キメラ
その向こうには青空が広がり、遠くに建物らしき影も見えた。
「玄武街かな!」
サクラが目を凝らす。
その表情が変わった。
「待って。あそこにいる」
5人が足を止める。
石門の手前。
古道の出口を塞ぐように、大きな魔物が伏せていた。
獅子の頭。
山羊のような胴体。
背中には大きな翼があり、尻尾の先には蛇の頭が付いている。
魔物がゆっくりと立ち上がった。
「うわ…強そう」
シオリが杖を握り直す。
ユースケはヘルパーを確認した。
【キメラ】
【レベル25】
「レベル25。ボスみたいだね」
サクラが炎鱗の弓を構える。
キメラが前脚で石畳を掻いた。
獅子の口から低い唸り声が漏れ、蛇の頭もこちらへ向く。
「確認するね」
ユースケがキメラを見る。
「アナライズ!」
【弱点属性:なし】
【耐性属性:なし】
【状態異常耐性:毒、麻痺、睡眠】
「弱点も耐性もなし。毒、麻痺、睡眠には耐性あり」
「弱点なしかぁ」
シオリが少し残念そうに杖を構える。
「俺が前に出る!」
サトルが鉄壁の盾を構えた。
「無理はしないでね」
「おう、任せとけ!」
キメラが地面を蹴った。
「速い!」
ドンッ!
巨体が鉄壁の盾へ激突する。
サトルの足が石畳を滑った。
「ぐっ…!」
続けて前脚が振り下ろされる。
ガンッ!
盾で受ける。
間を置かず、獅子の牙が迫った。
「ガーディアンスタンス!」
淡い光がサトルの身体を包む。
腰を落とし、噛みつきを正面から受け止めた。
「重いな…!」
ランが横へ回り込み、拳を叩き込む。
サクラの矢も脇腹へ突き刺さった。
ユースケは炎鱗の大剣を振り上げる。
「グランドインパクト!」
重い1撃がキメラの前脚へ叩き込まれた。
「グオオォッ!」
巨体が揺れる。
ユースケは表示を確認した。
「入ってないか」
攻撃力低下は発生していない。
「いくよ!」
シオリが杖を向ける。
「アイスバレット!」
氷弾がキメラの胸へ直撃した。
巨体が揺れたが、まだ余裕がある。
キメラが身体をひねった。
「サトル、後ろ!」
ランが声を上げる。
蛇の頭が盾の脇から回り込む。
サトルが身体を引いたが、間に合わない。
ガブッ!
蛇の牙が腕へ食い込んだ。
「ぐっ!」
サトルが斧で蛇の頭を振り払う。
「サトルさん、大丈夫ですか?」
「防御力が下がってる!」
その直後、キメラの前脚が振り下ろされた。
ガンッ!
「ぐあっ!」
サトルの身体が大きく押し込まれる。
「ヒール!」
ヒナの回復魔法が飛んだ。
「サトル、代わるわ!」
ランが前へ出る。
「まだいける!」
「そのまま受けるのは危ないわ。下がって!」
「…分かった!任せた!」
サトルが後ろへ下がる。
ランが入れ替わるようにキメラの正面へ入った。
前脚が迫る。
ランは横へかわした。
続けて獅子の牙。
身体を沈めて抜ける。
蛇の頭が横から飛びかかった。
ランは後ろへ跳び、牙をかわす。
その間にヒナがサトルへ杖を向けた。
「キュア!」
淡い光がサトルの身体を包む。
「戻った!」
「良かったです」
「助かった。ありがとうな!」
キメラが大きく翼を広げる。
ブワッ!
激しい風が石畳を吹き抜けた。
「くっ…!」
ランの体勢が崩れる。
そこへ前脚が迫った。
ドンッ!
「ランさん!」
前脚が身体を捉え、ランが石畳を転がった。
「ヒール!」
ヒナがすぐに杖を向ける。
だが、キメラは止まらない。
倒れたランへ獅子の頭が迫った。
「させるか!」
サトルが割り込む。
ガンッ!
鉄壁の盾が牙を受け止めた。
「こっちは俺が抑える!ラン、下がれ!」
「助かったわ」
ランが距離を取る。
ヒナの光が身体を包み、HPが戻っていった。
キメラが低く唸る。
獅子の口が大きく開いた。
喉の奥に赤い光が集まっていく。
「何か来る!」
サクラが声を上げる。
次の瞬間。
シュンッ!
細い赤光が一直線に走った。
サトルが身体を横へずらす。
熱線がすぐ脇を通過し、後方の石壁へ突き刺さった。
ドンッ!
石壁の一部が赤く焼け、砕け落ちる。
「危なっ!」
シオリが目を見開いた。
「まともに受けたくないね」
ユースケがキメラを見る。
「もう1回試すよ」
炎鱗の大剣を構え、横から踏み込む。
「グランドインパクト!」
重い1撃がキメラの胴へ叩き込まれた。
【キメラの攻撃力を下げました】
「入った!」
キメラが振り返り、前脚を振るう。
ガンッ!
