お茶を振舞われている訳だが
―――そして…十数年の月日が流れた
「…と、までは行きませんけど、軽く5時間は喋ってましたよノコさん」
うわ、お外真っ暗。どうしてこうなった。
「…だからさっきから悪かったと言っているだろう。悪かったと思っているからこうして茶まで振舞っているんじゃないか」
ノコさんはバツの悪そうな顔をしながら、静かにお茶を口にした。
長話のお詫びがお茶って、それって結局また長話じゃないですかやだー。
俺が辟易しているのが伝わったのか、ノコさんは肩を竦めてみせる。
「ほら、御覧の通りこの店は閑古鳥が鳴いているだろ?それにやっと客が来たとしても、こんなスラムの店に来る客にはまあ碌な奴がいなくてな。お前の様なまともな人間と話す事もずいぶん久しかったんだ。丁度研究も一段落ついていた事も相まって、私もついつい話し過ぎてしまったんだよ」
俺が…まとも?何か新鮮な言葉を頂いてしまった。まぁいいけど。
しかしそれにしたって5時間は酷いよノコさん。
「『それと生憎、私は客でもない赤子相手に話しをしてる程暇でもないんだ』」キリッ
俺は腹いせに、先刻のノコさんの口調を皮肉った様に真似て言った。
「…ふふ」
あ、何笑ってんだこいつ。
「自分で笑ってたら世話ないですよもう」
「あ、あぁ。すまない…くく」
ノコさんはしかし俺の口真似が余程ツボに嵌ったのか、それでもくつくつと笑いをかみ殺している。もー。
というかこの店本当に客来ないな。
こんなに堂々とカウンターで茶なんか飲んでていいのかしら。
「この店、立地がどうとか言う前に、店の外装と名前がアレ過ぎるせいで客が来ないんだと思いますけど」
あのオークに襲われてた冒険者達も、とにかく気持ち悪い看板と気持ち悪い建物を探せばたどり着けるって言って、大体の場所しか教えてくれなかったけど一発でこの店だって分かったもんね。
「むぅ…外装の方は自覚はあるが研究する部屋をそれぞれ分けているから仕方ないんだ。しかしこと店名に関しては我ながら良く出来ていると思うのだが」
センス皆無。この魔術師センス皆無だよ。
「そ、そうなんですか」
「全員が口を揃えて言うのだが、何やら私には愛想が足りないらしくてな?それは客商売にはかなり致命的な事だろう。だからせめて構える店の名前くらいは明るくしてみたんだ」
と、言いながらノコさんはどこか誇らしげだ。
うん、この人何かずれてる。
「それにしたってですねぇ…何がどうしてにゃんにゃんノコちゃんになるんですかにゃあ?」
「ん?あぁ、それはな」
そう言って、ノコさんはフードを取る。
…おぉ。
「ノコさんって猫さんだったんですね」
「そうなのにゃ」
ぴょこぴょこと猫耳が動く。
ノコさんの頭の上には、その少し青み掛かった髪と同じ色の猫耳が乗っかっていた。
これは猫好きの俺としてもたまらない。
それにしても結構ノリ良いではないかノコさん。これで無愛想なのか。
俺はそんな事を考えながらノコさんと猫耳を、じぃっと見つめ続ける。
ぴょこぴょこ。
じぃー。
ぴょこ、ぴょこ。
じぃー。
ぴょこ…ぴょこ。
じぃー。
…ぴょこ。
じぃーーー。
「…頼む。今のは忘れてくれ」
あ、顔逸らした。うわ、顔真っ赤。
キャラじゃない事やるからそういう事になるんですよ。
なんか今のノコさんって、合コンで無理にテンション上げて盛大に爆死した人みたいですね。ぷぷぷ。
俺が吹き出した事にびくりと反応してから、ノコさんは慌ててこちらに顔を戻す。
「わ、笑うな!今日の私は何故か変なんだ!普段はこんな失態は誰にも見せたりしないんだが…お前、もしや私に何か魔法でも使っているのではないだろうな?思えば最初にお前の姿を見た時にも私は妙な胸騒ぎを覚えた。ふむ…何らかの洗脳、それとも魅了か…?いや、そんな不自然な感情ではないなこれは、心の底から自然に相手を気に入ってしまう様な…気を許してしまう様な…私の記憶する限りこんな魔法も魔術もない…なんなのだこれは…」
