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祈りの果てに ― 無限の箱庭で笑う者 ―  作者: 酒の飲めない飲んだくれ
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第154話:白空の相克


 ――白い。


 突っ込んだ瞬間、世界が裏返ったみたいだった。

 風の流れが全部“横”へ逃げていく。

 落ちてるのに、落ちている気がしない。


 背中の羽がひとりでに震えた。


「ヒィ……ハハハ……たまんねぇな……!」


 喉の奥で笑いが勝手にこぼれる。

 影の連中が体に張りつき、血みたいに脈打っている。

 二つ分の空白がひりつくように疼く。


 だが……足りない。いつもより基礎がスカスカだ。


(……あぁ、そうだ。二人は…もういねぇんだったな)


 ただ、その穴から漏れてくる“力の逃げ方”が、

 妙に心地よかった。


 クランダを媒介にした羽を開き、風を我が物にする。


「へへ……借りもんのくせに、よく走るじゃねぇか……!」


 クランダ特有の“空と同調する引き”が体を前に押す。

 飛びやすい。

 いつもより、ずっと。


 空気が俺を避けるように裂けていく。


(飛べる……いや、これは飛ぶんじゃねぇ……

 滑ってるのに近いな……)


 白い霧の中を猫みたいに踏み、

 空間そのものを蹴って進む感覚。


「ヒャッハー!……いいじゃねぇか!!

 前より扱いやすいぜぇ、“空”ちゃんよ!!」


 白い霧が裂ける。

 風の音が逆再生みたいに巻き戻る。


 ――黄金の眼光。


(いたな……グラナシル……)


 巨大な龍の“雲の輪郭”が蠢いていた。

 羽はない。

 だが、質量も重力も無視した“雲の塊”が形を保っている。


 風の流れが、グラナシルの呼吸に合わせて脈打つ。


 破壊衝動が背骨を駆け上がる。


(壊したい……いや違ぇ……話に来たんだろ俺は。

 ……でも、一発くらいは殴ってもバレねぇよな?)


 笑いが喉を震わせる。


「イヒヒヒッ……さぁ、やろうぜ……風のバケモン……!」


 魔導銃を抜いた。


「まずは挨拶だ! ッおるぁあああああ!」


 右手の魔導銃から、黒い閃光が白空を裂き、乱射される。


 だが――


「……っちぇ、俺とおそろいだなぁ〜?」


 弾は全部、

 “雲の身体”をすり抜けた。


 ただし奥では確かに光る。

 内部では爆ぜている証だ。


(やっぱ表面は意味ねぇか……ならよぅ)


 口角が吊り上がる。


「これなら……どうだァ?」


 剣を握る。

 黒い靄が、柄から指先へ染み出した。


 身体ごとひっくり返り、

 竜巻の芯みたいに高速回転しながら突っ込む。


「イヒャッヒャッヒャッヒャ!!」


 渦を巻いた黒靄が、白霧の龍をえぐる。


 ――ザリッ。


 音にならない音が走った。

 “実体のない雲”に、傷が刻まれた。


「ほぉ……効くじゃねぇか……!」


 白霧が裂け、

 雲龍の巨大な輪郭が揺らめく。


 グラナシルが低く唸った。


――グゥゥゥウウオオ……


 白い世界が波打ち、

 龍の咆哮だけで空間が歪む。


(いい反応じゃねぇかよ……グラナシル……!)


 剣の黒靄が揺れ、

 怪物の笑みがさらに深くなる。


「いいねいいねいいねいいねいいね!!! さいっこうぅううううう!!!!」


 二つの怪物が――

 白空の中心でぶつかり合う。


 空が――震えた。


(来る!)


 グラナシルの“喉”にあたる雲の奥が、

 ぐわり、と渦を巻く。


 次の瞬間。


 ――ドォンッ!!


「っ……おおおおおおッ!!?」


 目に見えない“風の弾”が飛んできた。

 空気そのものを圧縮して放った、

 超高速の衝撃塊。


 触れた瞬間――弾は俺の体をすり抜ける。


 だが通り抜けた後の“爆風”が襲いかかる。


「ブハッ……ッがは!!」


 身体ごと後方に弾かれる。

 背中の羽がバサァ!と音を立てて揺れた。


(あぁ? 体は抜けんのに……後の風圧は効くってか……!

