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虎は旅する  作者: しまもよう
クナッスス王国編
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王都4 翌日

 

 朝起きてふと寝返りを打つとそこには巨大な狼さんが寝そべっていた。

 そしてくぁっとひと欠伸。鋭い牙がギラッと光って見えた。

 ……心臓が止まるかと思った。眠気なんざ吹き飛んだぞ。

 なんとか無様な声は出さずに済んだが、これから毎朝こうかと思うと気が滅入るな。いずれ慣れるだろうがそこまでの道のりは遠そうだ。


「はぁ〜」


「お、シルヴァー。その顔だとやはり驚かされたか?」


 溜め息をつきながら下に降りていくと先に起きていたヨシズ達がいた。

 そうそう、この宿ではたまたま三人部屋があったから俺たちはそこに泊まった。だからあの巨大な神狼様(フェンリル)をヨシズもゼノンも見たのだろう。ちょうど朝食を食べていた所らしいが心なし疲れが覗いて見える。


「お前等も、か。寝返りを打ったら巨大な狼がいて、さらに大きく口をこちらに向けて開けたんだよ。ただの欠伸だったんだろうが……捕食されるかと」


 いや本当に。口の中の牙がギラリと光ったのを見て血が凍った。心臓に悪いどころじゃないだろ。もし心臓が弱かったらトドメになりそうだ。


「「御愁傷様」」


 明日はお前らの方を向いて寝てもらおうか? 俺の感じた驚怖を知るがいい。

 拝まれたことに気分を悪くした俺は二人を睨み付ける。


「それはそうと、今日は取り敢えず神狼様(フェンリル)子犬(・・)バージョンで連れてギルド、特に何もなければ昨日俺が飛び込んだ店を探して、午後に依頼な」


「了解。俺達は食べ終わったからあいつに肉を持っていくな」


「頼む」


 この時ばかりはあの衝撃を忘れようとするかのように俺は朝食をかき込んだ。もちろん、しっかり味わっているぞ? 食事を提供するような所は総じてそういうものを気にするからな。せっかく作ったものだ。しっかり味わって欲しいと思うのはどこも共通しているだろう。


「ごちそうさまです」


 食器を返してから部屋へと戻る。神狼様(フェンリル)はあのままだろうか。扉を開けたら巨大な体躯でお出迎え……したとしても俺は絶対に驚かないぞ。


 ガチャ


 心なしゆっくりとドアを開ける。すると、そこにはもう巨大な狼さん☆はいなかった。


 くぅ〜ん


 うるうるした瞳でこちらを見つめる神狼様(フェンリル)

 俺は騙されないぞ。その正体は巨大な狼だろう。おれは絆され……


 はっ!

 何故か神狼様(フェンリル)の毛並みを堪能している自分がいる。どうしたんだ、俺……。キャラがぶれてないか? いや、明らかにぶれているっ。


「傍から見ると面白いね。ブレブレだね。キャラが」


「確かに。もっとこう…不屈の精神的なものを感じさせて欲しいな。一応俺らのリーダーだし。このままじゃ昨日の群衆と同類としか分類出来ないぞ」


 見ている方は気楽でいいよなぁ。でも、あの群衆と同類だと思われるのは心外だ。


「悪いな。ちょっと取り乱した。神狼様(フェンリル)はもう食事は済んだのか?」


「お、戻った。食事は終わった。次はギルドか?」


 普段より若干早いが俺達はギルドに向かう。部屋で駄弁っているといつまでも行く気にならないというか……サボりたくなるんだよなぁ。

 そんなこんなでついたギルド。今日は無表嬢さんはいるのだろうか? あの人は外見は綺麗なんだよな。笑顔がないのが残念だ。ま、聞いた話では山ほどの男が彼女が笑う姿を見ようと挑戦してあえなく散ったとか。


 ここも平和だなぁ。



「お待たせしました! ご用件はなんでしょうか」


「ウェアハウスのリーダー、シルヴァーと言うが、ギルドマスターとの面会の時間、イルニーク伯爵との面会について知りたいのだが」


 今回担当してくれたのは無表嬢さんではなく、別の子だった。明るく、溌剌とした少女だ。


「ああ。先輩から聞いていますよ。ギルドマスターとの面会は昼前の時間になります。11時には来てください。イルニーク伯爵様は午後8時前後の面会になります。どちらもカウンターに声をかけていただければ別室にお通しいたします」


「分かった」


「あ、そうだ。ギルマスとの面会は俺等もついていってもいいか?」


 話を終えようとすると横からヨシズが口を出して来た。


「構いませんよ。どうせなら終わったらギルドマスターを執務室に縛り付けておいてください。ヨシズさんなら出来ますよね」


 にっこりと笑っているが目はなかなか剣呑な光を灯している。有無言わずやれよゴルァ的な気持ちからだろうか?


