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虎は旅する  作者: しまもよう
クナッスス王国編
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ドルメン18 恐怖のマルバツテスト【解説編】

 

 ヨシズ達に連行(連行で間違いない)されてギルドホールに着いた。もう夜も遅い。健康優良児な冒険者はすでに寝て、それ以外は飲むか、反省会でも開いていることだろう。




「なぁ、何で俺は自由な夜にこんなことしなきゃならないんだ?」


「「「シルヴァーの常識が無さすぎるから。つまりは自業自得」」」


「ぐふっ」


 現実逃避ぎみに呟いたら容赦ない言葉が返ってきた。


「さぁ、始めようか」


 笑顔でそう言うラリュルミュスが俺は恐ろしい。



 そして、地獄の集会が始まった……俺にとってのな。



「まず、1問目から14問は魔獣関連の問題だったな。その解説には……こいつが名乗りを挙げた」


「ユリウスだ。魔獣の研究をしている。そこいらの冒険者よりは魔獣に詳しいと思う」


 そして、ユリウスの魔獣談義が始まった。


「手短に済ませる様に言われているから簡単に話していく。聞き漏らすなよ、いいな? まず、魔獣と言う物はほとんどが野生の動物が魔力を取り込んだものだ。俺たちはこれを魔獣化と呼んでいるな。それで、取り込んだ魔力は大抵自分の強化に使われている。稀に魔法を打ってくるのもいるから『大抵』が付く。

 この周辺では魔獣はカウとピギー、あとはお前が狩ってきたエイプに吸血コウモリ、フォレストビーも区分的には魔獣だ。あと、魔物は無生物が魔力を取り込んで魔物化したものだな。トレント、カーニヴォラスプラントなんかがそうだ」


「そ、そうか……」


 本当にざっくりとだから短く済んでいるがあれを一息に全部言切ったことにとても驚いた。……ちょっと感想を言うところがずれているな、俺。


「この辺りはよく出来ていたから一気に話したが、分からないことや聞きたいことがあれば言ってくれ」


 そう言えば……格闘技を掛けてきたあの魔物は何だったんだろうか。


「一つ、聞きたいことがある。森の奥で遭遇したのだが、緑の葉で白い体の魔物は何か分かるか?」


「緑の葉で白い体……植物系か? うーん……」


 直ぐには思い至らないようで、ユリウスは考え込んでしまった。俺たちも考えてみる。


「ちなみに、どんな攻撃を仕掛けられたんだ?」


 ヨシズが聞いてくる。格闘技だと言うと周りは『んなもん聞いたことねぇよ!』と言う風な表情になったが、ヨシズとユリウスは思い当たる事があった様でその魔物の名前を言った。


「「格闘ダイコンだな」」


「「「マジでいるのか!?」」」


 他のメンバーは総じて突っ込んだ。だが、ふと疑問に思うことがある。ダイコンって……手も足も無いよな? どうして、格闘技を掛けられるんだ?


 その疑問は当然だとばかりにユリウスは続けた。


「ダイコンってたまに根が割れるんだ。いわゆる足つきダイコンっていうやつだな。手やら足やらがあるものがたまたま魔物化したんだろう。根野菜系の魔物は普通は地面に埋まったままなんだが、収穫の際に魔物化していることに気付かずに引っこ抜いて逃げられたって話を聞くが、滅多にないな」


「じゃあ、格闘ダイコンに逢えたのはとても運が良かったんじゃない?」


 エリアスが言う。だが俺は賛成出来ない。


「お前もあれの攻撃受けてみるか? そんなこと言えなくなるぞ?」


 そう……あれは俺の体勢を崩し、地面に向けて倒れる様に攻撃してきたんだぞ。いわゆる踵落としだな。俺も対魔獣に使っているが逆に使われてそれはもう、ひっじょうに頭に来た。


 魔物に背後を取られるとは、なんたる不覚! 運が良かったなんて、とんでもない! 俺の最悪の記憶だ。次に遭ったら絶対に倒してやるからな!



「闘志を燃やすのはいいけど、今は常識詰め込みタイムだからね?」


 熱くなった頭をヒンヤリと冷やす言葉が飛んできた。そうだったな今は常識詰め込みタイムと言う地獄だった。


「次は私が担当するわ。魔法関連ね」


「ん? 魔法関連は最後の方だったが?」


 問題の番号順に解説していくんじゃないのか?

 そうこぼすとミールの方から殺気が向かってきた。何故だ。


「だ・れ・のせいでこんなに夜更かしする羽目になったと思っているの? 私も女の端くれなのよ。美容に悪いことはしたくないの!」


 なるほど。夜更かしは肌荒れの原因だから早寝早起きをして肌も健康に保つんだとか言っていたな……村の婆さんが。女性はいつまでも女性なんだよ(意味深)



「いや、もう遅いんじゃないか?」


 ユリウスがそう言い放つ。

 バカだな。美容に関しては女性の努力を踏みにじるような言動は厳禁だぞ。


 俺がそう思うと同時にユリウスは凍りついた。ミールの魔法で、文字通りに。


 バカだな。二度目だが、そう思わずにはいられない。とばっちりを恐れて他のメンバーは目を逸らす。もちろん、俺もだ。ユリウスに助けは来ない様だ。……凍死する前には魔法を解除してくれるだろう。多分、きっと、おそらくは。



「さて、始めるわよ。


 魔法と魔術、違いは何かしら? 今では呪文を唱えるが大掛かりな儀式を必要としないものを魔法、大掛かりな儀式を必要とし詠唱を唱え、魔法陣を用いるものを魔術と分けているわ。ちなみに魔道具は魔法陣を刻んで効果を出しているそうよ。特殊な道具が必要でその使用許可を得て初めて魔道具職人の一歩を踏み出すことになるみたいね。エレンの情報だからまず間違いはないでしょう。


 ここまではいいわね?


