王都1 逃げ込んだ先
さて、俺と一緒にいる神狼様は子犬サイズになって今現在、俺の頭に乗っているのだが。癒されることもなく、俺はうなだれる。
「厄介な事になった……」
俺達は少し時間を調整して夜ではなく、昼に着くように街道を進んだ。そして、王都の門のところで門番が神狼様を見て何の獣か聞いてきたのだが、俺はこのウルフを神狼様と言ってはいるが確定はしていないので答えられなかった。俺がどもっていると門番は分からないならギルドマスターに確かめてもらえと言って通してくれた。害があるかも分からないのに町に入れても良いのか? 早めにこの衆目から逃れたいと思っていた所なのですぐ通れるのは願ったりだが。
門から1ブロックほど歩いた所にある馬房でガーリックさんから依頼達成だからギルドに行ってくれと言われて今ギルドに向かっている。しかし、途中で神狼様に気付いた人はレラの様な奇声を上げて立ち止まり、それが続いて周りが混み合って来た。
慌ててその群衆を抜けようとするがなかなか抜けられず、果てはヨシズやゼア達とはぐれてしまった。これだけ混み合っているんだ、しょうがないだろ。うん。
……奇声を上げながら着いてくる群衆に恐れをなして戦線離脱したのでは無いかと言う気もするが気にしない。
「「「キャァァー待ってー」」」
「寄るな! 来るな!」
くぅーん
「「「キャァァー!」」」
「お前は煽るなー!」
こんなに群衆の数が膨れ上がったのは間違いなくこのちっさな扇動者のせいである。なんとも絶妙なタイミングで無駄に可愛らしい声で鳴くのだ。そしてシルヴァーの頭の上から離れもしない。
大変な騒ぎになったこの逃走劇に終止符を打つには……。どこかの路地に入るか? いや、ダメだ。土地勘のある向こうの方が有利だ。なら、どこかの店に入るか。そうすれば流石に諦めてくれるだろう。
そして、近くの店を目指す。一番近いのは謎の看板がかかっている店で、怪しさ満載である。俺でも入るのをためらう位だからきっと追いかけてくる人達も無理に入ろうとはしない……はずだ。
【オモテ】
道に飛び出すように吊り下げてあるその看板には片面だけ言葉――おそらく店名なのだろう――があった。
……よし、男は度胸!
ギシ……
「すみません」
「おや……お客様ですね」
中は意外なことに普通の小さい酒場のようであった。出迎えてくれた人はとても普通とは言えないが。声からして男性だろうか? 顔を深くフードで覆っているためよく分からない。なんとも怪しい店に来てしまったものだ。
「ここはどんな店だ? その格好と何か関係でもあるのか?」
「ここは酒場ですよ。この格好は酒のつまみにと行っている占いのための格好です。黒のローブは占い師らしい服装でしょう」
占いがつまみになるのか。まぁ、格好は納得出来る。
「確かに。……せっかく来たのだから何か頼もうと思うが、流石に真っ昼間から酒はな……ジュースか何かは無いか?」
「アップルのジュースならありますよ。占い込みで100ハドです。どうされますか?」
なんと。ジュース類は時と場合によるが大体50ハドだ。と言うことは占い料も50ハドと言うことになるな。占いと言えばぼったくりの商売をしているところが多いのにここはとても安い。収支を考えていないような値段設定である。
「ふむ……それで頼む」
「では、カウンター席で座っていて下さい」
店主(?)は一旦奥に戻っていった。そして待ち時間に俺は店の中を見回してみる。
この店はテーブル席がほとんど無いな……冒険者がどんちゃん騒ぎするような酒場ではないのだろう。それもそうか。酒のつまみに占いをするなら周りが騒がしいと出来ないだろう。それなら納得がいく。
今はこの静かな雰囲気を楽しみたい。
…………静か?
