新たな法則
旅立ちの洞窟へ向かう道中。
ユースケは4人を見渡した。
「戦う前に、役割だけ確認しておこうか」
「俺は前で受ける!」
サトルが迷いなく答える。
「私は回避しながら前で戦うわ」
ランも続けた。
「じゃあ、サトルさんがタンクで、ランさんは避けタンクかな」
ユースケは頷く。
「俺は状況を見ながら動くよ。2人を援護しつつ、シオリとヒナに敵が流れたら止める」
「うん!」
「攻撃は任せて!」
シオリが元気よく杖を掲げる。
「私は回復を優先します」
「余裕があれば攻撃にも参加しますね」
ヒナも穏やかに続けた。
「いいな!」
サトルが笑う。
「役割が分かってると動きやすい」
「まずはこれで試してみよう」
ユースケの言葉に、4人が頷いた。
◇
旅立ちの森へ足を踏み入れて間もなく。
茂みの奥に3匹のウルフが見えた。
「3匹か」
ユースケはアイアンボウを構える。
「パワーショット!」
放たれた矢が先頭のウルフを貫いた。
ウルフはそのまま光の粒となって消える。
「ワンキルか!」
「やるな!」
サトルが感心した、その時だった。
ガサガサッ!
周囲の茂みが一斉に揺れる。
「えっ?」
シオリが振り向く。
新たに3匹のウルフが飛び出してきた。
最初に残っていた2匹と合わせて5匹。
一斉にこちらへ駆け出してくる。
「いきなり増えたな!」
サトルがすぐに前へ出る。
「任せろ!」
「シールドノック!」
盾を打ち鳴らす音が森へ響いた。
ウルフたちの視線がサトルへ集まる。
「来い!」
先頭のウルフが飛びかかる。
サトルは盾で受け止めたが、その横から別の1匹が回り込む。
鋭い牙が腕をかすめた。
「ヒール!」
ヒナがすぐに反応する。
柔らかな光がサトルを包んだ。
「助かる!」
さらに横から1匹が回り込もうとした。
「そっちは私がやるわ」
ランが進路へ入り込む。
ウルフが飛びかかる。
ランは身体を横へ滑らせるようにかわした。
「ダブルストライク!」
すれ違いざまに鋭い二連撃を叩き込む。
「ファイア!」
シオリの炎弾が、サトルへ向かっていた別のウルフを包み込んだ。
ユースケもアイアンソードへ持ち替える。
「スラッシュ!」
片手剣がウルフを切り裂く。
最初に見えていた3匹に加え、さらに3匹が反応した。
合計6匹。
「多いな…」
だが、こちらも5人いる。
サトルが正面で受け止め、ランが動き回る。
ヒナが2人の状態を見ながら回復し、シオリが後方から魔法を撃ち込む。
ユースケは手薄になった場所を埋めるように動いた。
やがて、最後のウルフへサトルの片手斧が振り下ろされる。
「ヘビィスイング!」
重い一撃を受け、ウルフが光の粒となって消えた。
「よし!」
サトルが片手斧を担ぐ。
シオリは周囲を見回した。
「最初は3匹だったのに、結局6匹いたね…」
「うん」
ユースケも茂みへ視線を向ける。
「前は、ここまで一気に反応しなかった気がする」
偶然かもしれない。
まだ判断するには早い。
「もう少し見てみようか」
そのまま森を進む。
次に見つけたのは、単独で歩いているウルフだった。
ユースケが弓で釣る。
すると――。
周囲から3匹が反応した。
「また増えた!」
シオリが杖を構える。
4匹を倒し、さらに先へ進む。
次の戦闘でも、複数のウルフが一度に反応した。
「やっぱり多いですね」
ヒナが周囲を警戒しながら呟く。
「人数が増えたことで、リンクする数も増えてるのかもしれない」
ユースケはそう答える。
まだ確定ではない。
だが、昨日までとの違いは明らかだった。
「洞窟でも同じなら、もう少し分かるかもね」
警戒を強めながら進んでいくと、やがて木々が途切れた。
◇
旅立ちの洞窟を前に、ユースケは足を止める。
「洞窟でも基本は同じでいこう」
「危ないと思ったら無理はしない」
「おう!」
「分かったわ」
「うん!」
「はい」
5人は武器を構え、洞窟へ足を踏み入れた。
ひんやりとした空気が肌を撫でる。
岩壁から滴る水音が響く中、慎重に奥へ進んでいく。
しばらくすると、ユースケが足を止めた。
「いた」
岩陰から前方を覗く。
そこには、棍棒を持ったゴブリンたちがいた。
ユースケは数を確認する。
「…6匹」
さらに、その中央には一回り大きな魔物が立っている。
【ゴブリン】
【レベル14】
【ホブゴブリン】
【レベル16】
「前に3人で来た時は、ゴブリン4匹とホブゴブリン1匹だった」
シオリも数え直す。
「今日はゴブリンが6匹…」
ヒナが森の方角を振り返った。
「森でも、一度に相手をする数が増えていましたね」
「うん」
ユースケは敵の群れを見つめる。
3人の時は、ゴブリン4匹。
5人になった今回は、ゴブリン6匹。
「今のところ、パーティー人数が増えると敵の数も増えるみたいだね」
「人数が多ければ楽勝ってわけじゃないのか」
サトルが楽しそうに笑う。
「そう簡単にはさせてくれないみたいですね」
ヒナも苦笑した。
ランがゴブリンたちを見据える。
「でも、増えたのはゴブリンだけね」
「うん」
「ホブゴブリンは1匹のまま」
ユースケは頷く。
「人数に合わせて、敵の構成まで調整されてるのかもしれない」
「まだ2回だけだから断定はできないけどね」
「とりあえず、目の前のやつらを倒せばいいんだろ?」
サトルが盾を構える。
「そういうこと」
ユースケもアイアンソードへ持ち替えた。
「落ち着いていこう」
その瞬間。
ホブゴブリンがゆっくりと顔を上げた。
赤い瞳が、真っ直ぐこちらを捉える。
「…見つかった」
「グオオォォッ!」
咆哮が洞窟内へ響き渡った。
それを合図に、6匹のゴブリンが一斉に棍棒を構える。
「ホブゴブリンは私が引き受ける!」
ランが真っ先に飛び出した。
「グオッ!」
巨大な棍棒が振り下ろされる。
ランは踏み込む方向を変え、紙一重でかわした。
そのまま懐へ潜り込む。
「ダブルストライク!」
拳が立て続けにホブゴブリンの胴へ叩き込まれた。
「じゃあ、雑魚は俺だ!」
サトルが前へ出る。
「シールドノック!」
盾を打ち鳴らす。
甲高い音が洞窟に響き、6匹のゴブリンの視線が一斉にサトルへ向いた。
「来い!」
棍棒が次々と振り下ろされる。
ガンッ!
