第57話 無責任一代男
ドアを抑える名坂警部補と狭間巡査が待っているのは蜜柑の御札だ。小さなくまのマスコットが墨をする姿は微笑ましくもあるが、叩きつける風がいまにもドアを破ろうとしており、余裕なく五郎が叫ぶ。
「蜜柑、まだか! もう充分だろ」
「そないなこと言うても。ゆっくりすらんと、ええ字は書けへん」
「この後に及んで、あほなこだわりを。そんなのいいから早く書けって!」
「すまん、怒らんと聞いてぇな。ほんまのこと言うと、もう神気がないねん」
「へ?」
「墨をすりながら神気が溜まるのを待っとったんやけど、間に合いそうにないわ」
「え、だって俺だけじゃなくて、ここの全員から、その妙な力を吸い取ったんじゃ?」
「そうや。かなりの力が集まってな。ちょっとばかり調子に乗ってはしゃぎすぎた。夜空や花火の幻を見せて、いまのわては空っけつの素寒貧や。五郎はんの財布ほども力はあらへん」
「んな、な、なんだと?」
「正直やばい。どないしょ、どないしたらええ?」
「……責任をとれ、責任を!」
「すまん、すまんよ。せやけど、わての辞書に責任という文字はないんやぁ!」
半ベソ逆ギレで叫び、それを聞いた五郎は、ふっと笑って筆を奪うと、なにやら書き付けた紙を蜜柑の頭に貼り付けた。
そこに輝くのは無責任の三文字だ。
うなだれた蜜柑の背中が煤けている。ずーんと落ち込む擬音が聞こえそうだが、そんな事情に関わらず、よりいっそう激しく風が吹き、めきめきと悲鳴をあげてドアが砕け散った。




