王都3 ギルドにて
そろそろ日が傾き始める頃、俺はようやくギルドに向かった。
……それまで何してたか? そりゃあ手伝いとか手伝いとか観光とかだが何か?
どこに何の店があるかは知っておかないといざここで冒険者やろうとするとすごく困ったことになるからな。あ、手伝いはちゃんとお金をもらったぞ。これでタダ働きしたとか言ったらヨシズやゼノンに殴られそうだ。ああ、完全なタダ働きというわけではないぞ。別の形で報酬はもらっている。それでも怒られそうなんだよな。避ける術はないものか。
まあともかく、俺はギルドに向かったわけだ。
「だが何で見慣れた2人組がギルド前で黄昏ているのか」
グル
神狼様も同じ様に思ったらしい。返事が返って来た。正直に言うとどれだけあの状態だったのか、もはや誰も気にしていないただのどんよりした空気でしか無くなっている。あの2人に声をかけるのが躊躇われる。
「でも多分あの原因は俺だと思う」
グルル
その通りだろう早く行けとばかりに神狼様は俺をせっつく。押すなって。
ちょっとじゃれていたら向こうも俺達に気付いた様だ。
「あーシルヴァーにいちゃ〜ん。……どこほっつき歩いてたの?」
「や〜あっと来たか、シルヴァー。……ちょっと殴らせろ?」
俺を呼んだ声は疲れが覗いていたが少なくとも威圧感は無かった。が、そのあとに続いた言葉はとってもドスが効いていて2人の気持ちをダイレクトに伝えて来た。
……機嫌悪っ!
「いやまぁ、かくかくしかじかと……」
「「中でじっくり話してもらうよ(もらうぞ)」」
「ハイ……」
2人はクイッと親指をギルドに向ける。よくきまってるな、そのぽーず。
そして俺に拒否権はない。
*******
ギルド内部は王都だけあってとても広い。その一角にテーブルと椅子がある。あそこで話すことになるのだろう。
だがその前に……
「少しカウンターへ行ってもいいか?」
「別に構わないが、何かあるのか?」
『何か(売るものが)あるのか?』と、言う副音声が聞こえて来たが、残念ながらそれが理由じゃないんだよな。
「先に寄って来た貴族の屋敷で兵に止められてな。言伝も頼めなかったからギルドを通せば出来るかと聞いてみようと思ったんだが」
「あ〜まぁ、出来るんじゃねぇか? 悪いがそこは俺も知らん。行ってこい行ってこい」
と、言うことで少し並んで待って、カウンター前に。
「次の方ーご用件をどうぞ」
「ドルメンでイルニーク伯の召喚状をもらったからちょっと行ってみたのだが、アポを取ってなかったからか門前払いだったんだ。こちらから言伝をお願い出来るか?」
「イルニーク伯爵様ですか。言伝ですね。可能ですよ。あの方はよく冒険者ギルドをご利用されていますのでお望みであればここで会うことも出来ますが。召喚状としては、どのように指示されていますか?」
俺は召喚状をちらりと確認する。
「いつでもいいから王都に来たら屋敷へ来てくれとある」
「それならギルドを通す必要はないはず……と言いたい所ですが、門前払いされたのでしたね。ここで会えるようにセッティングいたしますのでギルドカードを見せていただけますか」
「これだ」
「はい。お借りしますね。それと、念のため召喚状も預からせていただいてもよろしいでしょうか」
そう言われたので俺はアイテムボックスから召喚状を出した。すると周りが騒がしくなった。
「おい、にーちゃん、アイテムボックス持ちか。珍しいな。俺達のパーティに来ないか? ウェアハウスなんて聞いたこともない所にいないでさ」
ふん……荷物持ちとしての勧誘か。行くわけないだろうが。ヨシズもゼノンもアイテムボックスが使えるから珍しいなど思わないがな。
「アイテムボックスを使える方は滅多にいませんよ。それでソロだったら勧誘が止まないと思います」
受付嬢さんが補足的に付け足して言う。
「ふーん。俺にとっては珍しくもなんともないからなぁ。……パーティメンバー3人ともアイテムボックス使えるし」
「「「何と……」」」
よし。周囲は黙ったな。黙ったよな? つか、黙っとけ。所で受付嬢さん。手続きはまだか?
「……終わりましたよ。早ければ明日の朝には連絡出来るかと思います」
「了解した」
ここのギルド員も仕事は早いようだ。今回は伯爵がよく冒険者ギルドを利用しているということも理由の一つだろうが。
「待たせた。それで、何から話す?」
「俺達が追いかけて来ていた群衆からにげt……こほん、戦略的離脱した後のことから話してくれ」
「今『逃げて』って言おうとしたよな? 何で言い換える必要があったんだその方が自分を情けなく見せないからかそうかそうだなやっぱり俺は見捨てられていたんだなコンチクショウ!!」
「壊れた?」
「壊れたな」
それを他人事のように少し眺めて(実際他人事だし)二人顔を見合わせて溜息をつく。
そして同時に
パコーン!