ガンッ!
数匹の攻撃を盾で受け止める。
だが、6匹すべてを防ぎ切ることはできない。
横から振るわれた棍棒がサトルの肩を捉えた。
「ぐっ!」
「ヒール!」
ヒナがすぐに反応する。
柔らかな光がサトルを包む。
「助かる!」
ユースケはランの方を見る。
ホブゴブリンの攻撃をかわしながら戦っているが、決定打には欠けている。
「ランさん、合わせます!」
「お願い!」
ユースケが横から踏み込む。
「アーマーブレイク!」
淡く光ったアイアンソードが、ホブゴブリンの胴を深く切り裂いた。
「グアッ!」
ホブゴブリンがよろめく。
ランはその隙を逃さない。
「ダブルストライク!」
鋭い二連撃が胸元へ叩き込まれた。
シオリもすでに杖を向けている。
「アイスバレット!」
杖の先から氷弾が放たれる。
ホブゴブリンの胸へ直撃した。
「グオオォッ!」
巨体が大きく揺れる。
だが、まだ倒れない。
「しぶとい!」
シオリが声を上げる。
その間にもサトルは6匹のゴブリンを相手にしている。
1匹の棍棒を盾で受け、別の1匹を片手斧で牽制する。
「サトルさん、まだいけますか!」
ユースケが声を飛ばす。
「任せろ!」
サトルの返事を聞き、ヒナも状態を確認する。
まだ急いで回復するほどではない。
ユースケはホブゴブリンへ向き直った。
「先にこっちを落とそう!」
「分かったわ!」
ランがホブゴブリンの攻撃をかわす。
空いた脇腹へ拳を叩き込んだ。
「シオリ!」
「いくよ!」
「アイスバレット!」
再び氷弾がホブゴブリンを捉える。
「グオッ…!」
巨体が光の粒へ変わった。
「よし!」
ユースケたちはすぐにサトルの援護へ回る。
「まとめて削るよ!」
ゴブリンたちの側面へ踏み込む。
「ワイドスラッシュ!」
青白い斬撃が数匹のゴブリンをまとめて切り裂いた。
反対側からランも飛び込む。
「スピニングキック!」
大きく身体を回転させ、周囲のゴブリンを蹴り飛ばす。
「ギャッ!」
「ギギィッ!」
ゴブリンたちの陣形が一気に崩れた。
「今なら私も!」
ヒナが杖を向ける。
「ウィンド!」
風の刃が傷付いたゴブリンを切り裂く。
ゴブリンが光の粒となって消えた。
「ナイス!」
シオリも別の1匹へ杖を向ける。
「アイスバレット!」
氷弾がゴブリンを貫く。
ユースケが片手剣を振るい、サトルが片手斧を叩き込む。
ランも動きの止まったゴブリンへ拳を打ち込んだ。
5人で押し切り、残ったゴブリンも次々と光へ変えていく。
最後の1匹へ、サトルの片手斧が振り下ろされた。
「ヘビィスイング!」
「ギャッ!」
ゴブリンが光の粒となって消える。
洞窟に静寂が戻った。
「ふぅ!」
サトルが大きく息を吐く。
「6匹相手はさすがに忙しいな!」
「でも、昨日より全然余裕があった!」
シオリが笑う。
ヒナも頷いた。
「人数が増えた分だけ敵も増えましたが、役割を分担できるのは大きいですね」
「そうだね」
ユースケは奥へ続く洞窟へ視線を向ける。
人数を増やせば、その分だけ敵も増える。
単純に仲間を増やせば簡単になるわけではない。
それでも、できることは確実に増えていた。
「このまま奥へ進んでみようか」
「おう!」
「行きましょう」
5人は武器を構え直し、旅立ちの洞窟の奥へ進んでいった。




