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湯けむり怪異譚「ぶらぶら」  作者: 秋野きつ
第1章 きみの湯
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第8話 お値打ち少女


 美琴に声をかけようとした五郎だが、その厳しい表情に圧倒されて声をかけ損なった。美琴の視線の先にいるのはパートの女性店員で、手にシールを持っている。半額やら2割引きやらのシールである。


 割引きタイムまで店内をうろつく確信犯は多けれど、店員を撃ち殺すほどの視線で後を追う強者はなかなかいない。だが、狩人は時に後方への警戒が疎かになりがちだ。店員の動きを探るのに夢中で、五郎に見られていることに気付いていなかった。


 商品にシールが貼られるや否や、美琴の細い手が伸びる。しかし、コンマ数秒遅れた別の手も同じ商品を掴んでいた。同じく店員の動きを張っていた猛者がいたのだ。

 熾烈な引き合いにおいて、軍配は、後出しながら腕力に勝るおばちゃんにあがった。ところが、勝利の笑みを浮かべていたその表情が凍りつく。シールには燦然と輝く「2割引」の文字だ。

 美琴は、悠々と「半額」と貼られた商品を手にしてみせる。カルタのお手付きを誘う要領で自爆させたのである。おばちゃんは、この小娘が! と言いたげな表情で歯噛みしながら離れていった。


「……なんちゅう、くだらん戦いや」


 ポケットからひょっこり顔を出し、温州蜜柑が呆れたようにつぶやいたという。


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