 魔法も魔術も今はもう数え切れないほどの種類があるわ。魔法は火、水、土、風の基本属性に氷、木、雷、闇の特殊属性があるわ。まぁ、特殊属性と言っても結構使用者はいるけどね。そして、基本的には皆同じような呪文を使うわね。でも、明確なイメージがあれば新しいものを作れるのよ。これについて詳しく知りたいなら魔導士に師事することをお勧めするわ。あとは……何があったかしら。あ、そうそう。ラストの問題を覚えているかしら?


『魔力を持っているのは特殊種族及び先天的に持っている人のみである』


 あれは引っ掛けよ。魔力は大なり小なり皆持っているの。ただ、それを魔法にして使えない人も少なくはないわ。そう言う人のために魔道具が作られたのよ」


 見事に引っかかったな……。考えてみれば、魔道具は殆どが魔力を流してスイッチを入れるのだ。魔力を持っている人が限られているならば日常生活の魔道具など作られないだろう。


 そして、魔法については俺も少しは知っていた。村に行く前にヘヴンからさんざん聞かされたからな。


 それにしても、流石本職。魔法理論は説明が大変面倒臭いというのに、澱みなく言ったな。


「後は専門的なことになるから知りたければ王都の学院へ通うべきね。冒険者業と両立は申し出ておけば可能だし、魔の森を目指すなら学院で2年ほど学んで卒業資格を取った方が何かとスムーズでしょうね」


 学院か……。今考えてもあまり意味をなさないだろう。


「魔法関連はこんなものか? ラストの問題、やはり引っかかったな。あとは自分で学ぶべきことだろ。ミール、ありがとな」


 あの問題を作ったのはヨシズ、お前か!

 俺の気持ちに関係なく、進行係のヨシズはミールに礼を言って次に進めていく。そう、つぎへ……さっさと終わってくれ。


 残りはざっくり分けた内のギルド関連の問題の解説だ。


 15〜20問の解説をエリアス、21〜30問をウォーレン、31〜40問をソルムがそれぞれ行った。


 特に驚いたのを幾つか挙げようか。


 ● 冒険者からギルド職員になるにはBランク以上の実力が必要である。


(解説者 エリアス)

 この問題はマルバツで分けることは出来ない。

 まず、ギルドはどんなに辺境にあったとしても、最低一人はBランク以上の実力者を置くことが義務付けられている。全員がBランク以上である必要はない。しかし、魔の森に隣接する様にあるアーリマ五公国ではギルド職員は皆Bランク以上でなくてはならない。公国のみと言う条件があればこれはマル、全体でとなればこれはバツである。


 ……そんな答えにくい問題を作るなよ。



 ● ギルドの総本山は各国の王都にある。


 この問題は他国についても知っている必要があるが俺はずっとタリオの森に住んでいたので、国のことなど知るか! と、心の中で切れつつマルをつけた。……だが答えはバツだった。

 では、ギルドの総本山は何処か? 教国である。

 あそこのすく隣にはタリオの森とも繋がる聖域があり、魔の森を目指す冒険者は必ずその国に行く。聖獣の祝福を得るためだな。ギルドはその仲介をやっている。そういった事情があって、とても重要だから総本山を置いているらしい。……とウォーレンが言っていた。



 ● 冒険者を引退したらギルドカードは返却しなくてはならない。


 これはソルムさんが解説してくれた。

 ギルドカードは一種の身分証である。そのため、たとえ引退しても返却する必要はない。そもそも、冒険者宛の依頼は討伐系だけではない。薬草採取や調合手伝いなど、老人であっても出来るものがあるので、引退すること自体が稀である。


『誰もが持つだろう冒険心は老いても無くなることはない。冒険者はいつまでも冒険者だ』


 かつての偉人の言葉だ。ソルムさんの最も心に残っている言葉だと言う。


「大分脱線してしまったのぅ。ワシから話すのはこれくらいだ。何か聞きたいことがあったらいつでも来い」


 パンパン!


「さ、これで今日は終わりだ。ご苦労様。ああそうだ、シルヴァー。もし王都に行くならパーティに入れてくれないか?」


「……え? まぁ、いいが。行くのは準備する時間を含めて5日後くらいになるぞ?」


 さらにゼノンとも相談しなくてはならない。


「まあいいさ。急ぎじゃないからな」


「それなら、明日か明後日に連絡する。ゼノンにも確認する必要があるからな」


「ゼノンはすでにパーティメンバーなのか?」


「まだだが、本人はそうなりたいそうだ。シスターの許可次第だな」


「おそらく問題無いと思うぞ。あのシスターだからなぁ……」


 その会話を最後に俺たちは各々の部屋へ向かった。明日起きれるといいが……。






皆が去ったギルドにて


 ユリウスは未だ凍ったままであった。しかし、ミールの技術で服が濡れることはない。だが、……寒い。


「おーい、ユリウスー生きてるかー」


 様子を見に来たのは自分のパーティのリーダーだ。助かった……。


「さ……ぶ……い……。タスケテ」


 ラリュルミュスはまだ俺の足を固定している氷へ苦笑しながら火をかざす。初歩の初歩であるマッチの魔法だ。


「これに懲りたらミールを怒らせないようにね」


 ミールに限らず女性は怒らせると怖いものだ。……出来るだけ気を付けよう。




数ヶ月後


 肌荒れについて騒ぐミールを前にして


「女としていろいろおそ……」

「黙れ……ユリウス!」


 ミールの怒りの魔法【サンダー】が直撃した。南無。






 怒らせまいと決意したにも関わらず、忘れた頃にまた同じことを繰り返すユリウスであった。


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