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湯けむり怪異譚「ぶらぶら」  作者: 秋野きつ
第3章 変化
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第76話 烏


 名坂警部補に連れられ、スーに頼まれ、安請け合いの蜜柑に引きずられ、あげく、にやりと笑う千里に捕まって。神尾五郎が何をしているかというと、儚く彷徨さまよう百年前の式神探し。本当にいるのかいないのか、頼りない話だ。


 千里がいう心当たりの場所を探して、西へ東へ、南へ北へ。あっちかな、いや、こっちだっけと、あてずっぽう丸出しで神辺市内を右往左往していたが、犬も歩けば何とやら。


「むむ、五郎、あれを見てみい!」


 と、蜜柑が指差す先にはからすの群れだ。不自然なほど真っ黒で、空に墨汁を落としたかのよう。全身、区別がつかないほど黒く、そして三本脚である。


 だが、道行く人々が気付く様子もない。果てには、一羽の烏が低く飛び、通りがかりの男性にぶつかりそうになるも、するりとその体をすり抜けた。五郎たちには見えている烏が、道行く人々には見えていない、いや、むしろ存在していないかのようだ。

 烏が小便鳥居に突撃し、べちゃりとの音もなく、壁に溶け込むように黒い染みと化した。五郎が触れてみても、ただの壁、ただの黒い染みである。


 顔を見合わせる五郎たちだが、気付くと頭上には空を覆うような烏の群れだ。音も立てず、道行く人々に気付かれもせず、獲物を狙っているような嫌な雰囲気がある。そして、一斉に下降してきた。


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