第7話 疑惑の四色法則
銭湯もそうだが、神辺市は古き良き商店街が現役であることでも有名だ。五郎の住む通りから南へ下ると、そこにも商店街がある。
アーケード入り口の『水際商店街』との看板は色褪せ、今にも落っこちて来そうだが、商店街自体には活気がある。スーパーや百円ショップもあって、今日も四色法則に従って買い出しに来ていた。
五郎の胸ポケットから顔を覗かせている小さなくまのマスコットが愛らしい。それには自称式霊だか神様の温州蜜柑が宿っている。
「五郎、今日はまともに四色にすんのか?」
「なに言ってんだ。いつも綺麗な四色だっての。ごはん、味噌汁、肉、野菜ってね」
「うむうむ、バランス良くな」
と、応じつつも、そこはかとなく不安になる蜜柑だった。ごはんと味噌汁は常備分があるので、まず野菜だ。言わずと知れた優等生、もやしを購入する。意外と栄養価も高く、九割方水分とはいえ、温州蜜柑のジャッジでも、これは野菜と認めている。
次は肉だ。挽肉か成型肉、あるいは期限間近の魚、ではなく、五郎が手に取ったのは、これまた食卓の優等生、豆腐である。確かに畑の肉とも言われるが、
「それは肉やない。豆腐や」
残念、蜜柑の審査は通らず。
「ちなみに、もとは大豆な。そのもやしも大豆もやし。どっちも同じっちゃ同じやで」
「んなことはわかってるよ。豆腐はいわばマジック食材、野菜にも肉にもなる万能食材なのだ」
「んなわけあるか!」
「いーや、畑の肉であり、また野菜でもある。万能食材は、あります!」
「そんな万能細胞みたいに言われても。一気に胡散臭くなるわ。そやけど、米だけ食って生きるよりは、豆腐だけ食って生きる方がまだ生存率は高そうやな。問題は、どっちがコスパがええかやけど……」
真剣に言い募る蜜柑を黙らせる。少し離れたところに、スーパーには似つかわしくないセーラー服姿の美琴を発見したのだ。蜜柑の声は五郎以外には聞こえず、人前で蜜柑とやりとりしていては、独りで喋る危ない人になってしまう。なので、
「これ以上、変な奴と思われたくない。思わず返事してしまうから話しかけるなよ」
「ヘイヘイ、いまさらやと思うけどな。パオーン事件ひとつで、変な奴の域は、とっくに飛び越えたんとちゃうか」
「うるさい、黙れ。さわやかな体操のお兄さん的ポジションに立ってみせる!」
無理やと思うけどな、という蜜柑をポケットの奥に押し込んで美琴のもとへ向かった。




