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玄武の渡り人 ~帰還できるのは、ただ1つの大陸だけ~  作者: かにかま
第1章 始まりの街

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新しい縁

最初の戦闘を終えてから少し進んだところで、シオリが嬉しそうに杖を見つめた。


「ねぇ!アイスバレット強くない?」


「うん」


ユースケも頷く。


「ランさんと俺でかなり削ってたけど、最後の2発は効いてるように見えたね」


ヒナも思い返すように頷いた。


「昨日使ったファイアより、反応が大きかった気がします」


「ねっ!やっぱりゴブリン系は氷が弱点なんだよ!」


シオリが得意げに笑う。


サトルも腕を組んだ。


「確かに手応えは違ったな」


「可能性はありそうだね」


ユースケは少し考える。


アーマーブレイクも入っていた。


それまでにランの攻撃も受けている。


これだけで氷属性が弱点だと決めるのは早い。


「しばらくホブゴブリンにはアイスバレットを使ってみようか」

「何回か試せば、もう少し分かると思う」


「了解!」


シオリが元気よく杖を掲げた。



その後も5人は洞窟の奥へ進んだ。


何度か同じような集団と遭遇する。


最初の戦闘では、それぞれが多くのスキルを使っていた。


だが、戦い方が分かってくると必要以上に使うことはなくなった。


サトルが正面でゴブリンを受け止める。


ランは攻撃をかわしながらホブゴブリンを引き付ける。


ユースケは2人の間を見ながら、必要な方へ援護に入る。


シオリも魔法を連発せず、狙う相手を選んで杖を構えた。


ヒナは前衛の状態を見ながら、HPが減った時だけヒールを使う。


「さっきみたいにスキルを使い続けたら、奥に着く前にMPなくなるからね」


「確かに…」


シオリが自分のMPを確認する。


「撃てると撃ちたくなるんだけどなぁ」


「気持ちは分かるよ」


ユースケも苦笑した。


「でも、奥に何がいるか分からないからね」

「危ない時に使える分は残しておこう」


「はーい」


少し残念そうに答えながらも、シオリは素直に杖を下ろした。


戦闘を重ねるにつれて、5人の動きも少しずつ噛み合っていく。


「右!」


「任せて!」


それだけでランが動く。


後ろへ抜けようとしたゴブリンには、ユースケが回り込む。


サトルが敵を受け止めている間に、シオリが狙いを定める。


ヒナも全員の様子を見ながら、必要な時だけ回復する。


長い指示を出さなくても、それぞれが自分で判断して動けるようになってきた。


「いいな!」


サトルが豪快に笑う。


「かなり動きやすくなってきた!」


「うん」

「この感じなら進めそうだね」


さらに数戦を終えたところで、ユースケは足を止めた。


「一度休もうか」


「まだいけるぞ?」


サトルが振り返る。


「俺もまだ大丈夫です」

「でも、今のうちにMPを戻しておいた方がいいかなって」


ユースケは全員を見る。


前衛もスキルを使っている。


シオリとヒナだけの問題ではない。


「余裕がある時に休んでおけば、何かあった時に動けるからね」


ランが頷く。


「賛成よ」

「疲れてから休むより、その方がいいわ」


ヒナも自分のMPを確認した。


「私も少し減っています」

「今のうちに回復しておきたいです」


「じゃあ休憩!」


シオリが壁際へ腰を下ろす。


5人は周囲を警戒できる場所を選び、しばらく身体を休めた。


ユースケも壁へ背を預ける。


戦闘そのものには余裕が出てきた。


だが、洞窟の奥がどこまで続いているのかは分からない。


急ぐ必要はない。


休憩を終えると、5人は再び奥へ進み始めた。



その後も休憩を挟みながら、少しずつ洞窟を進んでいく。


ホブゴブリンには何度もアイスバレットを試した。


「やっぱり効いてる気がする!」


戦闘を終えたシオリが嬉しそうに言う。


「そうだね」


ユースケも頷いた。


何度か試した限りでは、ファイアよりアイスバレットを使った時の方が反応が大きい。


「少なくとも、ホブゴブリンには氷が有効な可能性が高そうだね」


「よっしゃ!」


シオリが小さく拳を握った。


「私の勘が当たった!」


「まだ可能性だけどね」


「そこは素直に褒めてよ!」


「良い予想だったと思うよ」


「最初からそう言って!」


そんなやり取りをしながら、さらに奥へ進む。


やがてユースケはヘルパーを開いた。


時刻は17時を回っている。


「そろそろ今日はここまでかな」


「もうそんな時間?」


シオリが驚いたように時刻を確認する。


その時だった。


「…あれ」


ランが通路の先を見つめる。


全員が自然と足を止めた。


薄暗い通路の先。


そこに巨大な石造りの扉が立っていた。


重厚な扉の中央には、蛇が絡みつく亀の古びた紋章が刻まれている。


サトルが低く呟いた。


「いかにも何かありそうだな」