サトルが盾で受け止めた。
「さっきより軽いな!」
「いい感じ」
ユースケが距離を取る。
キメラが突然サトルから離れ、後方へ駆け出した。
「こっち来た!」
サクラが距離を取る。
弓を引いた。
「ピンニングショット!」
矢がキメラの前脚へ突き刺さる。
だが、速度は変わらない。
「入ってない!」
サクラが横へ跳ぶ。
キメラの爪が直前までいた石畳を抉った。
「こっちは俺だ!」
サトルが追いつき、盾を打ち鳴らす。
キメラが再びサトルへ向き直った。
その間にユースケは炎鱗の大剣をしまい、シルバーソードへ持ち替える。
「次はこっちを試すよ」
キメラの側面へ回る。
「アーマーブレイク!」
剣が胴を斬りつけた。
【キメラの防御力を下げました】
「入った!」
ランの拳がキメラの脇腹を捉える。
先ほどより大きく巨体が揺れた。
「効いてるわ」
「撃つよ!」
サクラの矢が続く。
キメラが大きく吠えた。
獅子の口に再び赤い光が集まり始める。
「また来る!」
全員が射線から外れる。
シュンッ!
熱線が石畳を焼きながら一直線に走った。
その直後、キメラがサクラへ向かって駆け出す。
「また私!?」
サクラが弓を引く。
「ピンニングショット!」
矢が前脚へ突き刺さった。
キメラの動きが目に見えて鈍る。
「今度は入った!」
「そのまま距離を取って!」
ユースケが声を上げる。
サクラが後ろへ下がる。
動きの鈍ったキメラへサトルが追いついた。
ガンッ!
前脚を盾で受け止める。
「捕まえたぞ!」
ランも横へ回り込む。
「ラッシュコンボ!」
拳と蹴りの連撃が脇腹へ叩き込まれた。
キメラが大きくよろめく。
シオリも杖を向ける。
「ファイア!」
火球が胸へ直撃した。
キメラが激しく身体をひねる。
翼が横薙ぎに振られ、ランが後ろへ跳んだ。
蛇の頭がサトルの腕を狙う。
「また来たか!」
サトルが盾を傾けた。
ガンッ!
牙が鉄壁の盾へぶつかり、大きく弾かれる。
「今度は食らわねえぞ!」
キメラが吠え、前脚を何度も振るう。
ガンッ!
ガンッ!
サトルが盾で受け続ける。
「まだやれる!」
攻撃力低下が効いている。
それでも衝撃のたびにサトルの身体が揺れた。
「ヒール!」
ヒナの回復が飛ぶ。
ランが再び横から入る。
拳がキメラの胴へ突き刺さった。
サクラの矢も続く。
ユースケはシルバーソードを握り直した。
キメラが獅子の口を開く。
赤い光が集まり始める。
「来るよ!」
今度は全員がすぐに左右へ散った。
シュンッ!
熱線が誰もいない石畳を貫く。
「いける!」
サクラが弓を引いた。
「ダブルショット!」
2本の矢が胸へ突き刺さる。
キメラが大きくよろめいた。
「まだ!」
ランが踏み込む。
拳が脇腹を捉えた。
ユースケも横から斬りつける。
「グオオォォッ!」
獅子の頭が天を仰ぐ。
それでも蛇の頭がサトルへ飛びかかった。
「任せろ!」
サトルが盾を前へ突き出す。
ガンッ!
牙を弾き返した。
そこへサクラの矢が胸へ深く突き刺さる。
キメラの巨体がぐらりと傾いた。
そして――。
ドンッ!