 めんどくせぇ体質しやがって!!)


 風が渦を巻く。

 グラナシルの黄金の瞳が細まり、

 喉奥にさらに大きな流れが集まっていく。


 ――空の温度が変わった。


「おっとぉ……本気のブレスか?」


 白い雲が、巨大な“渦の筒”に変わっていく。

 嵐を一本に凝縮したような――

 圧縮風圧のブレス。


 グラナシルの顎が割れるように開いた。


 ――ゴオオオオオオオオオオオッ!!!


「っひゃああああああああ!!? うれしいじゃねぇかァッ!!」


 風で押される。

 空間ごと押し流される。

 骨が鳴る。羽根が悲鳴をあげる。


(あっぶな……! まともに食らったら形が吹き飛ぶぜ!!)


「けどよォ……!!」


 羽をバッと広げ、

 逆流するブレスの流れを受け止める。


 ガガガガガガッ!


 音もなく空間が裂けるような圧力が襲う。


 グラナシルのブレスは実体を持たない。

 風……“ただの風”じゃない――


(押し潰しにくる“空”そのもの……!)


「イッ……ヒッ、ヒャハハハハ!!

 殺しに来てんじゃねぇかよォ!!?」


 風が一瞬途切れた。


(今だ!!)


 俺は風を蹴り、

 竜の顔の死角――左側へと一気に飛び込む。


 白い雲が裂ける。

 その奥で、グラナシルの“二つ目”がこちらを追う。


「おぉっとぉ……! そっちも見えてんのかよ!!」


 次の瞬間、

 側面の雲がギュッと縮み――


 ――パンッ!!


 風の塊が破裂し、爆風だけが飛び出す。


「ッぐはァッ!? いてぇええええ!! 横からかよ!!」


 体が派手に吹っ飛ぶ。

 しかし怪物化した体は壊れない。


 ただ、羽根が軋む。

 黒靄が散る。


(おいおい……完全に遊んでやがるな?)


 グラナシルの黄金の瞳が細まり、

 “笑った”ように見えた。


「へっ……いいじゃねぇか……!!

 遊び相手には十分すぎるぜェ……風竜ッ!!」


 白い空が蠢く。

 グラナシルの雲の輪郭がさらに大きく広がった。


 その動きに呼応するように――

 四方八方から、

 “見えない風弾”が同時に生まれはじめる。


(……全方向攻撃か!?

 どこに逃げても吹き飛ばす気だ……!)


 空気が震える。

 雲の渦が唸る。


 グラナシルのターンは――まだ終わらない。


 四方八方で空気が鳴った。


 ビキビキビキッ……!!


 見えない風弾が、同時に“膨らんでいる”。


(……はは……多すぎだろオイ……!!

 こんなん全部避けられるわけねぇじゃねぇか……)


 なら。


(全部まとめて、壊すしかねぇだろ!!)


「イヒ……イヒヒヒヒ……!!」


 笑いが止まらない。


 俺は剣を逆手に構え、

 柄のトリガーを――引き込んだ。


 ――ガチンッ!!


 刃が白空へ射出される。

 鎖が、黒靄を散らしながら無限に伸びる。


「もっとだ……!! まだ、足りねぇ……!!」


 もう一度、

 “壊す気で”トリガーを握り潰す。


 ――ギギギギギギッ!!!


 鎖がさらに黒く染まり、

 影が鎖へまとわりつき、

 まるで“生き物”みたいに脈打つ。


(よぉし……芯はできた……)


「後はぁ――」


 体を、軸に。


 世界を、巻き込む。


 ――ドンッ!!


 俺は自分の身体ごと捻り、

 伸びきった鎖の円に全身を乗せる。


 回転速度が一瞬で跳ね上がる。


 風が千切れる音がする。

 黒靄が渦を巻く。

 視界が白と黒で反転した。


「いッヒャッハハハハハ!!!!」


 鎖が竜巻そのものになり、

 その中心で“核”となる。


 黒い渦が――巨大化した。


 さっきの回転技とは桁が違う。

 軌道に触れた風が全部ねじ切れていく。


「来いよォ!! 全部まとめて踏み潰してやらァアアアア!!」


 グラナシルの風弾が、

 四方から一斉に解き放たれた。


 ――パンッ! パンッ! パンッ! パンッ!!!


