第91話 凍える暑さ
平地の少ない神辺市内だが、沿岸部には美しい砂浜が広がっている。その日、五郎らが訪れた海水浴場にも、きめ細かい砂に透明な波が打ち寄せては砕け、きらきらと輝いていた。
お盆の時期は海に入らないよう言われるものだが、せっかくのお盆休み、海のレジャーを控えるなどあり得ない話か。人また人で混み合っていた。
紆余曲折を経て催された海行きは、かなりの大所帯だ。スー、千里、将吾、理奈、名坂警部補、狭間巡査、五郎、佳乃、蜜柑、月子、美琴、葛音、早苗のほか、スーの兄ヤンの生霊、黒猫のジジまで。
若い女性も多く、その水着姿にはそれぞれの良さがあり、いずれも華やかなもの。まことにかしましいが、それが良いのだという。今回の海行きの目的は妖しの出来事に結末をつけ、御門ひかりの魂を慰めること。ともに泣くよりも、元気な姿を見せ、こちらは大丈夫だと安心させてやることが大事なのだとか。
とは言うものの、千里は楽しそうに五郎に絡んでおり、本当に慰霊の気持ちがあるのか面白がっているだけなのか。胸を押しつけるようにヘッドロックしながらいう。
「あたしの水着姿が見られるなんて役得だね。この果報者!」
「いえ、全然」
と、平静を装う五郎であるが、そうした反応を予期していたように、
「やっぱり、ロリコンなのかい?」
「え?」
「佳乃が、どこに出しても恥ずかしくない立派なロリコンだって。自分のことも、とても大事にしてくれるって。そう言ってたぞ」
「佳乃!」
と問い正すと、自らの失言を恥じてか、かぁっと恥じらいながら応じる。
「すみません。千里さんにも言ってました。でも、大事にしていただいているのは確かですし」
「そんなもじもじと。やめてくれる? それ、全身で肯定しちゃってるから。誤解を生むから!」
「わたくしは大事でないのですか?」
「涙ぐまないで。大事だよ、大事」
「五郎様!」
肩に飛び乗った佳乃がその頰に抱きついた。嬉しそうな佳乃に反して、じと目の美琴に見られて冷や汗ものの五郎である。
まあまあと治めに入ったスーは、パーカーとレギンスのラッシュガードを着ており、その肢体は少女と女性の境目、子供でもなく大人でもない、やんわりとした曲線を描いている。
「そんなにからかっては可哀想ですよ。……ところで、私はどうですか? こんななりですが、あなたより年上ですから。合法ロリとでもいうのでしょうか。如何です?」
フードの下から覗くのは、白い胸元に落ちる薄いブロンドの髪、また上目遣いの碧い目だ。思わず息を呑む五郎だが、
「冗談はさておき」
と、ふいと離れたスーが名坂警部補に問いかける。
「どうです、久し振りの海は?」
「ああ、そうだな。この暑さの中、一人だけ凍えているような、そんな最悪の気分だな」




