旅立ちの草原
北門を抜けると、視界いっぱいに緑が広がった。
旅立ちの草原。
街のすぐそばとは思えないほど広く、遠くには緩やかな丘や林も見える。
草原には、すでに多くのプレイヤーが出ていた。
武器を構えたまま動けずにいる者。
数人で声を掛け合う者。
街の近くから離れず、慎重に辺りを見回す者。
誰もが手探りで、この世界での最初の戦いに挑もうとしていた。
ユースケも腰の片手剣へ手を添え、周囲を確認しながら進む。
その時、近くの草むらが揺れた。
青く半透明な魔物が、弾むように姿を現す。
膝下ほどの大きさ。
丸い身体。
見た目だけなら、いかにも初心者向けのモンスターだった。
ユースケが意識を向けると、頭上に情報が表示される。
【ブルースライム】
【レベル1】
「最初は定番のスライムか」
腰から木製の片手剣を抜き、木盾を身体の前へ構える。
剣を握って戦うのは、もちろん初めてだった。
ゲームの操作なら慣れている。
だが、今回は画面越しではない。
自分の身体を動かし、目の前の敵と戦わなければならない。
ブルースライムが身体を沈めた。
次の瞬間、勢いよく跳びかかってくる。
「速い!」
ユースケは反射的に横へ身体を動かした。
ブルースライムが足元を通り過ぎ、草の上へ着地する。
見た目から想像していたよりも、動きが速い。
「ただ待ってくれる相手じゃないみたいだね」
ブルースライムが向きを変える。
今度は、こちらから踏み込んだ。
片手剣を振り下ろす。
剣は青い身体を捉えたが、弾力のある感触に押し返された。
ブルースライムは消えない。
「1撃では倒せないか」
すぐに木盾を構える。
直後、ブルースライムが正面からぶつかってきた。
ドンッと鈍い衝撃が走り、左腕が押し込まれ
る。
強い痛みはない。
それでも、木盾を支える腕が痺れた。
頭ではレベル1の敵だと分かっている。
だが、ここで敗れれば死ぬ。
そう考えた途端、身体に余計な力が入った。
ユースケは後ろへ下がり、ブルースライムとの距離を取る。
「焦らなくていい」
自分に言い聞かせながら、相手の動きを見る。
跳びかかる前には、身体をわずかに沈める。
攻撃は直線的。
着地した直後なら、すぐには動けない。
もう1度、片手剣を構えた。
ブルースライムが身体を沈める。
ユースケは跳んでから動くのではなく、その直前に横へ踏み出した。
青い身体が目の前を通り過ぎる。
着地したところへ近付き、片手剣を振り下ろす。
手応えが返ってきた。
続けて、もう1撃。
ブルースライムが向きを変える前に、さらに剣を振るう。
やがて、その身体が光の粒となって消えた。
【ブルースライムを討伐しました】
【スライムゼリーを獲得しました】
「よし…初討伐だね」
肩に入っていた力を抜き、小さく息を吐く。
勝てた。
その事実に安心すると同時に、相手が弱いスライムであっても油断できないことが分かった。
ユースケは獲得したアイテムを確認する。
【スライムゼリー ×1】
【換金アイテム】
【冒険者ギルドで売却可能】
周囲を見回したが、地面には何も落ちていない。
「自動で取得されるのかな」
念じると、アイテムボックスが表示された。
【使用枠 1/100】
スライムゼリーは、すでに中へ収納されている。
「最大100枠か」
序盤なら十分な数に思える。
ただし、同じアイテムがどこまで重なるのかはまだ分からない。
それも、今後確認する必要がありそうだった。
続けて、武器の熟練度を開く。
【片手剣 Lv1】
【盾 Lv1】
今のところ、変化はない。
「1体使ったくらいでは上がらないみたいだね」
ユースケは表示を閉じ、次のブルースライムを探した。
◇
2体目。
3体目。
4体目。
戦闘を繰り返すたび、少しずつ身体の動かし方が分かってきた。
ブルースライムが跳ぶ前の動き。
片手剣の届く距離。
木盾へ衝撃を逃がす角度。
最初の戦闘では無意識に力んでいたが、必要以上に強く剣を握ると腕が疲れることにも気付いた。
画面の中のキャラクターを操作するのとは違う。
知識だけではなく、自分の身体で覚えなければならない戦いだった。
そして、5体目のブルースライムを倒した時。
【レベルが2に上昇しました】
「上がったね」
ユースケはすぐにステータスを開く。
【名前】ユースケ
【職業】ノービス
【レベル】2
【HP】22
【MP】11
【STR】6
【VIT】6
【AGI】6
【DEX】6
【INT】6
【LUK】6
レベル1の時と比べ、HPは2。
MPと基本ステータスは、それぞれ1ずつ増えている。
「ノービスは固定でバランス良く上がるのかな」
まだ1度しかレベルアップしていない。
今の段階では断定できなかった。
5体倒して、手に入ったスライムゼリーは2個。
毎回落とすわけではないらしい。
こちらも数を重ねなければ、ドロップ率までは判断できない。
戦闘行動によるステータスの成長も、今のところ発生していなかった。
「5体程度では足りないみたいだね」
どの行動が能力の成長につながるのか。
どれだけ繰り返せば上昇するのか。
武器熟練度には、攻撃した回数と討伐数のどちらが影響するのか。
知りたいことは多い。
「もう少し試してみよう」
ユースケが次のブルースライムを探そうとした時、少し離れた場所から悲鳴が聞こえた。
「きゃああっ!」
振り向くと、1人のプレイヤーがブルースライムから逃げ回っている。
「誰か助けて!」
ユースケは片手剣を握り直した。
だが、駆け出すより先に、近くにいた別のプレイヤーが間へ入る。
盾で突進を受け止め、追いかけられていたプレイヤーを背後へ下がらせた。
どうやら、すぐに危険な状況にはならなさそうだ。
ユースケは足を止め、周囲を見回す。
悲鳴を上げて逃げる者。
恐怖で武器を構えられない者。
黙々と魔物を倒し続ける者。
困っている誰かを助ける者。
同じ状況へ放り込まれても、取る行動はそれぞれ違う。
今後、4つの大陸がどのような形で争うのかは分からない。
その前に、この世界で生き残れなければ意味がなかった。
戦い方。
成長の仕組み。
この世界のルール。
必要なことを、1つずつ確かめていく。
まだ日は高い。
「俺たちの戦いはこれからだ」
ユースケは再び、ブルースライムへ向かって歩き出した。