石畳へ倒れ込む。
キメラの身体が光に包まれ、無数の粒となって消えていった。
しばらく誰も動かなかった。
「…勝った?」
シオリが杖を握ったまま呟く。
サトルが盾を下ろした。
「おう…勝ったぞ!」
「やったー!」
張り詰めていた空気が一気にほどける。
ヒナもほっと息を吐いた。
「ランさん、大丈夫ですか?」
「ええ。ありがとう」
「ガハハ!交代できなかったら危なかったな!」
「そうね。1人で受け続ける相手じゃなかったわ」
サトルとランが顔を見合わせる。
ユースケもシルバーソードを下ろした。
簡単な相手ではなかった。
それでも、6人で役割を入れ替えながら戦い、誰も欠けることなく勝つことができた。
その時だった。
キメラが消えた場所に、宝箱が現れる。
「あっ!」
シオリがすぐに気付いた。
「討伐報酬!」
「開けよう!」
ユースケが宝箱の蓋へ手を伸ばす。
カチッ。
次の瞬間、眩しい光が溢れ出した。
光が6人を包み、それぞれの前に通知が表示される。
【職業に応じた討伐報酬を獲得しました】
【盗賊の小手を獲得しました】
「小手か」
ユースケは詳細を確認する。
【盗賊の小手】
【腕装備】
【DEF:+8】
【効果:武器の持ち替えにかかる時間を短縮(小)】
「おっ」
「いいの出た?」
サクラがユースケを見る。
「武器の持ち替えが少し速くなるみたい」
「ユースケにピッタリじゃん!」
「そうだね。かなり使えそう」
複数の武器を使い分ける今の戦い方なら、ありがたい効果だ。
ユースケは盗賊の小手を装備した。
「私も小手!」
サクラも自分の報酬を取り出す。
「狩人の小手。弓スキルのディレイが少し短くなるって!」
「いいじゃん」
「でしょ!」
サクラは嬉しそうに小手を装備した。
「私は靴!」
シオリが新しい靴を見せる。
「魔力の靴だって。次の魔法を使えるまでの間隔が少し短くなるみたい!」
「いいね。シオリもディレイ減少か」
その隣で、ヒナも報酬を確認していた。
「私は祝福の髪飾りです」
小さな髪飾りを手に取る。
「味方にかけたバフ効果が、少し長く続くみたいです」
「ブレスとも相性良さそうだね」
「はい。使いやすくなりそうです」
サトルは新しい兜を両手で持ち上げた。
「俺は守護の兜だ!」
そのまま効果へ目を通す。
「盾スキルの消費MPが軽くなるらしいぞ!」
「それはサトルに合ってるわね」
ランが言うと、サトルが豪快に笑った。
最後にランが黒い帯を取り出した。
「私は反撃の黒帯ね」
「黒帯!」
シオリが反応する。
「ナックルスキルのディレイが少し短くなるみたい」
ランは黒帯を眺め、小さく頷いた。
「悪くないわね」
6人とも、それぞれの戦い方に合った報酬だった。
サクラが新しい小手を眺める。
「やっぱり討伐報酬って美味しいね」
「だな!」
サトルも守護の兜を軽く叩く。
「普通に狩ってるだけじゃ、こういう装備はなかなか手に入らねえだろ」
「前の報酬も良かったよね」
シオリも魔力の靴を見下ろす。
ユースケは頷いた。
ゴブリンジェネラル。
リザードタートル。
グレートサラマンダー。
そして今回のキメラ。
どれも簡単な戦いではなかった。
だが、その分だけ得られたものも大きい。
「玄武街でも、ボス討伐のクエストがあったら積極的に受けてみようか」
「賛成!」
サクラがすぐに答える。
「私も!」
シオリも手を上げた。
「おう!その時は俺たちにも声をかけてくれ!」
「サトル」
ランが横を見る。
「分かってるって。無茶はしねえよ!」
ユースケも笑った。
「相手の強さを確認して、いけそうならね」
「はい。それがいいと思います」
ヒナも頷く。
報酬は魅力的だ。
だからといって、無理をするつもりはない。
できる範囲で挑む。
それで十分だ。
「じゃあ、行こうか」
6人は玄武古道の出口へ向かう。
崩れた石門を抜ける。
その瞬間、視界が大きく開けた。
青空の下。
遠くに高い城壁が伸び、その向こうには大小さまざまな建物が並んでいる。
中央付近には、大きな塔も見えた。
「でかっ!」
サクラが声を上げる。
「玄武門より全然大きい!」
シオリも目を輝かせている。
サトルが豪快に笑った。
「ようやく着いたな!」
「ええ」
ランも街を見つめる。
ヒナが小さく息を吐いた。
「長かったですね」
ユースケは振り返った。
自分たちが歩いてきた玄武古道が、崩れた石門の向こうへ続いている。
始まりの街を出て。
旅立ちの森を越えて。
玄武門へたどり着き。
仲間と出会い、戦い、少しずつ強くなってきた。
そして今。
その先に、新しい街がある。
ユースケは再び前を向いた。
第7玄武街。
これまでより多くの渡り人が集まる場所。
タケシやマユの情報が見つかるかもしれない。
まだ知らない場所も、敵も、できることもあるはずだ。
「行こう」
ユースケが歩き出す。
「うん!」
5人も後に続いた。
6人は玄武街へ続く道を歩いていく。
新しい街へ。
そして――。
伝説へ。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
第70話をもちまして、第2章は完結となります。
第3章では、新たな舞台となる玄武街を中心に物語が進んでいきます。
少し準備期間をいただくため、ここで一度更新をお休みします。
再開時期や更新ペースについては、執筆状況を見ながら決めていく予定です。
ここまでユースケたちの旅を追っていただき、本当にありがとうございます。
「続きも読んでみたい」と思っていただけましたら、ブックマークしていただけると、第3章再開時の目印になります。
また、評価していただけると、今後の執筆の大きな励みになります。
第3章でも、ユースケたちの冒険を楽しんでいただけるよう、少しずつ書き進めていきます。
それでは、また玄武街で。