と叩いた。
「「おおいい音だ」」
「……お前ら、覚えてろよ」
などというじゃれ合いはさておき、シルヴァーはどのようにしてあの群衆を撒いたのか、そして、その先で何があったのかを話す。
「……ということで、あの店にまた行くことになると思う。今日はもう時間がないから明日探してみようと思うのだが。何も予定は無いよな?」
「今の所は無いな。明日はそれでいくか。あ、でもシルヴァーは貴族と会うんじゃないのか?」
「それもあったな。イルニーク伯爵の屋敷まで行ってみたが門前払いをくらったんだ。仕方が無いからギルドを通して連絡を取ることにしたんだが連絡は早くても明日の朝らしいな」
「それなら明日の朝に連絡がなければ午前に探して、午後は普通に依頼を受けるってことにしたらどうだ?」
「いいぞ。午後は各自て金策に励むと言うことだな」
「「ハハハ……」」
「「そういや俺等、金欠だったっけ……」」
何を今更。まぁ、金欠とはいえ、宿に一、二泊する分くらいはあるが。
「一泊と言えば……宿はどうした?」
「あ、それはもう決めて、お金も払ってあるよ。二泊分だけど……」
「早いな。ちなみに何て言う名前の宿だ?」
「【闘牛の休息亭】だよ。ゼアさんのおすすめの宿だって」
「また変な名前の宿だな。場所は?」
「南街区2条第2ブロック。食堂通りに面していたよ。ゼアさんはそれがおすすめの理由だって言ってたよ」
「そうか。良いところだな」
王都は中央に王城、その周囲を貴族の屋敷が囲んでおり、北に位置する街を北街区、他三方も同じよう南街区、西街区、東街区と呼んでいる。
ちなみに食堂通りとはその名の通り食堂店が多い通りの事である。
「そろそろ学院に通うことについての説明をしてもらえるかな」
「いつの間に申請していたのか」
「兄ちゃんが追いかけられている時くらいに?」
シルヴァーの脳裏に追いかけてくる群衆が浮かんだ。
「いやまぁ、うん……礼を言うべきなのだろうが素直に言葉が出てこないな」
俺が追いかけられている時にこいつらは安全地帯にいたと言うことだからな。
さて、三人で連れだってカウンターに来た。ちなみに神狼様は子犬バージョンでゼノンの腕に抱かれている。
「そう言えば、神狼様をギルドマスターに見せなきゃならなかったな」
「「あ……」」
王都に着いてから騒動続きですっかり忘れていたようだ。
「それも聞こう。忘れないうちに」
そしてカウンターで対応してくれたのは相変わらず無表情の子である。
「学院の説明をお願いしたいのだが、一つ質問してもいいか? 内容は特に関連していないが」
「構いませんよ。何でしょうか?」
「門でこれが何の魔獣か分からないならギルドマスターに聞けと言われたので、ギルドマスターと会わせてもらえるだろうか?」
「今は視察に出ていますので会うならば明日以降となります。明日の午前中は空いていますのでその時間に面会出来るようにセッティングいたしましょうか?」
それは渡りに船だ。早ければ早いほどいい。
「ぜひ、頼む」
「かしこまりました。他には質問などはありますか?」
「いや、特にないな」
「そうですか。では、学院の説明をさせていただきます。まず、御二方は冒険者ですので、3つのコースを選べます。まず、午前コース。朝9時から12時まで。次に昼間コース。13時から16時まで。最後に夜間コース。20時から23時までです。これは座学などの時間になります。野外授業は1日いただくことになるのでそこは皆様で調整してください。そして、どのコースも剣術クラス、魔術クラス、武術クラス、総合クラスに分かれております。入学試験として行う対戦の結果からクラスを決めます。
教材諸々はこちらで用意いたします。野営具などは最低限の物しか用意しませんので不満があれば各自で用意をお願いします。
施設ですが、北街区中心部にあります。敷地内には寮もありますので、希望するならば申請してください。ただし、寮での食事は自分で調理するか、料金を払って食べる方式となります。そこはご理解ください。
以上が大まかな説明です。詳しくは入学時にもらえる冊子にも載っていますのでそちらもご覧ください。この場で質問があれば言ってください」
ヨシズとゼノンは質問がないようだが、俺は一つ聞きたいことがある。
「卒業までの期間はどれくらいかかる?」
前にヨシズが最短半年、最長三年と言っていたが、職員から見たらどうなのだろうか。
「そうですね……最短半年、最長三年ですが、冒険者の方々は一年から一年半での卒業が多いでしょうか? 一通り座学を受けて半年かかり、その間にランクを上げるので、大体それくらいですね。卒業時の推奨ランクがCですので、そのランクになるまで居られる方が多いです」
座学に半年、ランクを上げてあればそのまま卒業、上げてなければ上がるまで卒業は出来ない。…確かに最短半年での卒業だな。
一年から一年半での卒業が多いのはランクアップまで半年から一年かかると言うことだが……ペースが遅い。王都ではランクアップしにくいのかもしれない。
「分かった。ありがとう」
「仕事ですから。では、最後にアドバイスを一つ。御二方は春期からの入学ですので入学試験は大変混み合うと予想出来ます。試験は一週間後から4日間にわたって行われるのですが、初日の参加はお勧めいたしません」
確かに。俺は人混みが大嫌いだから絶対に回避しよう。うん。
「了解した。ありがたく助言を活用させてもらおう」
「ギルド職員一同試験合格を祈っております」
無表嬢さんの一礼に見送られてギルドを出る。これから忙しくなりそうだ。
最後は誤字にあらず。