ドルメン17 パーティ名談義
アンジュ視点
「あ! 先輩、そちらは終わりましたか?」
部屋を出た所で向こうの部屋を担当した後輩のトリシアと鉢合わせた。どことなく気を抜いているような雰囲気なので向こうも終わったのだろう。
「ええ、トリシア。……ちゃんと記録してあるわね?」
「はい、ここにあります。そちらはどんな感じでしたか?」
そう言って私の持つ記録用紙を覗き込む。驚くでしょうねぇ……と思ったそばからトリシアはやはり叫んだ。
「ええっ! フォレストビーにトレント、カーニヴォラスプラントはともかく、吸血コウモリまでいたんですか!? どうしよう。生態系が崩れているかも……?」
流石現売却カウンター嬢だ。すぐに吸血コウモリの存在から生態系の崩壊へと考えを飛ばしている。聖獣の住むタリオの森の近くであるここ、ドルメンではもともと吸血コウモリはいなかった。考えられるのはドルメン近郊の森に新たな魔力溜まりが現れたか、魔物が密集している所へ移って来たからか。
「今は考えてもしょうがないでしょ。何体かほぼ上位種のものもいたからそれも含めてシルヴァーさん達に聞かなきゃ。戻るわよ」
「はーい!」
*******
俺達は作業も一段落して休憩していた。ギルド嬢がいないと何も作業が進まないからな。
「そう言えば、自己紹介がまだだったな。俺はシルヴァーと言う」
「ああ。こちらが一方的に知っている感じになっているんだな。俺はウォーレンだ。『ウォルニシアス』っていう弱小パーティのリーダーを務めている」
ウォーレンはガタイのいい大工にいそうな親分肌の雰囲気だ。
「自分で言っちゃダメでしょ、それ。僕はエリアスだよ。まだなりたてホヤホヤの初心冒険者でゼノンの遊び友達だ」
エリアスは冒険者になったばかりだと言うことも相俟って背はゼノンより大分高いが、まだ筋肉がついていないひょろっこだ。そこにゼノンが注釈を入れる。
「こいつはこう言っているけど、俺より隠形術は上なんだよ。俺が二匹仕留める間に三匹目にかかっているくらい」
「背があることによる、ほんの少しのリーチの差だよね」
「……それは俺がチビだと言っているのか。なるほど。あとで覚えておけよ」
ムキーッとゼノンがエリアスに突っかかり、二人はそのままじゃれあい始める。
「この二人は放っておこう。ワシはソルムだ。『クシャーナ』と言うパーティの一員だ。ワシらメンバー全員、将来有望な冒険者に会うのを楽しみにここまで来た」
クシャーナは中堅パーティだ。噂では怪我の静養に来たとかあったが、特にそんな感じはしないな。
そして、最後の1人は盛大な爆弾を放ってきた。
「私はキリクと申す。『ムッキリ』などと言う酒の勢いでつけてしまった名前のパーティのサブリーダーだ」
……酒の勢いって言っても限度があるだろ。何故にムッキリ……。っく、ダメだ、笑ってしまう。俺の表情筋、頑張ってくれ!
「一応注釈しておくと、ムッキリはリーダーの名前、ムッスルトの前二文字、私の名前の前二文字を合わせた物だ。元々二人だったのだよ」
この辺りで俺達の我慢が限界に達した。キリクを除く5人の笑い声が響いた。
ガチャリ
そこで、隣の部屋に行っていたメンバーが戻ってきた。
「何か面白いことでもあったのかしら?」
始めに入って来たのはアンジュである。シルヴァー達の笑い声は廊下にも響いていたのだろう。
「いや、まぁ、キリクのパーティ名について聞いて、我慢の限界に達しただけだ」
「ああ……キリクさんのパーティ名って、確か、『ムッキリ』でしたね。初めて聞いた時は笑うのを我慢するのが大変でした」
「しかし、ここの受付嬢はもう笑ってくれないのだよ」
「マジでその名前なのかよ!? キリクって真面目だからパーティ名もその方向かと思っていたんだが。一体どうしてそれになったんだ?」
「酒の勢いだ」
「知る人ぞ知る有名な話だよ。名付けて暫くは皆知らなかったんだけどいつだったか、珍妙パーティ名談義と言うのがあってね……もちろん、公式な物じゃなくて突発的にこれもまた酒の勢いで起こったことなんだけど……ムッスルトが暴露したんだよね」
「よく覚えているな、ラリュルミュス。ワシはその辺りの記憶は無いぞ?」
首を捻ってそう言うソルム。
