玄武門
玄武門へ続く道を歩き、ユースケたち5人は目的地へたどり着いた。
深い緑色の石で造られた巨大な城門。その中央には、亀の甲羅と蛇を組み合わせたような紋章が刻まれている。
玄武。
この大陸を象徴する守護神の名を冠した門だった。
「…大きいね」
シオリが立ち止まり、目の前に広がる街を見上げる。
ユースケも同じように街を見渡した。始まりの街とは、明らかに規模が違う。高い城壁に囲まれた街の中には、大きな建物がいくつも並んでいた。
「渡り人は、ほとんどいないな」
サトルが周囲を見渡しながら呟く。
「始まりの街が2つ合流する場所のはずなんだけどね」
ユースケは以前、ヘルパーで確認した情報を思い出す。
玄武門。
2つの始まりの街から来た渡り人が合流する街。
それなら、いずれは多くの渡り人が集まるはずだ。だが、今のところ見かける人数は少ない。
「俺たちは早い方なのかもしれないね」
「ボスも倒してきたしな!」
サトルが楽しそうに笑う。
「そうかもね」
ユースケは再び街へ目を向けた。
「とりあえず、中を見てみようか」
4人も頷き、城門をくぐった。
◇
まずは街の施設を確認する。
武器屋。
防具屋。
道具屋。
魔法屋。
宿屋。
冒険者ギルド。
玄武教会。
始まりの街で見慣れた施設が、玄武門にも揃っていた。
そして――。
「…鍛冶屋?」
ユースケの足が止まる。始まりの街にはなかった看板が目に入った。
その隣で、サトルの表情も明るくなる。
「テンションの上がる施設があるな!」
「分かる」
ユースケも思わず笑う。
「何ができるのか気になるな」
「早速行ってみようぜ!」
サトルが先頭に立って歩き出す。
「せっかちね」
ランが呆れたように笑い、ユースケたちもその後を追った。
◇
鍛冶屋の扉を開けた瞬間、熱気が押し寄せてきた。
店の奥では、鍛冶職人らしきNPCが赤く熱した金属を叩いている。
カンッ!
カンッ!
カンッ!
「いらっしゃい」
店員がユースケたちへ声をかける。
ユースケは店内を見回してから尋ねた。
「ここでは、何ができるんですか?」
「武器や防具の強化だよ」
「強化?」
その言葉に、ユースケの目が止まる。
「今持ってる装備を強くできるんですか?」
「必要な素材とお金があればね」
「なるほど」
装備を買い替えるだけではない。今使っているものを強化するという選択肢も増えたらしい。
「必要な素材は、ここで買えるんですか?」
「基本的にはモンスターから手に入れるか、鉱石を掘って集める。装備によって必要なものも違ってくるよ」
「鉱石…」
ユースケはその言葉を覚えておく。
どの装備に何が必要なのか。費用はいくらなのか。まだ分からないことは多い。
だが、装備を更新するか。それとも、今の装備を強化するか。これからは、その判断も必要になりそうだった。
「今日は情報収集だけにしておこうかな」
「それがいいと思います」
ヒナも頷く。
「必要な素材や費用を確認してからの方が良さそうですね」
「うん」
サトルは少し残念そうに店内を見る。
「強化してみたかったけどな」
「素材がないでしょ」
ランがすぐに返す。
「それもそうだな!」
サトルが豪快に笑った。
「ひとまず武器屋と防具屋も見てみようか」
「うん!」
「はい」
5人は鍛冶屋をあとにした。
◇
次に向かったのは武器屋だった。
店へ入ったユースケは、並んでいる装備を見て足を止める。
「…シルバー?」
始まりの街では見たことのない武器が並んでいる。近くには、シルバーシリーズの防具も表示されていた。
「装備が1ランク上がってるんだね」
シオリも興味深そうに杖を眺めている。5人の視線が自然と新しい装備へ向いた。
