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虎は旅する  作者: しまもよう
クナッスス王国編
18/463

ドルメン16 皆で剥ぎ取り大会?


「アンちゃん、愛されてるわねぇ。イジるネタが出来たわぁ」


「ビオラ、ほどほどにしなさいね。嫌われても知らないわよ?」


 ビオラとアンジュの二人が話していると売却カウンター担当の子、トリシアが慌ててこちらへ向かってきた。


「……すみませーん! 先輩! 売却カウンターのヘルプお願いします」


「何があったの?」


 頼まれたからヘルプに入っていては後輩に怠け癖が着いてしまうことがある。慌てようから言って困ったことが起こっているのは確かだろうが、取り敢えず聞いてみる。ビオラも真面目な顔になって聞く姿勢が整っている。切り替えの速さはこのギルドではアンと張り合うレベルだ。それ以前になかなか態度が崩れない。……まぁ、シルヴァーさんには崩されたみたいだけどね。


「それが……先ほど売却に来た二人組がカウンター横のスペースに入り切らないほど魔獣を持って来て、さらに討伐証明部位を取っていないんです。取り敢えず隣の部屋にまだ残っている分を置いておくように指示しましたが、私一人じゃ時間がかかってしまうんです」


「それほどあるなら私達3人掛かりでも時間がかかるわよ」


「ならどうすれば……」


 若干、涙目になっている後輩に解決策を示すことにする。


「幸い、私達以外でも暇な『手』はあるみたいよ?」


 視線の先はアンを話題に騒いでいるヨシズ達であった。




 *******




 非公式、アンちゃんを語る会はますますヒートアップしていく。ファン達の言動は変態性が増してきてヨシズは突っ込みに忙しい。



「俺は返ってくる笑顔つきの挨拶を楽しみにアンちゃんに毎日挨拶をしている!」


 だからなんだって言うんだ。


「なるほど! そうすれば俺もアンちゃんの笑顔を毎日……!」


 毎日何人もの男どもに挨拶されて、毎回笑顔で返すのはアンさんが大変だぞ。やめとけやめとけ。


「僕はピギーをソロで狩った時褒めてもらえたよ!」


 ふっ。ピギーソロ討伐くらいは楽に到達してくれなきゃな。17体狩れば感心の言葉ももらえるぞ?




「……ません…すみませーん!」


「うぉっ! 何だ?」


「魔獣の剥ぎ取りを手伝ってくれませんか?」


 そう言って来たのは若干涙目の受付嬢である。そのあまりにも哀れを誘う様子に先ほどまでヒートアップしていた連中は落ち着きを取り戻している。


「何があったの?状況を詳しく教えてくれるかい?」


 ラリュルミュスが代表して聞く。


「はい……シルヴァーさんとゼノンくんが魔獣の売却に来たのですが、スペースに入り切らないほど持って来ていまして。さらに、討伐証明部位の剥ぎ取りをまだしていないものがほとんどだったので、皆さんに剥ぎ取りを手伝ってもらいたいのです。もちろん、作業の報酬に一人500ハドを支払います」


 ふむ……500ハドはだいたい食堂料理二食分に値する。討伐証明部位の剥ぎ取りだけでこれだけの収入は滅多にない。それだけ剥ぎ取り作業が大変だと言うこと……あの二人はどれだけ狩って来たんだ? 規格外共め。ま、そんなことはどうでも良いか。なかなかの報酬だし、断る謂れは無い。


「引受け…「「「是非やらせていただきます!」」」…よう」


 オレの言葉に被さって野郎どもはやる気に満ちた声で良い返事を返す。彼女の泣きそうな顔にやられたか? 女の涙は最強ってな。……オレとラリュルミュスは同じタイミングで溜息をついた。ラリュルミュスはアンさんが関わらなければ意外と常識人である。


「ありがとうございます。4人が売却カウンターのある部屋、他の6人はその隣の部屋に向かってください」


「「「承った!」」」


 この状態であれば誰でも彼等を転がすのは容易い。

 ……大丈夫か、ここの冒険者。馬鹿すぎないか?


 そして、受付嬢達はカウンター奥へ向かい、俺達は隣の部屋へ向かう。




 *******




「どうしたんだろ……。誰も来ないね?」


 元の部屋に戻った俺達は大人しく待っているが受付嬢の子は一向に来ない。どうしたのだろうか?


「そうだな……ん? 入り口の方から大勢来ている気配がするぞ?」





「剥ぎ取り会場はここかー!」


「ヴェガ。馬鹿なこと言ってないでさっさと入る」


 ヴェガと呼ばれた男はラリュルミュスに小突かれ部屋に入って来る。その後ろにガヤガヤと騒がしくヨシズやグランド、ミールが入って来た。


「どうしたんだ?」


「手伝いに来た。若干涙目で頼まれちゃあ断れないよ」


 答えるのはラリュルミュス。俺はその時、全く関係ないことを思い出したので生返事を返していた。


「ああ、頼んだ……。ヨシズ、今思い出したんだが、ラグールがお前の盾の修理が終わったと言っていたぞ」


「おっ、そうか。流石ラグール。早いな。知らせてくれてありがとよ」





「すみません、お待たせしました。剥ぎ取り用のナイフを持って来たので今持っていない方はこれを使ってください」


 受付嬢の子達が遅れていたのはこれを取りに行っていたからか。俺の様にアイテムボックスを使えるメンバーは各々の剥ぎ取りナイフを取り出し、その他のメンバーは受付嬢達が持って来たナイフを借りる。そして、早速取り掛かろうとするとヨシズ達は4 : 6に分かれていた。あらかじめ決めておいたのだろうか。人数から言って俺とゼノンはこのまま部屋で作業するのだろうな。


