新しい縁
最初の戦闘を終えてから少し進んだところで、シオリが嬉しそうに杖を見つめた。
「ねぇ!アイスバレット強くない?」
「うん」
ユースケも頷く。
「ランさんと俺でかなり削ってたけど、最後の2発は効いてるように見えたね」
ヒナも思い返すように頷いた。
「昨日使ったファイアより、反応が大きかった気がします」
「ねっ!やっぱりゴブリン系は氷が弱点なんだよ!」
シオリが得意げに笑う。
サトルも腕を組んだ。
「確かに手応えは違ったな」
「可能性はありそうだね」
ユースケは少し考える。
アーマーブレイクも入っていた。
それまでにランの攻撃も受けている。
これだけで氷属性が弱点だと決めるのは早い。
「しばらくホブゴブリンにはアイスバレットを使ってみようか」
「何回か試せば、もう少し分かると思う」
「了解!」
シオリが元気よく杖を掲げた。
◇
その後も5人は洞窟の奥へ進んだ。
何度か同じような集団と遭遇する。
最初の戦闘では、それぞれが多くのスキルを使っていた。
だが、戦い方が分かってくると必要以上に使うことはなくなった。
サトルが正面でゴブリンを受け止める。
ランは攻撃をかわしながらホブゴブリンを引き付ける。
ユースケは2人の間を見ながら、必要な方へ援護に入る。
シオリも魔法を連発せず、狙う相手を選んで杖を構えた。
ヒナは前衛の状態を見ながら、HPが減った時だけヒールを使う。
「さっきみたいにスキルを使い続けたら、奥に着く前にMPなくなるからね」
「確かに…」
シオリが自分のMPを確認する。
「撃てると撃ちたくなるんだけどなぁ」
「気持ちは分かるよ」
ユースケも苦笑した。
「でも、奥に何がいるか分からないからね」
「危ない時に使える分は残しておこう」
「はーい」
少し残念そうに答えながらも、シオリは素直に杖を下ろした。
戦闘を重ねるにつれて、5人の動きも少しずつ噛み合っていく。
「右!」
「任せて!」
それだけでランが動く。
後ろへ抜けようとしたゴブリンには、ユースケが回り込む。
サトルが敵を受け止めている間に、シオリが狙いを定める。
ヒナも全員の様子を見ながら、必要な時だけ回復する。
長い指示を出さなくても、それぞれが自分で判断して動けるようになってきた。
「いいな!」
サトルが豪快に笑う。
「かなり動きやすくなってきた!」
「うん」
「この感じなら進めそうだね」
さらに数戦を終えたところで、ユースケは足を止めた。
「一度休もうか」
「まだいけるぞ?」
サトルが振り返る。
「俺もまだ大丈夫です」
「でも、今のうちにMPを戻しておいた方がいいかなって」
ユースケは全員を見る。
前衛もスキルを使っている。
シオリとヒナだけの問題ではない。
「余裕がある時に休んでおけば、何かあった時に動けるからね」
ランが頷く。
「賛成よ」
「疲れてから休むより、その方がいいわ」
ヒナも自分のMPを確認した。
「私も少し減っています」
「今のうちに回復しておきたいです」
「じゃあ休憩!」
シオリが壁際へ腰を下ろす。
5人は周囲を警戒できる場所を選び、しばらく身体を休めた。
ユースケも壁へ背を預ける。
戦闘そのものには余裕が出てきた。
だが、洞窟の奥がどこまで続いているのかは分からない。
急ぐ必要はない。
休憩を終えると、5人は再び奥へ進み始めた。
◇
その後も休憩を挟みながら、少しずつ洞窟を進んでいく。
ホブゴブリンには何度もアイスバレットを試した。
「やっぱり効いてる気がする!」
戦闘を終えたシオリが嬉しそうに言う。
「そうだね」
ユースケも頷いた。
何度か試した限りでは、ファイアよりアイスバレットを使った時の方が反応が大きい。
「少なくとも、ホブゴブリンには氷が有効な可能性が高そうだね」
「よっしゃ!」
シオリが小さく拳を握った。
「私の勘が当たった!」
「まだ可能性だけどね」
「そこは素直に褒めてよ!」
「良い予想だったと思うよ」
「最初からそう言って!」
そんなやり取りをしながら、さらに奥へ進む。
やがてユースケはヘルパーを開いた。
時刻は17時を回っている。
「そろそろ今日はここまでかな」
「もうそんな時間?」
シオリが驚いたように時刻を確認する。
その時だった。
「…あれ」
ランが通路の先を見つめる。
全員が自然と足を止めた。
薄暗い通路の先。
そこに巨大な石造りの扉が立っていた。
重厚な扉の中央には、蛇が絡みつく亀の古びた紋章が刻まれている。
サトルが低く呟いた。
「いかにも何かありそうだな」
「うん」
ユースケも扉を見上げる。
「ボス部屋っぽいね」
「どうする?」
