0
『――〝オウ・ランジ・ジウス〟を下さい‼』
「は? オレンジジュース?」
『オレンジジュースではありません。オウ・ランジ・ジウス、デス』
出発して数時間が経過した頃。
なんだか機体がカスッカスッとおかしな音を立て始めたと思えば、ノアがそんなアナウンスを流す。
『「オウ・ランジ・ジウス」は箱舟の燃料でございマス。ハイパードライヴモードは大変エネルギーを消費いたしマスので、そろそろ燃料の補給が必要デス。底をついてしまえば、これ以上の航海は非常に困難となるでしょう』
「うそ、墜落しちゃうの⁉︎」
『ご心配いりません。もともと当機には、予備燃料としてひと月分の「オウ・ランジ・ジウス」が積み込まれておりマス。ボンベ一本分で一週間は持ちマスので、タンクへの早めの補給をおすすめいたしマス』
言われるまま、僕らは箱舟の後部まで行き、燃料タンクのバルブを捻る。
「うッ……わ」
蓋を開ければ、むあっと生暖かい、柑橘系の甘酸っぱい匂いに抱きしめられた。
果肉らしきものがそこらじゅうにへばりついて、確かに言われた通り、深いタンクの底にちょびっとだけ残っている。橙色の液体、どう見てもこれって――
「オレンジジュース‼︎」
『オレンジジュースではありません。オウ・ランジ・ジウスです‼』
「いや、どこからどう見たってオレンジジュース以外のなにものでもないだろこれはッ……!」
目を離した隙に顔をタンクに突っ込んだノルンが、指で掬いとってぺろんと舐める。
「おいしい!」
本当にそれだったみたいだ。
「ど……うなってるんだこの船は! ほんとにオレンジジュースが燃料なのか⁉︎ そんなもので宇宙まで飛べるだなんて! ば、馬鹿げてる……ッ、誰だこんな仕組みを思いついたの! クレイジーが過ぎる!」
『な、――創造主たる神々を愚弄する気でございマスか⁉︎ いいから早くオウ・ランジ・ジウスを下さい。本当に動けなくなりマスよ!』
取り乱す僕をノアが叱責し、補給を促す。ちょっとどういう理論で成り立っているのか突っ込みたくてうずうずするのだが、船が動けなくなるのはそれ以上に困る。
「燃料はどこ?」
『隅にまとめて積まれておりマスので、それをお使いくださいませ』
「ないよ?」
『いえ、そんなはずは……』
いや。ほんとに見当たらないぞ。
『なんですって……燃料がない⁉︎ なぜ⁉︎ ありえません‼︎ あるはずなんデス! ないなんてこと絶対にないデス! 右の隅に……積んであったはずなんデス! 補給分の黄色いボンベが‼︎』
「――え」
……あ。
「ライ君。どしたのその顔」
ボンベ。ボンベ……。
……ボンベ。
積んであった。
黄色いボンベって……。
数時間前の騒動の記憶領域を思わず巻き戻す。
それ、さっき……。
隅の方に積まれていた無駄に数の多い黄色い細長のボンベを、全て抱えて箱舟の外へ放り投げた光景が蘇る。
「……捨てちゃった、かも…………」
――FIN?




