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湯けむり怪異譚「ぶらぶら」  作者: 秋野きつ
第3章 変化
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第91話 凍える暑さ


 平地の少ない神辺市内だが、沿岸部には美しい砂浜が広がっている。その日、五郎らが訪れた海水浴場にも、きめ細かい砂に透明な波が打ち寄せては砕け、きらきらと輝いていた。


 お盆の時期は海に入らないよう言われるものだが、せっかくのお盆休み、海のレジャーを控えるなどあり得ない話か。人また人で混み合っていた。


 紆余曲折を経て催された海行きは、かなりの大所帯だ。スー、千里、将吾、理奈、名坂警部補、狭間巡査、五郎、佳乃、蜜柑、月子、美琴、葛音、早苗のほか、スーの兄ヤンの生霊、黒猫のジジまで。

 若い女性も多く、その水着姿にはそれぞれの良さがあり、いずれも華やかなもの。まことにかしましいが、それが良いのだという。今回の海行きの目的は妖しの出来事に結末をつけ、御門ひかりの魂を慰めること。ともに泣くよりも、元気な姿を見せ、こちらは大丈夫だと安心させてやることが大事なのだとか。

 とは言うものの、千里は楽しそうに五郎に絡んでおり、本当に慰霊の気持ちがあるのか面白がっているだけなのか。胸を押しつけるようにヘッドロックしながらいう。


「あたしの水着姿が見られるなんて役得だね。この果報者!」


「いえ、全然」


 と、平静を装う五郎であるが、そうした反応を予期していたように、


「やっぱり、ロリコンなのかい?」


「え?」


「佳乃が、どこに出しても恥ずかしくない立派なロリコンだって。自分のことも、とても大事にしてくれるって。そう言ってたぞ」


「佳乃!」


 と問い正すと、自らの失言を恥じてか、かぁっと恥じらいながら応じる。


「すみません。千里さんにも言ってました。でも、大事にしていただいているのは確かですし」


「そんなもじもじと。やめてくれる? それ、全身で肯定しちゃってるから。誤解を生むから!」


「わたくしは大事でないのですか?」


「涙ぐまないで。大事だよ、大事」


「五郎様!」


 肩に飛び乗った佳乃がその頰に抱きついた。嬉しそうな佳乃に反して、じと目の美琴に見られて冷や汗ものの五郎である。


 まあまあと治めに入ったスーは、パーカーとレギンスのラッシュガードを着ており、その肢体は少女と女性の境目、子供でもなく大人でもない、やんわりとした曲線を描いている。


「そんなにからかっては可哀想ですよ。……ところで、私はどうですか? こんななりですが、あなたより年上ですから。合法ロリとでもいうのでしょうか。如何いかがです?」


 フードの下から覗くのは、白い胸元に落ちる薄いブロンドの髪、また上目遣いの碧い目だ。思わず息を呑む五郎だが、


「冗談はさておき」


と、ふいと離れたスーが名坂警部補に問いかける。


「どうです、久し振りの海は?」


「ああ、そうだな。この暑さの中、一人だけ凍えているような、そんな最悪の気分だな」


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