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虎は旅する  作者: しまもよう
クナッスス王国編
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ドルメン15 遅刻した


 ヨシズとの約束を思い出し、慌ててギルドに来た。ギルドはまだ明かりが着いている。間に合ったかな……。


「こんばんは。ヨシズはいるか?」


「お! シルヴァー。やっと来たか。一体どこまで行って来たんだよ、全く……」


「やっぱり遅れたか……。少し森まで行って来た。待たせた様ですまない」


 そう言うと、ギルド内に変な空気が広がった。ヨシズは目頭を揉みほぐして聞いてきた。


「まさかと思うが、奥まで行ったのか?」


「行ったぞ。と、言うか奥に行かないと傷塞草も魔復草も見つからなかった」


「そりゃそうかもしれないが。ちなみに何人で行った?」


「ゼノンと2人で、だな」


「ゼノンってあいつか、あの教会の。地味に実力はあるから初心者パーティに入れてもらえないっていう不憫な奴。

 でもなぁ……あそこの適正ランクはC以上だぞ。お前らのランクを考えると普通は自殺希望者としか思えない。まぁ、お前がランク以上の実力をもっているのは知っているが、それでも夜の森はなぁ……」


 そう言ったヨシズとラリュルミュスは頭を抱えた。聞いていた他のメンバーも似たような反応をし、さらに一部は天を仰ぐしぐさをした。そして、俺とゼノンを放って集まってなにかを相談し出す。俺は先に狩って来たものの売却に行こうと、声を掛けた。


「ヨシズ、先に魔獣の売却をして来るぞ」


「ああ、行ってこい。戻って来たらあのテストの答え合わせだ。しっかりと常識を詰め込んでやるから安心しな」


 ……いやそれ、ちっとも安心出来ないのだが!




 *******



「……行ったか……。さて、さっきのあの言葉、どう思う?」


 オレはシルヴァーが魔獣の売却に向かったことを確認して皆に聞いてみた。もちろん、二人(・・)()に行って来たという、非常識な発言についてである。まさかとは思っていたが実際に聞くと結構な精神ダメージがあった。


「非常識」


「意味不明」


「信じられない」


「人外」


「 「「あれは人の括りには入れられないだろ」」」


 なかなかひどい言葉が返って来たがオレも賛成だ。昼から夜まで森にいて当然戦闘があっただろうにピンピンして戻って来たことが既に非常識だ。森には魔獣も魔物も多数存在する。一歩入れば強敵との連戦が余儀無くされる。しかも、昼からこの時間になるまでいたなら黄昏にも当たったはずなんだがな……。


「オレ達は常識が通じない相手に常識を教えることになるのか……」


 そう言うと周りは何を今更といった顔をしたが、オレはシルヴァーが少しでも常識があることを期待していたんだ。その期待は儚く散ったが。


「ところで、シルヴァーに常識を叩き込むにあたって一人5問ずつ解説していけばいいか? 丁度ここには10人いるしな」


「あ、俺ここがいい」


 一人がそう言って差したのは魔獣関連の問題だった。


「ああ、お前魔獣マニアだもんな……。丁度いいか」


「マニアだと……。俺の熱意はマニアで収まるものじゃない! あらゆる魔獣の体を知り、弱点を調べる……私は、対魔獣の研究者だ! マニアなんてさわり(・・・)しか触れてないものとは違う。戦いにおいて相手を知ることこそが全ての真髄であり、クリティカル狙いが最も効率のいい……(以下略)……」


「あーあ、スイッチ押しちゃったよ」


「こうなるとしばらくは止まらないんだよなぁ」


「普段はしっかり者の斥候・遊撃なのにね!」


 口々に言うのはシュトゥルムのメンバーである。ちなみにこの男、ユリウスはゼノンの師匠的なものでもある。


「「「シュトゥルムも大変だな」」」


「そこに落ち着くのかよ……」


 他のメンバーはそう結論を出し、オレの精神力がかなり削られた……気がする。さて、魔獣関連の問題はユリウスに任せるとして、他を振り分けないと。



「他は特にここがいいってところはあるか?」


「はーい! 私、魔法系の問題がいいでーす!」


「「「任せた!」」」


 実は、ここにいるメンバーは魔術がとても苦手である。使えなくはないが理論までは覚えていない。流石、使えりゃいいと突っ切ってきた奴らだな。実のところ、誰かがこれについて話題に出せば即座に押し付ける用意があった。


『面倒くさいものは人任せ』


 これぞ、ダメな大人の一例であろう。ミールの目もどことなく冷えている。


「ま、あとは誰でもいけるから、適当に振り分けるぞ」


 そして決まったところで、シルヴァーを待つが、一向に来ない。


「おい、流石に遅くないか? まさかシルヴァー、逃げたんじゃないだろうな」


 そう言ったのはヨシズとも何度か組んだことがあるヴェガだ。ちょっと短気なんだよなぁ。考えられる原因はもう一つあるぞ?