「何故、静かなんだ? あれだけの騒ぎがすぐに聞こえなくなるなどあり得ない。どうなっている……」
そう、ここに駆け込んだ時、すぐ後ろに群衆が迫っていたのだ。俺自身はどこかの店に入れば全員が来ることは無いと予想してここに来た。だが今はどうだ、俺以外は誰もこの店に入って来ていない。外にたむろしている気配もない。と、言うか窓から見える景色は俺が入ったあの場所ではない。……わけがわからない。
「……この店に様々な魔術が掛けられているからですよ」
「っ!! それは、どういったものか聞かせてくれるか?」
つい言ってしまった独り言に店主が言葉を返してくれた。聞いていたのだな。
「そうですね……実はこの店は町の至る所に現れます。何もなかった路地裏や空き家なんかに入り口が忽然と出来上がるのです。それを可能としているのが転移術陣です。改造したものですので、それについて詳しく教えることは出来ません。貴方が疑問に思っていた『静か』である理由ですが、一つは貴方が入った時に場所を切り替えたことですね。後ろから来ていた方々には扉が消えたように見えたでしょう。そして、もう一つは今店にいられる客を貴方一人に限定しているからです」
「何故限定してくれたんだ?」
「貴方とその頭の上のウルフの正体はあまり広めて良いものではないからですよ。それに、あれだけの人にこの店に入って来られるのが迷惑だったというのもあります」
俺の正体に気付いていると言うのか? それに、神狼様が何か知っていると言う口振りだな。この店主、何者だ。警戒するに越したことはない。しかし、あの群衆を引き連れたことについては謝っても謝りきれない。
「すまない」
「謝る必要はありませんよ。無事に逃げているのですし。それはさておいて、占い、しましょうか?」
ちょうど俺が飲んでいるジュースも半分位になった。良いタイミングだ。
「頼む」
「では、占って欲しいことなどはありますか? もし無いようであれば貴方の未来に焦点を当てて占いましょう」
占いって、そんなことが出来るのか。これからの行動の指針の参考に出来るかもな。でも、どうせなら……
「俺が組んでいるパーティで占ってもらえるか?」
すると、男は少し驚いたように見えた。俺が冒険者じゃおかしいか? そんな訳無いよな……虎人族も結構冒険者が居ると言っていたからな。男の表情はすぐに元に戻った。
「構いませんよ。パーティということは、冒険者ですね。これから、少し質問をしていきます。答えられるものには答えてください」
どうやら、俺が想定していた占い方法とは異なるようだ。男の言葉に分かったと返す。
「では、現在のパーティメンバーの人数を教えてください」
「3、だ」
「戦闘位置はどのような所を得意としていますか? パーティメンバーの方の分も言えるならばお願いします」
「盾が1人、遊撃が2人だ」
「それはまた随分と攻撃に偏っていますね……。まぁ、いいでしょう。この質問を最後にします。貴方達は魔の森へ行く覚悟はありますか?」
*******
神狼様は俺の腰位の大きさになって隣を歩いている。今はもう追いかけて来る人はいない。あの店から出た後また騒ぎになりそうな時敢えて逃げずにいたからだ。神狼様を大人しく差し出したとも言う。あれだけもみくちゃにされた後は流石に懲りたのか大人しい。
ああ、そうだ。占いの結果だがな、保留になった。神狼様をどのように位置づけるか決めて、パーティメンバー全員でまた来るように言われたからだ。このままだと占ったとは言えないと言って50ハドを返してくれた。次に来た時に支払ってくれとのこと。
次がちゃんと来るのか疑問に思うだろう。俺も当然疑問に思っていたが、男が言うにはパーティメンバー全員で集まって町に出て辺りを見回せば自然と見つけられるそうだ。だから不安には思っていない。
むしろ心配なのはこれからだ。
「ここ……か」
目の前にあるのは豪華屋敷。そう、ドルメンで渡された召喚状の差出人オーズド・イルニーク伯爵の屋敷である。
本来なら貴族に正式に会うにはもう少し煩雑な手続きが必要になるのだが、召喚状にはそんなことせず、訪れてくれとあった。だが、流石に事前の連絡なしに会えるとは思えない。今ここに来たのはアポを取るという意味合いが強い。危険な存在として神狼様が認識されては困るのでまた小さくなってもらった。……この辺りは人通りは少ないから囲まれはしないはず。
「何用だ」
門の前に来たシルヴァーに門番が声をかけた。
「この屋敷の主のオーズド・イルニーク伯爵に会えるかどうか聞きに来た。召喚状を渡されたから来たのだが、伯爵はいらっしゃるか」
「伯爵様は出掛けていて屋敷にはいない」
「では、冒険者のシルヴァーがいつ会えるか時を決めて欲しいと言っていたと伝えてもらえるか」
「……冒険者風情が貴族と会う約束を取り付けられるとは思えん。召喚状というのもどうせニセモノだろう。さっさと帰るんだな。さもなくば騎士を呼ぶぞ」
「いや、だから……」
「去れ」
取りつく島も無いとはこのことだ。仕方がない。町中に戻ろう。このままここにいたら本当に騎士を呼ばれそうだ。騒ぎは起こしたくない。ここで最初の言葉に戻る。
「厄介な事になった……」
これだから貴族関係は嫌なんだ。