気付けばノコさんは赤ら顔を止め、今度は真剣な顔で悩み始めていた。
やれやれ、本当に魔術が好きなんですね。
しかしなんなんだろうね。俺は別に何もしてないんだけど…あ、もしかして。
俺は心当たりを思い出し、ステータス画面を開いた。
--------------------
name;名無し LV,8
HP:35000
MP:72000
STR:340
DEF:113
INT:208
AGI:197
DEX:146
LUK:13
切り替え1/2
--------------------
ちなみに今の俺のステータスはこの通りだ。この時点で初期値のほとんど倍だ。HPとMPに関してはその域に留まってないし。
ふむ、こんな調子で成長していく俺は果たして最後にどんな化け物になっているんだろうねいやー楽しみだ。
おっと、そうじゃなくてスキル画面スキル画面。
--------------------
所持スキルポイント,174
使用スキルポイント,96
~習得スキル~
生活魔法【MAX】身体強化【MAX】空間魔法【MAX】気配察知【4】
~習得可能スキル~ ※白髪さんセレクト異世界初心者おすすめスキルだよー
剣術(5)火、水、風、氷、土各属性魔術(それぞれ5)回復魔法(5)
魔装甲(5)料理(5)鍛冶(5)裁縫(5)錬金術(5)偽装(5)
状態異常耐性(5)魔力操作(5)闇魔法(10)時魔法(10)
飛行魔法(10)原始魔法(10)HP2倍(25)MP2倍(25)経験値10倍(25)
鑑定(10)
全部表示
~習得ユニークスキル~
猫神の祝福
限界突破
創造の力
超成長
言語理解
いつでも白髪さんと一緒!
~獲得称号~
オークキラー(100スキルポイント獲得)
切り替え2/2
--------------------
あれ、称号?スキルポイントも増えてる。
ふーん、こういうのでもボーナスが貰えるわけね。まぁ今はいいや。
俺は猫神の祝福をタップする。
--------------------
猫神の祝福
説明;猫に無条件で好かれる。
--------------------
うん。単純明快だね。
未だにぶつぶつと何かを呟いているノコさんを知り目に、俺はほっこりと一人で納得した。
そんな時。
カランカランと来訪者を知らせるベルが店内に鳴り響いた。
俺はそれに反応して入り口の方を向いた。
そこにはにやにやと気味の悪い笑みを顔に浮かべた小太りの男が立っていた。
ずかずかと近づいて来る。
…あ、俺は無視ですか。
小太りの男は俺を全く意に介さず、ノコさんの傍らに寄ると、馴れ馴れしく肩に手を回した。
男は自分の顔をノコさんの顔にぐいっと近付ける。
「おい、俺が来てやったぞノコ。歓迎のキスはどうした?ほら、ほら」
うわ、小太りのキス顔だ。見るに耐えない。
「これは全く新しい魔法か?いや魔法に関して言えばここ200年は新しい魔法何て発見されていない、現在発見されている魔法は魔力操作、空間、闇、原始、飛行、この5つだけだ。とすればやはり魔術?いやこいつは魔術に関する教養はまだ無い様だし、じゃあ魔法しかないではないか。この子供が新種の魔法使い?果たしてそんな事があるのか?いやしかし…ぶつぶつ」
あ、ノコさん小太りの存在に全く気付いてないね。
しかしこれは良くないな。ノコさんが拒否しないのをいい事に、小太りが増徴してる。
「お?今日はえらく大人しいじゃないか。ようやく俺の物になる決心がついたのか?なら遠慮なく」
小太りが今度は本気でノコさんの唇へとずいっと顔を近付けた。
おい。
「ノコさんはもう俺の物ですから。そういうの止めて貰えませんか?」
ノコさんの事かなり気に入っちゃったんだ俺。だから俺の物にするわ。
「…?…?はりゃ!?おえおふひが!」
小太りが一瞬遅れてパニックになった。
