ep36.エピローグ:星たちの旅路、また会う日まで
数日後。激戦の爪痕が嘘のように、拠点の村にあるいつもの酒場『流星の止まり木』には、賑やかな笑い声が戻っていた。
「……で、全て終わったのに、帰らないのかベガ? お前、ブラック達との戦いでお前の世界救ったよな」
カウンターでジョッキを傾けながら、シリウスが呆れたように言った。その視線の先では、ベガが山盛りの肉料理を頬張り、スピカが穏やかに微笑んでいる。
「帰ってどうすんだよ。あんな退屈な場所に今さら戻っても、俺様の力が鈍るだけだ。第一、この村の飯は結構気に入ってるんだぜ」
ベガは口の周りを汚したまま、尊大に笑い飛ばした。
「私も……もう少しここに残らせてください。あなた達に誘われなければ今も人形のようにあの場所で静かに暮らしていたことでしょう。このメンバーで星々を回っている方が、ずっと有意義な気がするのです」
スピカも静かに頷く。故郷を救った彼女だったが、その心はすでに、新しい冒険の予感に躍っていた。
「ま、そう言うと思ったわよ」
ミラは不敵に笑い、横で静かに座っていたシリウスの背中をバシッと叩いた。
「シリウス、しばらく俺とスピカが付きまとうけどよろしくな!」
意味深なセリフをベガが言った。
「ああ、よろしく頼むよ。……みんな」
シリウスは少し照れくさそうに笑い、仲間たちの顔を見つめた。あの過酷な戦いを超え、彼らはただの戦友以上の、家族のような絆で結ばれていた。
◇
翌朝、シリウスは一人、あの山の丘を訪れていた。
カイトのお墓の前には、新しい花が手向けられ、ミラが修理した二刀が朝日に輝いている。
「……師匠。俺たち、やり遂げたよ。ブラックも、あの後は少しずつ正気を取り戻して、自分の足で歩き始めた。あんたの言った通り、あいつは根は優しい奴だった」
カサリ、と風が草を揺らす。まるで師匠が背中を叩いてくれたような気がして、シリウスは小さく微笑んだ。
「報告が終わったら、おじいちゃんとおばあちゃんのところにも行ってくるよ。……これまでのこと、全部話して、安心させてやりたいんだ。まあ、俺が行けるのは若いころの俺に会う前のおじいちゃんとおばあちゃんなんだけど……」
後ろを振り返ると誘っていないはずの3人が待ち構えていた。
「おいシリウス、一人でどこに行くつもりだ?」
「また置いていくのですか?」
決戦前、師匠の場所へミラといった時のことを指しているのか、ベガとスピカがシリウスを責める。
「育ての親と両親のところに行くのよね?」
「ああ。皆で行くか」
シリウス達は師匠の墓を後にし、自分が生まれ育った村の跡地へと向かった。
かつて愛した家も、村の面影も、今はただの瓦礫とお墓があるだけの静かな場所。
その中心、以前はおじいちゃんたちの住む世界へと繋がっていた『ゲート』があった場所へ足を運ぶ。
「————」
しかし、そこには何もなかった。
かつて空間を歪ませていた青い光の渦は消え、ただの乾いた空気が流れているだけだった。
「……閉じているのか」
シリウスはそっと地面に手を触れた。星を壊す者が消滅し、次元の歪みが正されたことで、本来あるべきではない『過去への扉』もまた、その役目を終えたのだ。
もう、あの温かな家で笑う二人に会うことはできない。
おじいちゃんの厳しい指導も、おばあちゃんの優しい料理も、今はもう、手の届かない思い出の向こう側。
シリウスは立ち上がり、澄み渡る青空を見上げた。寂しさはあったが、不思議と心は穏やかだった。
「全部終わったんだ。……ありがとう。俺、もう一人じゃないから」
シリウスの肩を後ろにいた三人が叩いた。そして、次に、シリウスの生みの親がいるゲートへ向かい。事の結末を報告した。
星の守護者シリウスの冒険は、新しい風と共に、ここからまた始まっていく。




