第76話 烏
名坂警部補に連れられ、スーに頼まれ、安請け合いの蜜柑に引きずられ、あげく、にやりと笑う千里に捕まって。神尾五郎が何をしているかというと、儚く彷徨う百年前の式神探し。本当にいるのかいないのか、頼りない話だ。
千里がいう心当たりの場所を探して、西へ東へ、南へ北へ。あっちかな、いや、こっちだっけと、あてずっぽう丸出しで神辺市内を右往左往していたが、犬も歩けば何とやら。
「むむ、五郎、あれを見てみい!」
と、蜜柑が指差す先には烏の群れだ。不自然なほど真っ黒で、空に墨汁を落としたかのよう。全身、区別がつかないほど黒く、そして三本脚である。
だが、道行く人々が気付く様子もない。果てには、一羽の烏が低く飛び、通りがかりの男性にぶつかりそうになるも、するりとその体をすり抜けた。五郎たちには見えている烏が、道行く人々には見えていない、いや、むしろ存在していないかのようだ。
烏が小便鳥居に突撃し、べちゃりとの音もなく、壁に溶け込むように黒い染みと化した。五郎が触れてみても、ただの壁、ただの黒い染みである。
顔を見合わせる五郎たちだが、気付くと頭上には空を覆うような烏の群れだ。音も立てず、道行く人々に気付かれもせず、獲物を狙っているような嫌な雰囲気がある。そして、一斉に下降してきた。