「あ、ああ。……あいつの逃亡能力は今だ健在か」


 ギルマスを縛り付けておくって……逃亡能力って……俺の中のイメージがどんどん崩れて行く。


「というか、ヨシズはギルマスのナニなんだ?」


「うーん。学友?だな。学院の同期だよ」


 へぇ。ってことはギルマスって相当若いよな。


「まぁ、勤務態度はともかく、仕事に関してはやりてだからな。あそこまで上り詰めるのもそう難しいことじゃなかったらしい」


「へぇ。……では。ありがとうございました」


 さて次は店探しだ。どう探そうか?


「おい! シルヴァー。これから探す店はなんて言う名前なんだ?」


「オモテって言う店だ。店主が言うには俺達がそろって周りを見回せば自然とわかるだろうとのことだが。魔術で移動できる店がそんなに簡単に見つかるのだろうか?」


「オモテ……魔術で移動できる……いやまさか、でもな……」


「どうかしたか? ヨシズ。妙な顔になってるぞ」


「いや、なんでもない。ちょっと引っかかることがあるだけだ。それも、行けば解決するだろ。……ところでゼノンは静かだな。大丈夫か?」


 そう、朝からゼノンはあまり話していない。いつもは普通に会話に入って来ると言うのにどうしたのだろうか。


「ただの寝不足だよ」


 そう言うゼノンの視線は下へ向いている。シルヴァー達はその言葉が真実かは分からない。


「そうか。今日はよく眠れるといいな」


「うん……」



 空返事を返すゼノンの脳裏には自分がこうなった原因が浮かんでいた。


 昨日、光源といえば月や星しかない真夜中にふと目が覚めた。その目は大分闇に慣れていたため真っ暗な部屋の中で人影の判別はついていた。そのまましばらくボーッとヨシズやシルヴァーの方を眺めていたら、突然現れたのだ。ぐんぐん大きくなっていった巨大な影が。ゼノンはその影がもつ巨大な牙のシルエットを目にした。


 ……何の事は無い。ついてきたウルフ(仮)が寝ぼけてその体の大きさの制御をミスっただけであった。それを、朝になって理解したのだ。


 ……異変に気がついていたのに注意を促すことなく寝落ちしてしまったとか…これが外での事だったらパーティ全滅の未来だし。


 ゼノンが落ち込んでいるのはその真面目な気質が原因の一端を担っているのだろう。だが案ずることはない。同じ様に驚いたくせに飄々としている奴が隣にいるのだ。それを見れば悩んでいるのが馬鹿らしくなる。


「ん? なんだ?」


「……はぁ。なんでもないよ。それより、シルヴァー兄ちゃんの探している店、影も形もないんだけど?」


 ……このパーティの座右の銘は臨機応変かな。



「ないなぁ。皆そろって周りを見回せば自然とわかるだろうって言っていたんだよ。本当に」


 そう言いながらぐるりと一周してみる。すると、さっきとはなにかが違う。


「……? あ、あんなところに看板なんてあったか? 真新しいのに何も書かれていないな」


「え? あ、本当だ。あったっけ?」


「……シルヴァー。あの看板の反対側を見てみろ」


 何かを悟った様にヨシズが指示した。それに従って看板の反対側を見ると、そう、あったのだ。


 【オモテ】


「ここだ! よく分かったな、ヨシズ」


「まぁ、な。学生時代にちょっとした言葉遊びをして、その時にネタに出たものだからな」


「ちなみに、何故オモテ?」


 ゼノンがそう聞くとヨシズはニヤニヤしだして俺達に自分で考えてみろと言って答えを教えてくれなかった。


「どうしても分からなければこの店での用事が済んだ後教えてやるよ」


 そして、扉を開き、先に入っていく。


「せめて、ヒントを一つちょうだい!」


「あ? しょうがないな。ヒントは、あの看板だな。これ、大ヒントだぞ?」


 いや、分からん!!






読んでくれた皆様も是非考えてみてくださいね。

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