第80話 窓際のバカンス
童女姿の古い式神、佳乃が五郎のもとへ転がり込んで半月が過ぎた。蜜柑も含めて三人暮らしだ。佳乃と蜜柑と、喧嘩の絶えない日々だったという。
とは言え、半月もすると慣れては来るもので、ふらふらと大学へ行く五郎と一緒に講義を受けたり、図書館で本を読んだりしている。手の平サイズの佳乃の姿は普通の人間には見えず、図書館に幽霊が出るとの噂が立ったりもしたが、それはまた別の話だ。
テレビやラジオで社会勉強をしながら、炊事、洗濯、料理とまめに立ち働き、きみの湯で美琴や葛音と過ごすのが楽しみと健康的な生活を送っていた。
しかし、自らの主が誰であるのか、果たすべき使命は何なのか思い出せないその苛立ちからか、年がら年中、ぶらぶらしっぱなし、日がな一日ごろごろしている蜜柑のことが目に付くようで。小さなビーチチェアで寝転び、窓際でバカンス気分の蜜柑に向かって、
「掃除の邪魔です。おどき!」
「うっさいな。わてのとこだけ外して掃除したらええやんか。つんけんしなさんな」
「そこだけ汚なく残るでしょうが」
「どうせ建物自体が骨董品や。掃除するより、全部捨てた方が早いわな」
「なら、まずは小汚い蜜柑箱から処分します」
温州蜜柑の名前の由来ともなり、住まいともしているダンボール箱の蓋を開けようとする。
「こら、勝手に開けるんやない!」
「どうせ、ろくでもない物が入ってるんでしょ。中を見せなさい! 全部、捨ててやるんだから!」
ダンボールの縁で揉み合いになり、つるりと足を滑らせた佳乃が中に落っこちた。……あっ、と落ちていくのと目が合った蜜柑だが、
「落ちてまったなぁ。まあ、年季の入った式神らしいし、大丈夫やろ」
と、そっと蓋を閉めて日向ぼっこを再開だ。しばし時が過ぎて、ばたんとダンボール箱が開いて、涙目の佳乃が這い出してきた。
「おう、おかえり」
気楽に声をかける蜜柑を、きっ、と睨み付ける。果たして、ダンボール箱の中には何があったのか。沈黙の佳乃である。