「うん」


ユースケも扉を見上げる。


「ボス部屋っぽいね」


「どうする?」


ランが尋ねる。


ユースケは時刻をもう1度確認した。


17時を過ぎている。


今日だけで何度も戦闘を繰り返した。


途中で休憩したとはいえ、この先に何がいるのか分からない。


「今日はやめておこうか」


サトルが扉とユースケを見比べる。


「挑まないのか?」


「うん」

「ボスだとしたら、何が出るか分からないからね」

「装備を更新して、万全の状態で来た方がいいと思う」


ランもすぐに頷いた。


「その方がいいわね」


「私も賛成です」


ヒナも扉を見つめる。


シオリは少し名残惜しそうだったが、やがて頷いた。


「分かった!」

「明日のお楽しみだね!」


「そういうこと」


ユースケは扉に刻まれた紋章をもう1度見る。


「この先は明日にしよう」


5人は来た道を戻り、旅立ちの洞窟をあとにした。



始まりの街へ戻った5人は、そのまま食堂で夕食を囲んだ。


1日一緒に戦ったこともあり、朝よりも会話は自然に弾んでいる。


「ランさん、本当にすごかったです!」


シオリが目を輝かせる。


「え?」


「ホブゴブリンの攻撃をギリギリで避けるところとか、スピニングキックとか!」

「すっごく格好良かった!」


「ありがとう」


ランが少し照れたように微笑む。


「空手をやってたから、格闘家に転職したの」


「やっぱり!」

「動きがめちゃくちゃ綺麗だったもん!」


「そこまで言われると恥ずかしいわね…」


普段は落ち着いているランが少し困った顔をする。


その様子を見て、ユースケも小さく笑った。


「そういえば」


ユースケはサトルとランを見る。


「2人は誰か探してたりするんですか?」


サトルの笑みが少しだけ薄くなった。


「俺は、この世界に来てから知り合ったのがナオヤとランくらいだからな」


少しだけ間を置く。


「…ナオヤのことは、本当に残念だった」


「そうですね…」


ユースケも静かに頷いた。


しばらくして、ランが口を開く。


「私は弟を探しているの」


「弟?」


「シンっていう小学6年生の男の子」


ランはテーブルへ視線を落とす。


「サッカーとゲームが好きで、年齢の割には落ち着いてる子なの」

「何かあっても、自分で考えて行動できると思う」


普段より少しだけ言葉が多い。


それだけ弟のことが心配なのだろう。


「小学6年生か…」


ユースケは少し考える。


「この世界だと、逆に目立つかもしれないですね」


「私もそう思ってる」


ランが頷いた。


「サービス開始が深夜0時だったし、このゲームに参加してる小学生はかなり少ないはずだから」


「確かに、俺も今のところ見かけてないですね」


「どこかで目立ってればいいんだけどね」


サトルが腕を組む。


「見つけたらすぐ分かりそうだな!」


「そうだといいわ」


ユースケも少し迷ってから口を開いた。


「俺も3人探してるんです」


「そうなのか?」


「幼馴染のタケシと、高校からの友達のサクラとマユ」

「3人とも玄武大陸にいるはずなんですけど、まだ会えてなくて」


「そうだったのね」


ランが静かに頷く。


サトルも真剣な表情になった。


「分かった!」

「見かけたらすぐ連絡する!」


「ありがとうございます」


「俺もシン君を見かけたら連絡します」


「お願い」


ランが小さく頭を下げた。


ヒナが穏やかに微笑む。


「探す人が増えれば、それだけ情報も集まりやすくなりますね」


「うん!」


シオリも笑顔になる。


「みんなで探しましょう!」


その言葉に、全員の表情が少しだけ明るくなった。


ユースケはヘルパーを開く。


「せっかくだし、フレンド登録しておこうか」

「誰かを見つけた時も、すぐ連絡できるしね」


「賛成!」


「いいぞ!」


「問題ないわ」


「はい」


5人は互いにフレンド登録を済ませた。


仲間の欄に、新しい名前が並ぶ。


サトル。


ラン。


この世界で生まれた、新しい縁だった。


食事を終えると、明日は9時に待ち合わせることを決め、それぞれ宿へ戻った。



部屋へ戻ったユースケは、今日の成長を確認する。


レベルは2上がり、Lv19。


さらに戦闘を重ねたことで、STR、AGI、DEXもそれぞれ1ずつ上昇していた。


「今日も結構伸びたね」


現在のステータスを開く。


【名前】ユースケ

【職業】盗賊

【レベル】19

【HP】56+3

【MP】46+5

【STR】19+6

【VIT】18+4

【AGI】23+5

【DEX】23+6

【INT】18+3

【LUK】19+1


数字を確認してから、ユースケはヘルパーを閉じた。


明日は、あの扉の先へ挑む。


何が待っているのかは分からない。


「今日はちゃんと寝ようかな」


昨日のことを思い出し、ユースケは苦笑した。

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