だが――。
「…高い」
ユースケが呟く。
「え?」
シオリが振り返った。
ユースケは表示された価格を見つめている。
「始まりの街とは、かなり違うね」
性能が上がった分、価格も大きく上がっていた。いくつも買い揃えるとなれば、かなりの金額が必要になる。
ユースケは自分の所持金を確認する。
「全部更新するのは厳しそうだな」
ヒナも考えるように口元へ手を当てた。
「それなら、必要なものから買い替えるのが良さそうですね」
「そうだね」
今はボスから手に入れた装備もある。急いで全部を買い替える必要はない。
「今日は無理に買わずに、何を優先するか考えておこうか」
ランが頷く。
「それが良さそうだわ」
一通り商品と価格を確認し、5人は店を出た。
◇
街の中央付近まで戻ったところで、ランが足を止めた。
「ユースケ」
「ん?」
振り返ると、ランは少し真剣な表情をしていた。
「ここで、一度別れましょう」
ユースケは一瞬だけ言葉を止める。だが、すぐに理由は分かった。
「…シン君を探すんだね」
「ええ」
ランが頷く。
小学6年生の弟、シン。この世界へ来てから、ランがずっと探し続けている家族だ。
「ここまで来れば、始まりの街より情報も集まりそうだから」
「そうだね」
その時、サトルがランの隣へ並んだ。
「俺も付き合うぞ!」
「え?」
ランが少し驚いたように見る。
「ランが弟を探してるんだ。ここまで一緒に来たんだから、俺も探す!」
迷いのない声だった。
ランはしばらくサトルを見つめる。やがて、小さく息を吐いた。
「…ありがとう」
「気にするな!」
サトルがいつものように笑う。
ユースケも2人を見ながら頷いた。
臨時で組んだパーティーだ。いつか別れることになるとは分かっていた。それでも、実際にその時が来ると少し寂しい。
「分かった」
ユースケはランを見る。
「俺たちもシン君を見つけたら、すぐ連絡するよ」
「お願いします」
ランが頭を下げる。
「俺たちも、タケシたちを見つけたら連絡するからな!」
サトルが力強く言う。
「ありがとう」
ユースケも頭を下げた。
その隣で、シオリが少し寂しそうな顔をしている。
「また一緒に戦えますよね?」
ランはシオリを見る。
「ええ。また会いましょう」
「絶対ですよ!」
「分かったわ」
ランが小さく笑う。
ヒナも2人へ微笑んだ。
「お互いに、無事でいましょう」
「そうね」
ランはそう答えると、そっとシオリの頭を撫でた。
「またね」
「はい!」
シオリが大きく頷いた。
◇
サトルとランを見送る。2人の姿が少しずつ遠ざかっていった。
「行っちゃったね…」
シオリが呟く。
「うん」
ユースケも2人の背中を見つめる。
短い間だけ組んだ臨時パーティー。それでも、一緒に洞窟を進み、ボスまで倒した仲間だ。
「シン君に会えるといいですね」
ヒナが静かに言う。
「うん。きっと会えるよ」
ユースケは答えた。
やがて、2人の姿が人混みの向こうへ消える。
ユースケはしばらくその方向を見てから、ゆっくりと視線を戻した。
隣にはシオリとヒナがいる。
また3人だ。
「さて」
ユースケが2人を見る。
「俺たちも行こうか」
「うん!」
「はい!」
2人が頷く。
玄武門へ到着し、新しい装備や鍛冶屋も見つけた。まだ調べていないことはいくらでもある。
「まずは、次の狩場を探そうか」
「どんなモンスターがいるのかな?」
シオリがすぐに目を輝かせる。
「それも含めて、調べてみよう」
ユースケは笑った。
始まりの街を抜け、玄武門へ。ここから先には、また知らない場所が待っている。
ユースケ、シオリ、ヒナ。
3人は並んで、新しい街を歩き始めた。




