第63話 幕間にて
七人様の手鏡が割られたころ、神辺市内の少し離れた場所でのことである。
Black Catsの解散ライブをしたのは、かつての異人街で、交易で栄えた神辺市の歴史をいまに残している。当時の雰囲気を残した街並みで、休日ともなれば多くの観光客で賑わう。
それを当て込んだ歓楽街からラブホテルまで。やがて普通のホテルも混じり、ビジネスホテルに役所、オフィス街へと自然につながる。その先、飾り気のないビルの一室で、妙な光景が広がっていた。
ひとつ下のフロアでは、スーツ姿でネクタイを締めたビジネスマンが忙しそうに電話に応じ、キーボードを叩いては、ごりごりと首を回している。
だが、天井ひとつ隔てた上のフロアは人気もなく、閑散としていた。降ろしっぱなしのブラインドから街の灯りが差し込み、がらんとしたフロアに並べられた色とりどりの折り紙が浮かび上がっていた。ひとつひとつ違う形に折られている。
そよとでも風が吹けば乱れて崩れる、そんな危ういバランスの上にあった。他のフロアにはない静けさが辺りを覆い、折り紙が、ぼうと燐光を発した。と見るや、そのひとつが青白い炎を発して燃え尽きた。
「燃えたね」
気配もなかったところに四十がらみの男の声、それに応じて、若いと言うには少しだけ薹の立った女の声が響いた。
「良い感じに仕上がっていましたが。誰か、あるいは何かいるのでしょうか」
「さてね。だが、穴を炙り出す役には立っているだろうよ。手駒はまだある。地道に小さな結界を壊していけば、いつかはたどり着くさ」
「はい。例の目障りな店の方は?」
「放っておく。いまは、この街に刺激を与えて均衡を崩していくことが肝要だ。まずは護りの薄いところから行こうじゃないか」
高くもなく安くもない並みのスーツに身を包み、くたびれたサラリーマンとしか見えない男が歪んだ笑みを浮かべた。
階下のオフィスで鳴り響く電話、誰かが受話器を取って応じる声、そんな当たり前の音が、ガランとした男の周囲に吸い込まれるように消えていった。