「うーん。俺はその時ほろ酔いだったから少しは記憶があるんだよ。で、ムッスルトが『俺とキリクのパーティ名はムッキリだ』と言って、その瞬間は何言ってんだ、こいつ。と思ったんだけどパーティ名だと認識して思いっきり吹いた。それで、酔いが覚めて……その後の事ははっきり記憶にあるんだよね」
うんうん、と頷くエリアスやゼノン、ヨシズを除くメンバー。
「今頷いたメンバーがその場にいたのか?」
ヨシズが問う。やっぱりそこ、気になるよな。
「そう。それにしては、皆笑っていたね?」
「「思い出し笑いだ」」
なるほど。確かにキリクのあの真面目顏で言われたら思わず笑い出すかもな。
「その話は横に置いといて、魔獣の確認をしたいのだけれど。いいかしら?」
「ああ、構わない」
話を切ったアンジュに応える。そして、魔獣の内訳を聞くとその数は100を超えていた。
結構狩ったんだな。でも、行き帰りの合計だからそうおかしいとも思えないが。その俺の考えを汲み取ったかのようにアンジュは話を続けた。
「まず、一番問題なのはあの森に吸血コウモリがいたことよ。あれらは何処で狩った物なの?」
「森の大分奥だな。何かまずいことでもあるのか?」
「生態系が崩れている可能性があるんだよ」
俺の疑問に答えたのは何故かアンジュではなかった。以前にガードン達との戦闘後、直ぐに衛兵に連絡しに行った男だ。
「ああ、俺はユリウスって言う。魔獣・魔物についての研究者だ」
そうか。だが、生態系が崩れている、とは?
俺の疑問が顔に出ていたのかユリウスは続けて話す。
「あの森にはもともと吸血コウモリはいなかったらしい。となると、あれは外部から入って来たものか、森に新しく魔力溜まりが出来て、それから生まれた、と言うことが考えられるんだが」
「魔力溜まりは特に感じられなかったな。トレントが妙に魔力を多く含んでいる様に見えたが」
「そう、それ! トレントが多く魔力を含んでいることはそこに魔力溜まりが存在していたと言うこと。シルヴァーが感じられなかったのは魔力溜まりの魔力は既に使われたからに他ならない。……コウモリの魔獣化、トレントの魔力の蓄えにね」
「そうなると、おそらく不自然なほど勢力が弱まっている物が出るはずなのよ」
そうだな。吸血コウモリは魔力を狙う。それは人だろうと魔獣・魔物だろうと見境なくだ。だが、あの森で勢力が弱まっているのなんていただろうか?
「「フォレストビー」」
ユリウスとゼノンが共に呟く。その言葉で俺も思い当たることがあった。
「あ……そうか、あれは群れる物なのに数匹ずつしか来なくてリンクもしなかったよな」
フォレストビーは森においては多数で群れ、仲間が殺されるとリンクを起こす代表格だ。アント系もそれを起こす物が多い。
「やっぱり……フォレストビーが10体しかいなくて、おかしいと思ったのよ。普通、一回につきこの二倍は襲ってくる物よ」
「そう言えば、ゼノンは巣まで取っていたよな」
ふと零した言葉に皆の視線はゼノンに向かう。
「ちらっと見ただけだったけれどね、吸血コウモリの襲撃はあったみたい。でも、クイーンはいなかったよ」
一応確認はしていたのか、スラスラと答える。俺はそこまで頭が回っていなかったな。
「確定かしら? この話は私達が上に上げておきます。シルヴァーさん達が狩って来た物は全て売却で良いのかしら?」
「ああ」「うん」
「全部で1ネルウァになります。手数料として500ハド引いてあります」
魔獣・魔物の数が100体未満なら手数料は250ハド、100体以上300体未満なら手数料は500ハドだ。300体以上は前例が無いそうだ。
「分かった」
1ネルウァは1万ハド。ゼノンと山分けなので俺の取り分は5000ハド。宿一泊三食付きでだいたい1000ハドなので5泊分か。半日での稼ぎとしては上々。
「それぞれの口座に振り分けますか?」
「ゼノン、どうする?」
「そんなに持っていてもしょうがないし口座で」
「俺も口座で頼む」
「かしこまりました。記載の変更は各々のギルドカードで確認出来ます。不具合がありましたら、明日までに申し出てください」
それでその場は解散……にはならない。ゼノンはシスターが怒るからと帰ったが、シルヴァーは10人に囲まれてギルドホールへと連行されていった。
今日は魔獣・魔物にモテモテで、人にもモテモテだな! (やけくそ)
いい大人の夜更かしが悲しいことになりそうだ……。