小太りの顔、唇がなくなったその場所から唾液がダラダラと垂れ続けている。
小太りは自分とノコさんの間に突如現れた、たった今自分の唇を食い千切った真っ黒い‘それ’を驚愕の目で見つめている。
「丁度さっき吸い込んだ魔物達もお腹を空かしているでしょうからね。餌としてもあまりにもお粗末な物ですが、まぁ無いよりはマシでしょう」
俺はそう言ってから、二人に向けて翳していた手を下ろし、ゆっくりと魔法を解いた。
途端に真っ黒い‘それ’は名状しがたい何かの叫び声の様な音を立てながら、自身を飲み込んで行く様に、ギチギチと徐々に小さくなっていき、やがて消えた。
「…は!な、なんだ!今のはなんだ!」
お、ノコさんやっと戻って来ましたね。
ノコさんは目の前で唾液を振り撒きながら何事か喚き散らしている小太りには、一切の関心も示さないまま、カウンターに身を乗り出して、俺の方にずいっと寄ってきた。
「今のもお前の魔法か?お前は転移が使える訳だから、空間魔法の使い手だろう。今のもその一種なのか?」
「えぇ。そうですよ。今のは私が使える空間魔法の中で一番強力な魔法です。生きてても死んでても、とにかくなんでも吸い込んだり、食い千切ったり出来ちゃう魔法です。あと、私が使える魔法は何も空間魔法だけという訳でもないです」
今はまだスキル取得してないから使えないけどね。
「生物も取り込める魔法空間だと?むむむ…そんな事が可能なのか?何より先ほどの魔法空間はまるで意思を持っている様な振る舞いだった。恐らくお前の思い通りにその動きを操作出来るのだろうな。魔法空間は物理的な干渉を全て遮断したその上で物質そのものを取り込む。だからお前のそれが本当にどんな物でも吸い込み、食い千切ると言うのなら、いかなる耐久力、防御力もお前の前にはその効果を発揮しないという事だぞ…規格外過ぎる。そして多重魔法持ちか…私は少し恐ろしくなってきたよ、ちなみにさっきのは範囲はどれくらいまで広げる事が出来るんだ?」
ノコさんの顔色がかなり悪くなっている。範囲?どうだろう。
「まだ数回程度しか試していないので、範囲に関しては不明ですね」
「一般的に魔法空間の大きさは使用者の魔力総量で決まる。魔力を多く持つ者はそれだけ大きな物体をそこに入れる事が出来るんだ。もちろん保存している物の総重量の限界も魔力で決まり、それを越えてしまうと何も入らなくなるのだが、まず魔法空間の大きさを上回る物はそこに入れる事は出来ないんだ。馬車に積んでいた細かい荷物は全て入れる事が出来ても、その馬車丸ごとは入れれなかったりする事も良くある話だ」
なるほど。しかし魔力依存か。
「使用者の魔力から大体の目星はつく感じですかね」
「そうだな。お前は自分の魔力がどれくらいか知っているのか?」
「えぇ。私の魔力は今のところ7万くらいですね。これってどうでしょうか?」
戦闘力だったらギニュ●特戦隊にギリギリ入隊を許されるレベルか。
「な…!なな、7万だと!?それは確かなのか!?」
おおう。凄い驚いてる。
「えぇ、確かですとも。私は自分のステータスが見えるスキルを生まれつき持っていまして、自分の能力はかなり細かいところまで分かるんです」
あ、そういえばこれって他の人にも使えるのかな?
ノコさんで試してみるか。
ノコさんのステータス。お、出来た。
--------------------
name;ノコ=フロウアス LV,18
HP:900
MP:600
STR:11
DEF:14
INT:102
AGI:7
DEX:67
LUK:3
切り替え1/2
--------------------
--------------------
~習得スキル~
火魔術【3】水魔術【3】風魔術【4】氷魔術【2】土魔術【2】
詠唱短縮【3】気配察知【2】
切り替え2/2
--------------------
………しょぼい。ノコさんがしょぼいよ。