「さぁ、始めるぞ」


「「「おう!」」」


 残った四人は大変やる気に満ちている。


「俺達もやるか、ゼノン」


「うん」


 近くに積んであるものから討伐証明部位を剥ぎ取っていく。売却カウンターにいた子は記録を先に済ませるようだ。剥ぎ取っている近くで紙に書き込んでいる。そして、その子が近づくと男四人の作業スピードが上がる。何につられて来たのか一目で分かる光景だ。


「女の涙は男に効果的な武器だってことだな……」


「? シルヴァー兄ちゃん、なんか言った?」


「いや、なんでもない」


 俺達が三分の一ほど剥ぎ取ったところで、記録も書き終わったのか、彼女も剥ぎ取りに参加した。

 黙々と続けること十数分。ようやく全て剥ぎ終わった。


「お疲れ様です。ナイフはあそこで洗って下さいね。私は隣の部屋を見て来ます。ここで待っていて下さい」




 *******




 ヨシズ視点 別部屋にて



 部屋を移動するのはオレとラリュルミュス、グランド、ミール、ユリウスにヴェガ。あちらの部屋には所属パーティの異なる四人が残った。



「いやー、あそこまで狩れるものかね? 昼からの狩りでしょう?」


 ラリュルミュスは苦笑いで言う。先ほどの部屋を見て、オレ達は感心するとともに呆れた。

 昼から狩ってこの量になるなんて、どれだけ襲われたんだって話だ。ピギー狙いで草原を歩いていてもここまで現れることはない。運が良いのか悪いのか……いや、この場合は運が悪いんだろうな。傷塞草と魔復草を取りに行ったと言っていたから受けた依頼は十中八九マチルダ婆さんとクランチの共同依頼だろう。討伐依頼を受けたなら大喜びする所だが。


「森の奥まで行ったと言っていたからきっとここを開ければ唖然とする光景に出会うんじゃないか?」


 あの部屋に森によく現れる魔獣は含まれていなかった。きっとこの先に置いているのだろう。

 そしてオレは扉を開く。後続の奴らはそんなまさかと言って笑っていたが部屋の中を見て絶句した。オレもその例に漏れず一歩入って固まってしまった。


「……いや、確かにそうかもなとは思っていたがな。森の奥まで行ったんだからこれは想像して然るべきだとは思うんだが」


「その想像を実現するにはどれだけの実力が必要だと思っている? 生半な実力では狩るのはきついよ」


「「「…………」」」


 目の前に置かれているのは巨大蜂、トレント、バカでかい植物、エイプである。いずれも森の奥まで行かないと見ることも出来ない。まぁ、エイプだけは入り口付近で出て来るのだが。



「おい……これ、フォレストビーか? でかくないか?」


「それ以外にも何、このトレント! 内包魔力が見たことないほど高いんだけど」


「これは、吸血コウモリだな。あの森にこんなのもいるのかよ……」


「こっちは……。なんだこれ? 口がある植物なんぞ聞いたことがない」


 ちょっとした騒ぎになった。かく言うオレもフォレストビーの大きさに驚いた一人だ。だが、あの植物には見覚えがある。ここまで大きくは無かったが。


「その植物は多分カーニヴォラスプラントだな」


 虫だろうが動物だろうが全て捕食対象で近付いた生き物を蔓で拘束して食べるんだったかな。蔓には毒を含む棘があって、それで捕まえたものを弱らせるらしい。魔物としてはCランクでも狩れるのだが、生息地が森の奥深くだとか、周りが危険な所だからBランク用の魔物となっている。


「って、ユリウス、気を付けろよ。それの棘には毒があるぞ」


「分かってるって。確かこれの毒って対魔獣によく効くんだよね」


「これはシルヴァーのものだろ。勝手なことするな」


「……ダメかな?」


「「ダメに決まっているだろう」」


 ラリュルミュスと言葉が被った。このタイミングの良さで最近一部の人から理解してはならない視線を向けられるんだろうか。

 まぁ、それはさておき。


「取り敢えず棘は取っておいて、後で聞けばいいだろう。まずは蜜袋を取ってくれよ」


「了解」


 俺達は黙々と討伐証明部位を剥ぎ取っていく。取り終わった物を見ると、フォレストビーの針が10本、吸血コウモリの牙が25対、カーニヴォラスプラントの蜜袋が8個あった。その他にもエイプが19体、ピギーは9体いた。


「あっ!」


「どうした?」


「フォレストビーの針が少し刺さった。たまに毒を持ってたよな? 大丈夫だろうか」


「患部がしびれて来たら毒消しを飲め」


 などと言う一幕もあったが、全て剥ぎ終わった。ビオラとアンジュは記録に計測と忙しくしており、終わったら二人とも壁に体を預けて一息ついていた。



「ちょっとシルヴァーさん達を問い詰めましょうか」


「ええ。返答次第では直ぐにランクを上げてもらいましょう。支部長に」


 彼女達がそんな恐ろしい相談をした後、オレ達は元の部屋に戻る。明日は支部長の仕事が増えそうだな。南無。




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