「それか、狩って来た魔獣が多過ぎて換算に時間がかかっているのかもな」


「いや、ヨシズ……。それはないだろ。森からここまで戻って来るのに精一杯で戦闘などしていられないんじゃないのか? そこまで……」


「甘いな。黄昏に当たっているんだ。森では魔獣は絶え間無く襲って来たと思うぞ。魔獣切り替え舐めんな」


 ヴェガの言葉を遮り、オレは言う。絶対、こちらが真実だと思う。実力があるから逃げの一手を取るとは思えない。きっといちいち戦闘して倒した魔獣をご丁寧にも全部持って来てそれをまとめて売却しようとして時間がかかっているのだろう。


「……ヨシズが言うならそうかもしれないが、確かシルヴァーってほんの一月くらい前に冒険者になったとか言ってなかったか? ほら、ヘレナちゃんを背負って来た時にさ」


「俺はその時いなかったから知らないが、昨日聞いてみたら2ヶ月でDランクにしたとか言っていたぞ。その前は何していたんだと聞いたら言葉を濁されたがな」


「2ヶ月でDランク……。早いと言うべきか遅いと言うべきか。ギルドの管轄外の依頼を多く受けていればそんなスピードかもな。それと、探られたくない過去がある、か……。うーん。謎だな」


「誰しも探られたくない過去があるものさ」


 それが締めになり、話題はアンさんの素晴らしさへと流れていく。言い忘れていたが、ここにいる奴等はアンさんのファンである。だんだん変な方向へヒートアップしていくのも仕方ないだろう。


 ヨシズにとってアンさんは普通に受付嬢として好ましく思っているだけなのでファン心理などは理解できない。従って、言わばアンさんを語る会のような雰囲気になったこの場は苦痛でしかない。割と常識人のラリュルミュスもアンさんのファンなので役に立ちそうにない。



 頼む、シルヴァー。早く戻ってきてくれ!



 *******



 俺とゼノンは一旦狩ってきた魔獣を売りに行く。売却カウンターは別部屋だ。ヨシズ達が騒いでいる声は遠のいていくが比例して不安が増していく。普通に教えてくれればいいのだが、何か罰ゲーム交じりの方法を考えていそうでな……。


「シルヴァーにいちゃんどうしたの? 何か不安なことでもあった?」


 顔に出ていたのだろうか。ゼノンに心配されてしまった。


「いや、何でもない」


「そう。……ストップ! 通りすぎようとしてるよ。本当に大丈夫?」


 そう言いながらゼノンは扉を開けて中に入る。


「おや、こんな時間に来るなんて珍しいですね。量が多いならあちらへ置いてください」


「二人合わせてかなりの量になると思う。黄昏時に当たったからな」


「それはご愁傷さまてす。よく生きて帰ってこれましたね」


 俺とゼノンは魔獣を出して行く。半数位出したところからカウンターにいた子の顔がだんだん青ざめ、引き攣ってきた。


「ちょ、ちょっと待ってください! そこで一回換算します!」


 慌てて止めるカウンター嬢。俺達は大人しく出すのを止める。


「ちなみに、あとどれ位ありそうですか?」


「今出したのと同じ位だな」


 ゼノンも頷いていたので俺と同じだと分かる。すると、カウンター嬢は青い顔を真っ白にさせて言った。


「これではんぶん……狩りすぎですよ……。討伐証明部位を取ってないようですので私一人じゃ時間がかかります。今ギルドにいる子皆呼んで来るので待ち時間に隣の部屋に残りを出しておいてください。あなた達にも、やってもらいますからね!」


 カウンター嬢は少し意識が旅立ちそうに見えたが、気を持ち直して俺達に指示を出すと奥へ人手を呼びに向かって行った。


 俺達は隣の部屋に残りを出しておく。こちらの方が体格の良いものが多かったので部屋いっぱいになってしまった。血抜きの処理はしてあるからそこまで量はないと思っていたのだがな……。

 そして、先に処理するのは売却カウンターのある部屋に置いてきたものだろうから俺達は元の部屋に戻る。ここ、売却カウンターではよく順番待ちが発生するため長椅子が置かれている。俺達はそこに座って受付嬢を待つ。



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