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第86話 流しの幽霊
五郎の部屋での宴会も、そろそろお開きという段になって、歌が聞こえると名坂警部補がつぶやいた。ふらふらと流しへ近付くと、電球が明滅し、激しい音を立てて破裂する。
ぱらぱらと落ちるガラス片が、ぼんやりとした人の形をとった。小柄な少女のように見えたそれは、一瞬、陽炎のように漂い、すっと消えて行った。
「ひかり、お前なのか?」
上ずった声で投げかける言葉は排水口の奥へ吸い込まれ、しんとした部屋には割れた電球が発する火花の音だけがぱちぱちと響いていた。一座の酔いも醒め、名坂警部補の言葉を待っていた。
妖しのことに縁の深い面々だけに、詰問するようなこともない。静かに待つうちに、背筋を伸ばして座る名坂警部補が、さらりと頭を下げた。
「……迷惑をかけた。悪かったな、五郎。その電球が割れたのも、まずもって私のせいであろう」
「どういうことなのですか?」
「この面子だ。誤魔化すこともなかろう。水が怖いのは先にも話した通りだ。まだ子供の頃、海で溺れかけたことがあってな。いま思えば妙にませたところのある嫌な餓鬼だったよ。あの時、本当は私が死ぬべきだった。だが、私は生きて生き恥を晒している。ひかりは、私が殺したようなものさ」