 空が爆ぜる。


 圧縮した風が光すら歪めながら迫る。


「しゃあああああ!!!」


 俺は“黒い竜巻”ごと突っ込んだ。


 風弾と衝突する。


 ――ギャリィィィィィイイ!!!


 風と風がねじれ合い、

 空間がひしゃげたみたいな音が鳴る。


 黒い竜巻は、

 風弾を一つ、また一つと“喰っていく”。


「ほらほらほらほらァァァァァ!!!

 もっと寄越せぇえええええ!!」


 喰われた風の力が竜巻の渦に吸い込まれ、

 黒靄がさらに巨大化していく。


 まるで風弾を“燃料”にしているみたいだった。


(ぜってぇ止まんねぇ……!!

 このまま叩き込んでやる!!)


 黒い巨大渦が最高潮に達した瞬間――


「いぐぞおおおおおおッ!!!

 グラナシルよぉおおお!!!」


 渦を抱えたまま、

 グラナシルの顔面へ一直線に突っ込む。


 白空が爆裂し、

 黄金の瞳に黒い旋風が迫る。


 その瞬間――

 グラナシルの雲の胴体が、ぶるる、と震えた。


(……来るかァ?)


 次の一拍。


 ――グォオオオオオオオッ!!


 雲そのものが巻き上がる音だった。

 グラナシルの全身が一斉に“回転”を始める。


 白い霧がねじれ、巨大な“白い竜巻”が形成されていく。


「気に入ったか?……俺の遊び!」


 白い竜巻は、

 俺の黒い渦とは逆方向――

 “反転”して回っている。


 空間がギチギチと鳴った。

 風と風が擦れ合い、

 空そのものが悲鳴をあげる。


「……いいぜ……!!

 やっと、やっと本気で来たじゃねぇか――風竜ッ!!」


 黒い渦がさらに加速し、

 視界の縁が黒靄で塗り潰される。


 白い竜巻の中心――

 グラナシルの黄金の瞳が、

 “挑むように細まった”。


(上等だ……!!)


 ――衝突。


 ――ギャアアアアアアアアアアッ!!!


 黒と白。

 正反対の風の回転がぶつかった瞬間、

 空の骨格が砕けたみたいな轟音が轟く。


 爆風が外側に逃げず、

 二つの渦の境界で押しつぶされ、

 “動けない空気”が震え続ける。


「ヒャッハッハッハッハッ!!」


 腕が千切れそうに軋む。

 背中の羽がバラバラになりかける。


 けど――止まらない。


「もっと回れぇ!!

 もっと風ぶつけてこいよぉおおおお!!!」


 白い渦の向こうで、

 グラナシルも咆哮する。


 ――グォオオオオオオォォッ!!!


 白竜巻の回転速度がさらに跳ね上がる。

 竜の口のように見える中心部が広がり、

 こっちを“呑み込もう”としてくる。


「いいねぇ力比べ! 相手が俺じゃなきゃバラけてるぜぇえエエエエ!!!」


 黒い渦の下、

 俺の足元から黒靄が噴き上がる。


 影の連中が、

 俺の体にしがみつき、

 “回れ”“止まるな”と脈打つ。


「ヒャッハー!! 行くぞ野郎ども!!」


 鎖が軋む。

 剣が核で悲鳴をあげる。


 黒い竜巻が――さらに肥大する。


「ぶち抜けェェェェェェ!!!!」


 黒い竜巻が、

 白い竜巻の中心――

 グラナシルの“顔”に向けて押し込まれていく。


 白空を裂きながら、

 二つの渦が、中心へ中心へと寄っていく。


(押し勝つ……押し勝つ……押し勝つッ!!)


 黄金の瞳が揺れ、

 グラナシルの雲の輪郭がわずかに“ひび割れた”。


「どうしたァ!? 風の化け物ォ!!!

 俺に押されてんじゃねぇかァ!!?」


 白い渦が悲鳴をあげた。


 同時に――

 グラナシルの全身から、

 低い、震える“声なき声”が漏れた。


 まるで、


『ここまでやるとはな…人間よ…』


 そう言われたような風の震えだった。

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