがお前は伯爵と会うんだろ。ほら、さっさと行くぞ」
あ……すっかり忘れてた。
ギルマスが俺の襟をむんずと掴んで引きずって行く。
ちょ、離せ摩擦で擦れる熱い痛い!
とりあえず時間潰す目処が立ったかもな……。
巨大熊
獣状態では大抵茶色〜黒。魔獣になったら赤黒い毛になる。大きさも強さもまちまち。特に大きなものはベアーズエンペラーなどと言われることも。オスメス関係なく強い物ほど美味。討伐証明部位は爪。