ランが尋ねる。
ユースケは時刻をもう1度確認した。
17時を過ぎている。
今日だけで何度も戦闘を繰り返した。
途中で休憩したとはいえ、この先に何がいるのか分からない。
「今日はやめておこうか」
サトルが扉とユースケを見比べる。
「挑まないのか?」
「うん」
「ボスだとしたら、何が出るか分からないからね」
「装備を更新して、万全の状態で来た方がいいと思う」
ランもすぐに頷いた。
「その方がいいわね」
「私も賛成です」
ヒナも扉を見つめる。
シオリは少し名残惜しそうだったが、やがて頷いた。
「分かった!」
「明日のお楽しみだね!」
「そういうこと」
ユースケは扉に刻まれた紋章をもう1度見る。
「この先は明日にしよう」
5人は来た道を戻り、旅立ちの洞窟をあとにした。
◇
始まりの街へ戻った5人は、そのまま食堂で夕食を囲んだ。
1日一緒に戦ったこともあり、朝よりも会話は自然に弾んでいる。
「ランさん、本当にすごかったです!」
シオリが目を輝かせる。
「え?」
「ホブゴブリンの攻撃をギリギリで避けるところとか、スピニングキックとか!」
「すっごく格好良かった!」
「ありがとう」
ランが少し照れたように微笑む。
「空手をやってたから、格闘家に転職したの」
「やっぱり!」
「動きがめちゃくちゃ綺麗だったもん!」
「そこまで言われると恥ずかしいわね…」
普段は落ち着いているランが少し困った顔をする。
その様子を見て、ユースケも小さく笑った。
「そういえば」
ユースケはサトルとランを見る。
「2人は誰か探してたりするんですか?」
サトルの笑みが少しだけ薄くなった。
「俺は、この世界に来てから知り合ったのがナオヤとランくらいだからな」
少しだけ間を置く。
「…ナオヤのことは、本当に残念だった」
「そうですね…」
ユースケも静かに頷いた。
しばらくして、ランが口を開く。
「私は弟を探しているの」
「弟?」
「シンっていう小学6年生の男の子」
ランはテーブルへ視線を落とす。
「サッカーとゲームが好きで、年齢の割には落ち着いてる子なの」
「何かあっても、自分で考えて行動できると思う」
普段より少しだけ言葉が多い。
それだけ弟のことが心配なのだろう。
「小学6年生か…」
ユースケは少し考える。
「この世界だと、逆に目立つかもしれないですね」
「私もそう思ってる」
ランが頷いた。
「サービス開始が深夜0時だったし、このゲームに参加してる小学生はかなり少ないはずだから」
「確かに、俺も今のところ見かけてないですね」
「どこかで目立ってればいいんだけどね」
サトルが腕を組む。
「見つけたらすぐ分かりそうだな!」
「そうだといいわ」
ユースケも少し迷ってから口を開いた。
「俺も3人探してるんです」
「そうなのか?」
「幼馴染のタケシと、高校からの友達のサクラとマユ」
「3人とも玄武大陸にいるはずなんですけど、まだ会えてなくて」
「そうだったのね」
ランが静かに頷く。
サトルも真剣な表情になった。
「分かった!」
「見かけたらすぐ連絡する!」
「ありがとうございます」
「俺もシン君を見かけたら連絡します」
「お願い」
ランが小さく頭を下げた。
ヒナが穏やかに微笑む。
「探す人が増えれば、それだけ情報も集まりやすくなりますね」
「うん!」
シオリも笑顔になる。
「みんなで探しましょう!」
その言葉に、全員の表情が少しだけ明るくなった。
ユースケはヘルパーを開く。
「せっかくだし、フレンド登録しておこうか」
「誰かを見つけた時も、すぐ連絡できるしね」
「賛成!」
「いいぞ!」
「問題ないわ」
「はい」
5人は互いにフレンド登録を済ませた。
仲間の欄に、新しい名前が並ぶ。
サトル。
ラン。
この世界で生まれた、新しい縁だった。
食事を終えると、明日は9時に待ち合わせることを決め、それぞれ宿へ戻った。
◇
部屋へ戻ったユースケは、今日の成長を確認する。
レベルは2上がり、Lv19。
さらに戦闘を重ねたことで、STR、AGI、DEXもそれぞれ1ずつ上昇していた。
「今日も結構伸びたね」
現在のステータスを開く。
【名前】ユースケ
【職業】盗賊
【レベル】19
【HP】56+3
【MP】46+5
【STR】19+6
【VIT】18+4
【AGI】23+5
【DEX】23+6
【INT】18+3
【LUK】19+1
数字を確認してから、ユースケはヘルパーを閉じた。
明日は、あの扉の先へ挑む。
何が待っているのかは分からない。
「今日はちゃんと寝ようかな」
昨日のことを思い出し、ユースケは苦笑した。




